母親に会いに
ツヴァイク家の夜会に行った二日後の事である。
「フーロル。」
弾けるような笑顔のマクシミリアンが、掃除中のフロルに声をかけて来た。
「今から、街に巡回に出かけるんだ。一緒に行かないかい?」
「ちょっと、待て!」
その言葉を耳にしたユリウスがすかさず寄って来る。
「フロルは第一隊の人間だ。どうして第五隊のおまえと行動を共にしないとならないんだ⁉︎」
「ええー、じゃあ仕方ないな。ユーリも一緒に来るか?」
「意味不明な事を言うな!」
「あの、自分は掃除と洗濯をしなくてはならないので。」
とフロルはマクシミリアンに言った。
フロルが実は『女の子である』という事がバレたのは二日前の事だ。
それ以来ユリウスとマクシミリアンの態度がおかしいのだ。
マクシミリアンは何故かいつも上機嫌で、ニコニコニコニコ愛想が良い。
元々、常に微笑みを浮かべているタイプではあったが、今は異様にテンションが高いのである。
マクシミリアンは二日前、リーリアと父親に思いっきり顔と頭を殴られた。そのせいで、脳の大切な部分がどうかなったのでは?というくらい明らかに浮かれているのである。正直言って怖い。
「マクス様はどうしてしまわれたのでしょう?」
とフロルはこっそりアレクに聞いてみた。
「そりゃあ、リーリア嬢に恋するうえで最大最強のライバルだったおまえが実は女だとわかったんだ。マクスとしては笑いが止まらないんだろう。」
「顔をグーで殴られたのに、あの人まだリーリアの事が好きなんですか⁉︎」
「リーリア嬢がマクスを好きになる可能性は銀行の利率より低いと私も思うけどな。」
あんな目に遭わされてもまだリーリアの事が好きで、頭の中がお花畑状態になっているなんて本当にわけがわからない。
大都会にはいろんな男がいるものだ。と田舎者のフロルは思った。
そして、もう一方のユリウスだが、フロルに対してものすごく過保護になったのである。
トイレ掃除やらドブさらいといった汚い仕事をしなくていいと言うし、重い物を持つなと言われたし、風呂の準備など言語道断だし。
正直、すっごく困っているんですけれど!
フロルが実は女だとユリウス達同様知っている、アレクサンデルとヴェルギールは今までと全く態度が変わらないのに、直属の上司であるユリウスがそんなでは実は女だと言う事が他の人にもバレてしまう。お願いだから今まで通りに接して欲しい。
「指の火傷が治るまでは甘えとけ。火傷が治ってもユーリの挙動が不審だったら、団長に頼んでおまえを事務隊で引き取るよ。」
とアレクが言ってくれた。
そう言われると何故かユリウスと離れるのは寂しいな、と思ってしまう。複雑な心のフロルであった。
そして話は冒頭に戻る。
「巡回を名目に、母上の所に行ってみようと思っているんだ。」
とマクスは言った。
「フロル、正直言って僕は君の兄は僕じゃないかなと思っている。」
あなただけはない。とフロルは思っていた。
フロルとフロルの兄弟の父親はグリューネバルト伯爵だ。だけど、マクスは父親であるナインハルトと顔が瓜二つだったのだ。マクスは間違いなくナインハルトの息子だろう。だからフロルの兄弟であるわけがない。
「僕達が双子でさ。だけど、家を継げるのは男子だけだ。そしてあんなめんどくさい家でフロルが暮らしてもフロルが幸せになれるわけがない。だから僕だけをツヴァイクの家に連れて行って君の事は養子に出したのでは、と僕は思っているんだ。だから母上に確認に行こうと思っている。フロル、一緒に行こうよ。」
「はあ。」
「フロルが僕の妹だったらすごく嬉しいな。僕、兄弟にすごく憧れていたんだ。ヴェルがすごく兄弟が多いから、いつも羨ましいと思っていたんだよ。」
マクスのテンションが最近高いのは、フロルを妹だと勘違いしているからというのもあるらしい。
これはさっさと可能性を潰しておいてあげないとマクスの為にならない。
「ユリウス様。私、マクス様のお母様に会って来ようと思います。」
とフロルはユーリに言った。
ユーリは二度瞬きをした。
「マクス、おまえ母親がいたのか?」
「どういう意味?僕が木の股から生まれて来たとでも思っていたの?」
「いや、母親は行方不明なのかと・・・。『あの事件』の後も別におまえに会いに来なかったし。巡回って事は王都にいるのか?どこにいるんだ。」
マクスの答えは驚くようなものだった。
「中の島。」




