二日目の悲劇(1)
そのようなわけで、フロルはたった一日で実家に戻って来た。
そして翌日。グリューネバルト家所有の船は王都を出発した。船には喪服を着て顔をヴェールで隠したフロルのダミーが、ルーカスとクリス夫婦と一緒に乗り込んでいる。それをウィンクラー夫婦と一緒にフロルは見送った。ウィンクラー夫婦は今後フロルのサポートを続ける為に王都に残るのだ。
リーリアは
「お偉い衆がうち揃って伯爵夫人のお見送りをする」
と言ったが、見送ってくれたのはウィンクラー夫婦とリーリアとオトフリートさん達石屋衆だけで、屋敷の使用人達は誰一人として見送りに出て来なかった。正直、替玉がいるなら私が戻って来る必要無かっただろ!とフロルは思う。
里帰りをしたせいで、直接の上司であるユリウスとの関係がますます悪化してしまった事が憂鬱で憂鬱でたまらなかった。
長居をしていても石屋衆に不信感を与えるだけなので、フロルはさっさと騎士団宿舎に戻った。
「後からフロル様に渡したい物があるんです。」
とウィンクラー夫人に言われていたな。
という事を思い出したのは騎士団宿舎に戻って来た時だった。
いったい何だったのだろう?
ま、いいか。ものすごく重要な物だったら後日届けに来てくれるだろう。
と思ってフロルは頭の中からウィンクラー夫人の言葉を弾き出した。今はとにかく、ユリウスに謝罪したくて他の事に意識が回らなかったのだ。
30分後。
フロルは、その件を死ぬほど後悔した。
粉雪が舞う寒さの中、フロルは走って宿舎に戻って来た。ぜーぜー、と息を切らしているとフロルは井戸の側で水汲みをしていたユリウスにバッタリ会った。
隊長自ら、井戸の水汲みっ!
フロルは衝撃を受けた。
こんな下っ端仕事を隊長であるユリウスがやっているのは、本来それをやるべきであったフロルが不在だったからだ。
「すみません、私がやります!」
と言ってフロルは頭を直角に下げた。
ユリウスはかなり長い時間、黙り込んでフロルの頭頂部を眺めていた。
「・・・・。」
「・・・・。」
「グリューネバルト伯爵夫人は・・。」
とユリウスが呟いたので、フロルはドキッとした。
まさか、私がグリューネバルト伯爵夫人だって事がバレた⁉︎
さっきまで全速力で走っていた事もあって心臓がバクバク言っている。緊張と不安のあまり、フロルは心臓が口から飛び出て来そうだった。
「・・いや、いい。」
とユリウスは言って、井戸のポンプを上下させ始めた。そこまで言ったのならお願い言って!ものすごく気になるからっ‼︎
「あの、レーステーゼ隊長。水汲み代わります!」
「いや、それよりかまどでお湯を沸かしてくれ。これから風呂に入るから。この気温だと湯がすぐに冷めるだろうから補充のお湯を用意してもらいたい。」
「承知しました!」
フロルは元気いっぱい返事をした。
・・・・。
勘の良いかたは、既に剣呑な雰囲気を感じ取っておられるかもしれない。
しかし、フロルは頭は良いのだが勘の良い人間ではなかった。なので、ユリウスのお役に立とう。何としても立ちたい。という事以外の事をこの時考えていなかった。その考えが脳内の100%を占めていた為、ごくごく基本的な事が脳内からこぼれ落ちていた。
人は誰しも、風呂には裸で入るという事を。
フロルは何も考えずにかまどで湯を沸かし、それを桶に入れて
「失礼しまーす。」
と言って風呂に入った。
そして、フロルを男だと信じきっているユリウスは別に抵抗もなくそれを受け入れた。
そしてその段階に至ってフロルは現実に気がついた。自分がうっかり入ってしまった場所が風呂でユリウスが全裸で入浴中だという事を!
「うっきゃあああああーーっ!」
フロルは団舎中に響き渡るような悲鳴をあげた。




