姉妹喧嘩
皆の親切に心も軽く、フロルは鼻歌を歌いつつ洗濯に励む事にした。
洗濯物の中には下着もあるようだ。しかし、そんな事なーんにも気にならない。フェリックス家で働いていた頃、フェリックス家の宿屋に泊まった男性客の下着やフェリックス氏の下着だって洗っていたのだ。
こんな物、所詮ただの布。中身が入っているわけでもないのにびびっててもしょうがない。
ただ、今は真冬。いくら井戸水でも水は結構冷たかった。
すすぎの方は仕方がないとしても、洗いの方だけでもお湯が欲しなあ。とフロルは思い浴室へ向かった。
浴室は石造りになっている。石でできた湯船に水を入れ、よく焼けた石を入れてお湯にするのだ。石を焼いたり補充用のお湯を沸かす為に、浴室の外側には、かまどがついている。
そこでお湯を沸かそうと思い歩いていたら、聞き慣れた声が聞こえてきた。
一人は、またしてもローザだった。そして何と何と。
もう一人の声はリーリアだった。
「デイムのコンテストを落ちたあんたが、こんな所で何してるのよ。未練がましいマネは見苦しいからやめたら。あんた、みんなに笑われてんのよ。」
見苦しいマネをして笑われているのはローザの方なのに、そのうさを妹に八つ当たりして晴らしているようだ。
「用があるから来てるのよ。こんな騎士団、未練なんかないから!」
「フロルに用ってわけ?あの女、こんな所で何してんの?」
「グリューネバルトの将来に関わる重要任務よ。姉さんには関係無いわ。」
「どういう任務よ?」
「関係無いって言ってるでしょ。」
「はん!しらじらしい。よくそんな馬鹿げた嘘がつけるもんだわ。重要任務なんて嘘でしょ。フロルなんかが、そんな事に関係できるわけないじゃない。そんな事言って、あんた本当はマクシミリアンを狙っているんでしょ。」
「はあっ!」
「あんたが好きそうなタイプだもんね。なまっちろくて人形のようで、全然男臭さの無いタイプ。生々しい男は怖いんでしょう。でもダメよ。そういう男はあんたみたいな女に興味は無いの。彼が好きなのは私みたいな女。残念だけど、死ぬまで付き纏ったってあんたなんかにマクシミリアンは振り向いたりはしないわよ。哀れなもんね。」
「あんな奴に未練も興味も無いわよ!勝手な空想やめてくれる!」
と叫んではいるが、顔には『図星』と書いてある。
いや、マクシミリアンを狙ってうんぬんの方ではなく、好きなタイプについての方であるけれど。
フロルにもわかる程度の事、ローザにわからないわけもなく、ローザは馬鹿にしきった表情で大笑いを始めた。
その笑い声に、リーリアはますます意地になった。
「ここへ来ているのは大切な調査の為よ。フロルはグリューネバルトの命運を握る情報を調べているのよ。」
「嘘ばっかり。」
「本当よ。」
「じゃあ、何を調べてるのか言いなさいよ!」
「そんな事、あんたに言えるわけないじゃない。」
「やっぱり嘘なんだわ。あはははは!」
いかん。このまま舌戦を繰り広げていても、リーリアに逆転の可能性は全く無い。リーリアが言ってはならない事を言い出す前にケンカをやめさせなくては。
「リーリア、来てたの?」
フロルは物陰から顔を出した。
「・・・フロル。」
「どうしたの?屋敷の方で何かあったの?」
ケンカに水をさされて、リーリアは少し落ち着いたようだ。
「う・うん。あの・・。」
「大事な話?じゃあ、こっち来て。」
フロルにだって、ローザと口喧嘩をして勝てる自信は全く無い。こういう時は逃げるが勝ちだ。しかし。
「待ちなさいよ。」
とローザがドスの効いた声で言ってきた。
どうしよう?走って逃げても追いかけて来そうだ。
と、そしたら
「あれ、リーリア嬢。来てたのか?」
と向こう側から声がした。アレクが本を手にして歩いて来ていた。
ローザが邪悪な微笑みを浮かべた。
「ねえ、アレク様。」
「アレクでいいよ。」
「アレク。リーリアはね。この騎士団の秘密を何か調べに来たのですって。」
うっ!とリーリアは言葉を詰まらせ、ローザを睨みつけた。
「怖いわねえ。この騎士団を敵視している誰かに情報を売りつける気かしら?自分がデイムになれなかったものだから逆恨みしているのね。」
アレクはリーリアを見て、そしてまたローザに視線を戻した。
「別に、人に知られて困るような情報、うちの騎士団には無いですよ。あなたの悪虐以外には。」
・・・ローザは顔を怒りで真っ赤にして、またどこかへドスドスと行ってしまった。
この騎士団の方々の毒舌を見習わなくては。しみじみとフロルはそう思った。




