新緑騎士団へ
「でっ?何がどうなったんですか?」
館に帰る途中の馬車の中で、フロルはウィンクラー夫婦にそう尋ねられた。
黙っていても仕方がないので、フロルは正直に話した。
実はフロルが広場へと入った入り口は、一般入場用の入り口ではなく『騎士見習い志望』の受付窓口だったのである。フロルはそうとは知らずに、新緑騎士団の騎士見習いとして登録してしまったのだ。
「全然気がつかなかったのですか?」
「はい。だって、トイレに行きたくて他の事何も考えてる場合じゃなかったんですもの。」
「で、ちゃんと誤解は解いたのでしょうね。」
ウィンクラー氏にそう聞かれ、フロルは口ごもった。
「それが・・。」
「それが?」
「私そのまま、登録して来ちゃったんです。」
ウィンクラー氏がのけぞった。
「だって!新緑騎士団について調べたいのだったら、中に潜り込むのが一番じゃないですか。ちょうど、いいやと思って。」
「何考えてるんですか、あなたはーーーっ!」
ウィンクラー氏が吠えた。
「潜り込むって、騎士団というのは男しかいないんですよ。しかも、ほとんどが未婚の若い男なんですよ!そんなところに潜り込もうなんて、何考えてるんですか⁉︎若い女性のする事ですか。あなたに何かあったら、私達は亡き伯爵様にどう申し開きをしたらいいのですか⁉︎」
「そうですよ、フロル様。」
とルーカスも言った。
「確かにフロル様の男装はなかなかのものですし、疑いもしない新緑騎士団員も、まあ仕方がないかなと思いますけれど、それでもやっぱり女性としての色香や可愛らしさというものは滲みでるものですよ。あまりにも危険です。何かあってからでは遅いのですから。」
「あんたとクリスみたいに?」
ウィンクラー夫人にそう言われて、ルーカスは激しくむせた。
どういう意味だ⁉︎
フロルとリーリアは、好奇心から身を乗り出した。いったいこの夫婦の過去に何があったのか?
「いいじゃないの。面白そうで。」
ウィンクラー夫人がそう言うと
「何が面白いんだ!」
とウィンクラー氏が怒鳴りつける。まあまあ、とクリスが間に入って来た。
「ところで、フロル様は剣術や乗馬が出来るのですか?」
とクリスが聞いた。
「いえ、全然。私もそう新緑騎士団の人達に言ったんですけれど。」
「けれど?」
「別にかまわないと言われたので。」
「そうですか。」
「というか、すぐ騎士見習いになれるわけではないんです。まず、二週間ほど騎士見習いの見習い期間があって。それに合格したら、正式に騎士見習いになれるんです。
私は運動神経もニブいし、要領悪いし、たとえ本当に男だったとしても絶対騎士見習いになんかなれっこないと思います。だからどうせ、潜り込むと言っても二週間っきりの事になるのだから、それくらいの間なら何とかなるんじゃないかな、と思って。」
「なるわけないでしょうが!絶対に駄目です‼︎」
ウィンクラー氏はなおも叫んだ。が。
「いいじゃないですか。フロル様、頑張ってくださいね。」
とウィンクラー夫人はすっかり応援モードである。
「だって、リーリアがデイムになれなかったんですもの。次の手を考えなきゃいけないじゃないの、あなた。」
「だからと言って、フロル様がそんな事をする必要はない。方法なら他にも・・・。」
「あるの?じゃあ、今すぐ言ってくださいな。ほら、今すぐ。・・無いんでしょ。これから考えなきゃいけないんでしょ?ぼさぼさ考えていたら二週間なんてすぐに過ぎるわよ。それなら、その二週間の間行動をしておいた方がいいじゃない。あなた。時は金なりなのよ。」
「おまえ、この前は二、三ヶ月くらいどうって事ないって・・・。」
館に戻るまでの短い時間で勝敗は決しようとしていた。
ウィンクラー夫人はいつだって不敵で無敵なのだ。
「絶対の絶対に無茶をしないでくださいよ!」
ウィンクラー氏は半泣き状態である。
「とにかく。若い男というものは皆、獣なのです!絶対に女性とバレないよう気をつけてください。まあ、フロル様の体型で、バレる可能性は絶対無いと思いますが。ああ、しかし心配だ。グリューネバルト伯爵夫人ともあろう御方が、男の格好をして騎士団に入り込むなんて。そんな事がバレたら伯爵家の威信が地に落ちてしまう。フロル様。たとえたった二週間でも危険です。やっぱりやめませんか?」
と、言い続けるウィンクラー氏をフロルは無視し、翌日小さな荷物一つを持って、新緑騎士団の団舎へと向かったのであった。
いつも読んでくださってありがとうございます。
第二章完結です。
第三章では、男装したフロルによる兄弟探しが本格的に始まります。
これからもフロルと作者をよろしくお願いします^_^




