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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第二章 王都へ

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新年祝賀パーティー(4)

フロア内に美しい音楽が流れ出した。


どうやらダンスの時間になったようだ。万が一にも誰かにダンスに誘われたりしないよう、フロルはマリーンシェルド伯爵の側ににじり寄った。フロルは踊れないのである。


人の輪の真ん中で王太子とジゼルが手を取り合って踊り出した。

ダンスの技術の良し悪しがわからないフロルでも、二人はけっこうダンスが上手い、と言う事がわかった。何というか、ものすごく華があるのだ。


ローゼンリール夫人と若い男も踊り始めた。

誇らしそうにふんぞり返った若い男は、巧みなリードでローゼンリール夫人を輪の中央へ連れて行く。だが、勿論王太子は場所を譲らない。

二組の男女の間に激しい火花が散っているのが、フロルには見えるような気がした。そのうち事故を装って、足を引っかけたり、殴り合いをしたりするのではあるまいか。

「パーティーという奴は好きになれない」と言っていた、リーリアの気持ちがフロルにはよくわかった。


音楽がやみ、ダンスが終わる。とりあえず殴り合いは起こらなかった。


再びファンファーレが鳴り響く。

「あー、うるせ。」とマリーンシェルド伯爵が呟いたのをフロルは聞き逃さなかった。


「何が始まるのですか?」

「新人紹介だよ。」

親が死んだり隠居したりして爵位を継いだ者。結婚して貴族の一員になった者、それに社交界デビューをした若い少女達。そういった人達が他の貴族に紹介されるのだ。


「貴女も喪中でなければ、彼らに混じって挨拶しなきゃいけないところだね。」

「しないですんで良かった。」

「何言ってんだね。来年の新年パーティーでは、挨拶しないと駄目なんだよ。」


誇らしげな表情の者。雰囲気にのまれて蒼ざめている者。表情は様々だ。

必ず、後見人風の貴族が後ろについているが、それが逆に緊張の元らしい。フロルよりも年下と思われる少女が歩いていてひっくりこけ、太ももまで丸出しで倒れていた。意地の悪い人達がくすくすと笑っていて、フロルは嫌な気持ちになった。


「大変だなあ。ホール中の人達に注目されて。」

「今、ホール中の人間に注目されているのは私達二人だよ。」


全員の紹介が終わったが、全員の名前は覚えきれないと、フロルは思った。すごい美男子も好みの男性もいなかった。


ホールに再び音楽が流れ出した。ホール内の人々がまた、男女ペアになって踊り出した。


「さて、と。」

と言いつつマリーンシェルド伯爵は立ち上がった。

「帰るとするか。」

「えっ!帰るんですか?」

思わずフロルは聞き返す。


「そうだよ。」

「まだ始まって一時間も経っていませんよ。」

「強制参加なのは新人紹介までだからね。。後は自由参加だから、毎年遠慮しているんだ。」

「という事は、私も帰っても良いのでしょうか?」

「そりゃ、かまわないだろう。」

「じゃあ、私も帰ります!」


こういう、なかなか帰りにくそうな集まりの場合、帰るという人がいたら一緒に帰るのが一番利口な帰り方である。

フロルはマリーンシェルド伯爵について歩き出した。


フロル達の方を見ていた何人かの人達が慌てた表情をした。

見ていた人達のほとんどがフロルと、そしてそれ以上にマリーンシェルド伯爵と話がしたかったのだ。それなのに帰ろうとしているので、皆慌てたのだろう。何人かの人間が駆け寄ろうとしたが、マリーンシェルド伯爵がドアをくぐる方が早かった。


「あの、伯爵様。良かったのでしょうか?国王陛下も伯爵様をじっと見ておられましたよ。」

フロルは、伯爵の後をついて歩きながら話しかけた。


「国王陛下とくらい話をするべきだったのでは・・。」

「どうして?私と彼は友達じゃないよ。」

「はあ。」


見事な人だと思う。世の中には、これだけはっきり情が切れる人ってどれだけいるんだろう。


「フロル様ー!」

後ろから声がした。ウィンクラー夫婦が急いでフロルを追いかけて来たようだった。

フロルは、振り返って立ち止まった。伯爵も歩を止めている。


フロルは伯爵に聞いてみた。


「明日はどうされるのですか?」

「もう、ここへは来ないよ。今日中に避寒地に行くからね。真冬の王都は寒くてやっていられないよ。」


という事はもう会えないという事だ。


「伯爵閣下、どうもありがとうございました。伯爵様のおかげで、今日を何とか乗り切れました。」

「うむ。感謝しなさい。そして必ずや美女に化けて恩返しに来なさい。昔話の動物のように。」


・・それってつまり、私がブスだとディスってます?


もしも病弱という話のこの従叔父が、今年中に死んでしまったら、今のが、言ってもらえた最後の言葉って事になる。


グリューネバルト伯爵の最後の言葉よりひどいな。とフロルは苦笑いした。

総合評価が100ポイントになりました。

とってもとっても嬉しいです(^◇^)


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