新年祝賀パーティー(4)
フロア内に美しい音楽が流れ出した。
どうやらダンスの時間になったようだ。万が一にも誰かにダンスに誘われたりしないよう、フロルはマリーンシェルド伯爵の側ににじり寄った。フロルは踊れないのである。
人の輪の真ん中で王太子とジゼルが手を取り合って踊り出した。
ダンスの技術の良し悪しがわからないフロルでも、二人はけっこうダンスが上手い、と言う事がわかった。何というか、ものすごく華があるのだ。
ローゼンリール夫人と若い男も踊り始めた。
誇らしそうにふんぞり返った若い男は、巧みなリードでローゼンリール夫人を輪の中央へ連れて行く。だが、勿論王太子は場所を譲らない。
二組の男女の間に激しい火花が散っているのが、フロルには見えるような気がした。そのうち事故を装って、足を引っかけたり、殴り合いをしたりするのではあるまいか。
「パーティーという奴は好きになれない」と言っていた、リーリアの気持ちがフロルにはよくわかった。
音楽がやみ、ダンスが終わる。とりあえず殴り合いは起こらなかった。
再びファンファーレが鳴り響く。
「あー、うるせ。」とマリーンシェルド伯爵が呟いたのをフロルは聞き逃さなかった。
「何が始まるのですか?」
「新人紹介だよ。」
親が死んだり隠居したりして爵位を継いだ者。結婚して貴族の一員になった者、それに社交界デビューをした若い少女達。そういった人達が他の貴族に紹介されるのだ。
「貴女も喪中でなければ、彼らに混じって挨拶しなきゃいけないところだね。」
「しないですんで良かった。」
「何言ってんだね。来年の新年パーティーでは、挨拶しないと駄目なんだよ。」
誇らしげな表情の者。雰囲気にのまれて蒼ざめている者。表情は様々だ。
必ず、後見人風の貴族が後ろについているが、それが逆に緊張の元らしい。フロルよりも年下と思われる少女が歩いていてひっくりこけ、太ももまで丸出しで倒れていた。意地の悪い人達がくすくすと笑っていて、フロルは嫌な気持ちになった。
「大変だなあ。ホール中の人達に注目されて。」
「今、ホール中の人間に注目されているのは私達二人だよ。」
全員の紹介が終わったが、全員の名前は覚えきれないと、フロルは思った。すごい美男子も好みの男性もいなかった。
ホールに再び音楽が流れ出した。ホール内の人々がまた、男女ペアになって踊り出した。
「さて、と。」
と言いつつマリーンシェルド伯爵は立ち上がった。
「帰るとするか。」
「えっ!帰るんですか?」
思わずフロルは聞き返す。
「そうだよ。」
「まだ始まって一時間も経っていませんよ。」
「強制参加なのは新人紹介までだからね。。後は自由参加だから、毎年遠慮しているんだ。」
「という事は、私も帰っても良いのでしょうか?」
「そりゃ、かまわないだろう。」
「じゃあ、私も帰ります!」
こういう、なかなか帰りにくそうな集まりの場合、帰るという人がいたら一緒に帰るのが一番利口な帰り方である。
フロルはマリーンシェルド伯爵について歩き出した。
フロル達の方を見ていた何人かの人達が慌てた表情をした。
見ていた人達のほとんどがフロルと、そしてそれ以上にマリーンシェルド伯爵と話がしたかったのだ。それなのに帰ろうとしているので、皆慌てたのだろう。何人かの人間が駆け寄ろうとしたが、マリーンシェルド伯爵がドアをくぐる方が早かった。
「あの、伯爵様。良かったのでしょうか?国王陛下も伯爵様をじっと見ておられましたよ。」
フロルは、伯爵の後をついて歩きながら話しかけた。
「国王陛下とくらい話をするべきだったのでは・・。」
「どうして?私と彼は友達じゃないよ。」
「はあ。」
見事な人だと思う。世の中には、これだけはっきり情が切れる人ってどれだけいるんだろう。
「フロル様ー!」
後ろから声がした。ウィンクラー夫婦が急いでフロルを追いかけて来たようだった。
フロルは、振り返って立ち止まった。伯爵も歩を止めている。
フロルは伯爵に聞いてみた。
「明日はどうされるのですか?」
「もう、ここへは来ないよ。今日中に避寒地に行くからね。真冬の王都は寒くてやっていられないよ。」
という事はもう会えないという事だ。
「伯爵閣下、どうもありがとうございました。伯爵様のおかげで、今日を何とか乗り切れました。」
「うむ。感謝しなさい。そして必ずや美女に化けて恩返しに来なさい。昔話の動物のように。」
・・それってつまり、私がブスだとディスってます?
もしも病弱という話のこの従叔父が、今年中に死んでしまったら、今のが、言ってもらえた最後の言葉って事になる。
グリューネバルト伯爵の最後の言葉よりひどいな。とフロルは苦笑いした。
総合評価が100ポイントになりました。
とってもとっても嬉しいです(^◇^)
ブクマや評価、それにいいねが頂けますと、とても励みになります。是非良かったらポチッとお願い致します。




