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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第二章 王都へ

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新たなるデイム(1)

そして翌日。


降り続いていた雪もやみ、雲の間から日も射して、どことなく風も暖かい冬の一日となった。


童話本の挿し絵のように可愛いドレスを着たリーリアが、用意された馬車へ入って行く。その様子をフロルは窓から見ていた。

ウィンクラー氏に、フロルはついて来てはダメ。と言われてしまったのだ。


「フロル様が。新緑騎士団員に馬を贈ってまだ一ヶ月も経っていないのですよ。それなのにフロル様が新緑騎士団員の周りをうろちょろしたら、悪評のモトとなります。」


それはそうかもしれないが、でもひどすぎる!

すっごく、すっごく行きたかったのに!今日という日をものすごく楽しみにしていたのに!

リーリアもウィンクラー夫婦もルーカスもクリスも出かけちゃったのに、一人で寂しくお留守番だなんて。


まるで童話の『サンドリヨン』だよ。とフロルは思った。

舞踏会へ行くのを楽しみにしていたのに、意地悪な継母と義姉達に置いてきぼりにされてしまうサンドリヨン。

童話だったら、小鳥さんが教えてくれた木の下に行くと美しいドレスがあって舞踏会へ行けるのだけど。


そう思いつつトボトボ歩いて自分の部屋へ行くと、ベッドの上にヒヨコのぬいぐるみが置いてあった。ヒヨコは座布団のように紙をおしりの下にひいている。その紙を手にとると

『ベッドの下を見てください』

とウィンクラー夫人の筆跡で書いてあった。ベッドの下を覗き込んでみると箱が一つ置いてある。開けてみたらその中に入っていたのは・・・。


「服だ。」


しかし、そこに入っていたのは美しいドレスではなかった。

白いシャツ。カーキ色のズボンとベスト。黒の男性用ショール。そして、短い髪のかつら。


変装・・というか男装しろ、という事なのだと思われる。


フロルは嬉しかった。さすがはウィンクラー夫人だ。フロルの悲しい気持ちをわかってくれたんだ!

ウィンクラー氏にバレたら邪魔されるに決まっているので、こういう風に用意してくれていたのだろう。ヒヨコのぬいぐるみを目印にしているのは、明らかにサンドリヨンのパロディーである。冗談好きのウィンクラー夫人らしいユーモアだった。


フロルは素早く着替えてかつらをかぶり、他の使用人達に見つからないよう外へ飛び出した。

新緑騎士団の団舎がある場所を知らないけれど、第二地区というのはわかっているし、そこまで行って人に聞けばきっと辿り着けるだろう。

これが童話のサンドリヨンだったら、外に馬車があるのだけど。

と思いつつ外へ出たら、馬車が一台停まっていた。その側にクリスとルーカスが立っている。


「フロル様ー。」

とクリスが手招きをした。

どうやら、これもウィンクラー夫人の手配なのだろう。

フロルは喜んで馬車に飛び乗った。



騎士団の団舎の周辺はすごい騒ぎだった。

見物客やら観光客やらであふれかえっていて、食べ物を売る屋台までなぜか出ていて、大変な賑やかさだ。

これだけ賑やかだと、スリやらかっぱらいに気を付けないとならないだろう。フロルはカバンをきゅっと握りしめた。


カバンの中には財布とハンカチ。それに本が一冊。あと、ミゼル家が騎士の家系である事を証明する家紋入りのメダルが入っている。

もしかしたら、普通の平民は立ち入り禁止という事もあるかもしれないので、一応持って来たのだ。


団舎には楽々入れたが、中央のコンテストをしている広場へ入る為の門は長蛇の列だった。それをチラッと見てフロルはクリスに言った。

「私、ちょっとお手洗いへ行って来ます。先に中に入っていてください。」


ところで。


今の自分は男性用トイレに入るべきなのか?女性用トイレに入るべきなのだろうか?フロルは、しばし悩んだ。悩みながら『トイレ』という字と矢印の書かれた看板を辿って行くと、広場へ入れる入り口があって、そこには人が二人しか並んでいなかった。


なんで?と思いつつ寄って行くと、入り口の側の長机の側に座っていた青年が声をかけて来た。


「あんたも入りたいの?」

「は・・はい。」

「じゃあ、この書類に、名前と年齢と住所と出身地と両親の名前を書いて。」


・・・。

どうして、そんなに詳しく書かなければならないのだろうか?

まあ、そんなだから、さっきの入り口はあんなにも混んでいたのだろうけれど。


フロルが言われた事を書いていると

「階級を証明する物を見せて。」

と言われた。やっぱり必要だったか。と思いつつメダルを見せる。青年は、それをじっと見つめた。


青年は栗色の髪に栗色の瞳をしていた。キリッとした表情をした知性的なハンサムだが、きつく結ばれた口元にやや神経質な感じを受けた。いかにも、できる男って感じの人だ。

こういう人は、できない人やトロい人やニブい人に甚だしく不寛容であったりするケースが多いので、気をつけて行動しなくてはならない。


フロルは誤字脱字が無いよう、気をつけて書類に記入した。


「フロレント・ミゼル。17歳。出身はグリューネバルトか。」

「あの・・もういいですか?その・、お手洗いに行きたくて。」

「ああ、どうぞ。この門を入ってすぐ左側にあるから。」

「ありがとうございます。」


フロルは返してもらったメダルをズボンのポケットにしまい、中に入った。

男性用に入るか?女性用に入るか?と悩む必要は全く無かった。兼用トイレだったのである。というか、元々女性トイレという物が無いのかもしれない。デイム以外、女性のいない場所なのだから。


カバンを側にある木の下に置き、フロルはトイレに入った。


手を拭きつつ外へ出ると「開票始まるって。」と言いつつ走って行く人達が見えた。まずい!早く行かなければ終わってしまう。

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