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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第四章 新緑騎士団第一隊

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一日目終了

というわけで。、平穏のうちにお湯をゲットできたフロルは、お湯を手にして洗濯場へ戻って行った。


その後ろをリーリアと、なぜかアレクまでついて来た。


「ところで、何かあったの、リーリア?」

自分は第一隊に配属されたという事を説明した後、フロルはリーリアにそう聞いた。


「うん・・・。ところで、あんたこんなにたくさん洗濯してるの?」

「新人なんだから当然だよ。それに洗濯好きだから嬉しいんだ。剣の素振り千回とか言われたら泣いちゃうところだった。」


洗濯は、汚れが落ちたのが、はっきり目で見えるところが好きなのだ。結果がわかりやすいのである。

それに比べて素振りを千回やったら何が見えるというのだろう。


「・・それは良かったわね。それより、あんたさ。明日の午後からグリューネバルト邸へ戻って来れる?」

「来れるわけないでしょ。今日来たばっかりなんだよ、ここに。」

「何かあったの?」

とアレクがリーリアに聞いた。と、そしたらば。


話し声に気がついたのだろう。ユリウスが部屋の窓を開け、部屋の中からこちらをのぞいてきた。ユリウスはリーリアに気づき、一旦窓を閉めてから建物の外に出て来た。


「こんにちはユリウスさん。」

とリーリアは笑顔で挨拶をした。

「今聞いたわ。フロルはあなたの隊に入ったんですってね。ところでお願いがあるの。明日の午後から半日ほどフロルを実家に帰らせてあげてくれない?」

リーリアは胸の前で手を組みそう言った。フロルは慌てた。

ついさっき、ユリウスを怒らせる発言をしたばかりなのに、ユリウスの機嫌がますます悪くなりそうな事を言うのは勘弁して欲しかった。


「ちょ・・ちょっと、リーリア!」

「明日、伯爵夫人がグリューネバルト領へお帰りになられるのよ。」

「はあっ⁉︎」

とフロルは言った。

グリューネバルト伯爵夫人がグリューネバルト領に帰るって意味がわからない?

グリューネバルト伯爵夫人ってワタシじゃないか!

私は帰る予定なんかないし、グリューネバルト領に帰れと言われても今は絶対帰らない!


「で、グリューネバルトのお偉い衆はうち揃って、伯爵夫人のお見送りをしなくちゃいけないの。フロルはね。ウィンクラー夫婦の養子も同然の立場だから、それに出ないってわけにはいかないのよ。そりゃあ、ここにはここのルールがあるって事、私は一応わかっているわよ。でもね。グリューネバルトのようなド田舎の人達の中には、都会のやり方をわかっていない人も多いのよ。騎士団に入った。それが何?グリューネバルトにゃグリューネバルトのしきたりっつーモノがあるんだよ。って感じで、これを無視すると別に伯爵夫人は怒りゃしないわよ。でも、むかーっとくる人もいて、フロルやウィンクラー夫婦が村八分になっちゃうのよ。」


そう言ってリーリアはちらっとユリウスを見た。


「それでなくても、あなた達四人が、馬を贈った後御礼も言いに来なかった。ってんで新緑騎士団に入ったフロルの事を白眼視している人もいるんだよね。だから、お願い!ここはウィンクラー夫婦の顔を立てると思ってさ。」


「今すぐ帰れーーーっ!」

とアレクが叫んだ。


「えっ!そ・・それは、つまりもう戻って来るなという・・・。」

「違うっ!いいから伯爵夫人を誠心誠意、真心を込めて送り出して来い。なっ!いいだろう。ユーリ。」

「・・・・。」

ユリウスが無言でうなずいていた。顔色が真っ青だった。


こ・・怖い。リーリアが余計な事を言ったせいだ。っつーか誰だよ。私を白眼視している人って?私が騎士団に入った事を知っているのってウィンクラー夫婦とルーカスとクリスティーネとリーリアだけじゃないか?

ウィンクラー夫人は勿論、ルークとクリスも快く私の事を送り出してくれて、反対していたのはウィンクラー氏唯一人じゃないか。


「じゃあ、まあ、とにかく洗濯を済ませてから。」

「それはいいから帰れ。」

「いや、でも。」

「しょうがないなあ。」

とリーリアが言った。


「私も手伝うわ。そしたら、早く終わるでしょう。」

「いや、いいよ」

「遠慮しないで。」

「遠慮じゃないよ。」


実はグリューネバルト領に住んでいた頃、リーリアの母親が洗濯をフロルに押し付けてリーリアに手伝わせなかったのにはわけがある。

実の子のリーリアが可愛かったから。とか、そんな理由ではない。むしろこの母娘はサルとイヌくらい仲が悪かった。


リーリアが馬鹿力の持ち主で、丁寧さとか繊細さがやや足りない人間だったからである。


そんな人間が洗濯をすると、汚れが落ちてなくても気にしないし、ものすごく適当にすすぐし、シワだらけになる干し方をするし、それに何より・・・。


「あー、破れたーーっ!」


力いっぱい洗ったり絞ったりするから、破れるしっ!


フロルは頭を抱えた。

お願いだから、ここでの私の立場をこれ以上悪くするなーっ!

と叫びたかった。


そうして、フロルの正式見習い一日目は暗雲と共に過ぎ去ろうとしていたのだった。

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