新たなるデイム(2)
フロルは広場の方へ走り出した。
広場へ行くと中央にちょっとしたステージがあり、七人の女の子が立っていた。
フロルは、おおっ!と思った。
いずれ劣らぬ美少女達だ!七人もそろうと眩しいほどである。『普通』以下の容色のフロルとしては、圧倒されてしまい、思わず後ずさってしまった。
しかし、その中でもやっぱりリーリアが一番の美少女に見え、ローザに一番嫌悪感を感じるのはフロルの偏見であろうか。
他の五人に順位をつけようとして、困難なものをフロルは感じた。
何というか、顔立ちといい雰囲気といい、とても五人の少女達は似ているのだ。髪型まで同じである。
そして五人そろって、皆雰囲気がジゼルに似ているのだ。
たぶん髪型といい、化粧といい、ドレスの趣味といい、皆ジゼルに似せているのだろう。
その点、リーリアとローザはその五人とは一線を画している。
他の五人が、髪を後ろに一つで結んでいるのに対し、リーリアはサイドテールにし、ローザはハーフアップにしている。
他の五人が全員金髪なのに、ローザは黒髪、リーリアは銀髪だ。五人全員が全く同じ髪色というのは、明らかに妙だ。たぶん染めているのではないだろうか?ジゼルと同じ髪色に。
「フロル様。ようやく見つけた!」
後ろから声がして振り返ると、クリスとルーカスが立っていた。
「ウィンクラー夫婦はあちらですよ。行きましょう。」
ウィンクラー夫人の所へ行くと、ウィンクラー氏は握り拳が入りそうなほど大きく口を開けて、ぽかーんとした。
「フ・・フ・・フ。」
笑っているわけではない。
「フロル様ーっ!何してるんですか⁉︎そんな格好で、あなた。」
「ちょっと、あなた。大きな声を出さないでよ!せっかく変装しているのに、周囲の人にフロル様の事がバレるじゃないの。」
「変装させたのは、おまえかあっ!」
明らかに血圧が上昇しているであろうウィンクラー氏に軽く会釈をして、フロルはウィンクラー夫人の横の席に座った。
「もう開票なんて早いですね。私、びっくりしちゃった。」
「フロレント様。男の子が、そういうなよなよした話し方をしてはいけませんよ。」
「す・すみません。」
フロルが頭を下げると、ウィンクラー夫人はクスッと笑った。
「コンテストと言っても、水着審査をしたり一発芸を披露したりするわけではありませんからね。とりあえず、ステージ上に並んで自己紹介するだけで。正直、誰に投票するかは、もうみんなとっくに決めてると思いますよ。今回の舞台は形式上の事でしょう。」
「そうなんだ。」
投票箱に入れられた紙が一枚ずつ広げられ、名前が読み上げられていく。今のところ、リーリアはけっこういい感じだ。しかし、ローザが追いすがっている。
「団員って、全部で何人いるんですか?」
「投票に参加する正騎士は85人ですって。」
騎士団のデイムに選ばれるには、一位になると同時に過半数の得票を得ないとダメなのだそうだ。
つまり43人以上である。
誰も43人以上の得票を得られなかった場合、上位二人によって決選投票が行われるらしいのだが・・・。
結果。
少女Aが3票。少女Bが3票。少女Cが3票。少女Dが2票。少女Eが2票。そしてローザが36票。リーリアが36票。
「あや・・。」
間の抜けた声をフロルは発した。これはまた、なんと、まあ。
「決選投票って事ですか?」
この場合ポイントとなるのは、他の少女達に入った13票の票の行方だろう。これは、けっこうな接戦になるかも。
「これはドキドキしますね。」
「ところでフロル様。」
「はい?」
「あなた、ここまで手ぶらで来たんですか?」
ウィンクラー夫人にそう言われ、フロルは気がついた。
トイレの側にカバンを忘れて来たーっ!
「とりに行って来ます!」
「もう無いと思いますよ。絶対、盗まれてますって。」
「でも、もしかしたらあるかもしれないし。」
「無い方に銀貨一枚。」
ウィンクラー夫人を無視してフロルは、トイレへと走った。側の木の下に行ってみると。無論カバンは無かった。
なんてこったっっっ!
フロルは必死になって、その周辺を探した。文字通り、草の根分けて探したのである。
「無い、無い、無い・・・。」
「何かお探し物ですか?」
はいつくばって探していると、頭上から声をかけられた。
顔を上げると、黒髪の青年が立っていた。




