馬車の中の話し合い(1)
そして、馬車の中である。
ユリウスにアレクサンデルにマクシミリアンにヴェルギール。リーリアにフロルの6人は、地獄の空気の中で馬車に揺られていた。
まるで異端審問の如き空気だ。というか、実際のところこれは異端審問なのだ。フロルという異端者が審問されようとしているのである。
口火を切ったのはアレクだった。
「一応聞くが、さっき幻覚が見えたというわけではなくて、間違いなく君は女性なのだな?」
「はい。」
「・・・・。」
「・・・・。」
アレクは眉間にシワを寄せ苦悶の表情を浮かべている。その右隣でマクスは自分の秘密がバレたかのようにオロオロしていた。リーリアとフロルと並んで座っているヴェルは苦笑いをしている。そしてアレクの左隣に座っているユーリはカンカンに怒っていた。
はー。
っとアレクは長いため息をついた。
「この件については、私にも責任がある。フロルの入団受付をしたのは私だ。私が確認を怠ってしまった、というのも事実だ。」
「いいえ、悪いのは全て私です。私が・・・。」
「一応よくない事をしているという自覚はあったんだな、おまえ。」
アレクの額に青スジが浮かんだ。
「待ってくれ!」
とマクスが会話に割って入った。
「悪いのは僕だ。僕がフロル君に女装を頼んだから。そのせいでフロル君の可愛らしさが隠しきれなくなって・・・。」
「おまえの意見は今はどうでもいいから、おまえはこの世の果てまで下がってろ!」
アレクがすごい剣幕でマクスを怒鳴りつけた。
「狭い馬車の中で大声出すなや。」
耳を手で押さえながらヴェルが言った。
「フロルお嬢ちゃんは、うちの騎士団は女の子の入団不可って知ってたんだよね?」
『うちの騎士団』に限らず、女性が入れる騎士団はこの国には無い。全国民が知っている事である。
「だから、男装してたんだよね?ならさ。一応理由があったんだろう。それを聞かせてくれよ。」
ヴェルが優しい声で言った。フロルとしてはこの期に及んで隠しておく事情もない。自分が伯爵夫人で、伯爵の娘だという事だけ隠して正直に話した。
「ほほう。」
とアレクがフクロウのような声を出した。
「つまり、君には双子の兄弟がいて、そいつは新緑騎士団事件の当事者で、養母がいない。という事なんだな。そしてそいつを探しているんだな。」
事務担当のアレクの『まとめ』は的確だった。
「はい。」
とフロルはひたすら首を縦に振り続けた。
「本当はリーリア嬢が潜入調査をするはずだったが、リーリア嬢がディムになれなかったので代わりに君が男装して潜入する事になった。と。」
「はい。」
途端にマクスの瞳が涙で潤む。
「ご・・ごめんねえ。僕があの時トイレに行ったから。だからリーリアさんがディムになれずに・・。」
「トイレは関係ねえ。おまえがローザ殿に投票した事が問題なんだ。この世の果てで猛省していろ!」
アレクが再びガーッ!と怒鳴る。
「理由はわかった。そのうえで結論を言う。フロル。騎士団を辞めろ!」
とアレクはフロルに言った。
「そんな!」
ずっと黙っていたリーリアが前のめりで言う。ヴェルがそんなリーリアを諭すように言った。
「辞めた方がいい。むくつけき男共が100人以上ゴロゴロしているような場所なんだ。その全員が高潔な人間なわけじゃない。ものすごい女好きな奴とかもいるんだ。そんな場所でフロルの身の安全を保証できない。フロル自身が筋力も体格もそこら辺の男共以上で、不埒な真似をしてくる奴を叩きのめせるというのならまだしも、フロルは荒事はからっきしだからな。」
「そうだね。」
とマクスも言う。
「こんな姑のように口うるさいアレクに毎日怒鳴られる事になるだろうフロル君の姿を想像すると僕も胸が痛むよ。辞めた方がいい。」
「誰が姑だ!ユーリ。おまえ、ずっと黙っているけどおまえの意見は?」
「・・理由とか、それが理解できるかとか関係無い。騎士団員は女人禁制というのが明文化されたルールだ。辞めるのが当然だ!」
異端審問というのは本来宗教用語ですが、それくらい雰囲気が異様という意味で使わせてもらいました(^◇^;)
話し合いはまだまだ続きます




