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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第二章 王都へ

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新年祝賀パーティー(3)

誰もが会話をやめて四人に注目をした。片膝ついて頭を下げている人までいる。マリーンシェルド伯爵は、そういった人間達をチラッと見て、そして鼻で笑った。


フロルはその四人の内、唯一面識が無かった人間に注目した。この国の国王ヴィルヘルム三世である。


ヴィルヘルム三世はあまり背の高い人ではなかった。息子である王太子のアゴの辺りまでしかない。体もどちらかといえば痩せ気味だろう。

勿論、背が低い事や痩せている事が悪いというわけじゃない。亡きグリューネバルト伯爵も、あまり背は高くなかった。今、フロルの隣にいるマリーンシェルド伯爵も痩せている。しかし、何と言えばいいんだろう。

両伯爵が持っているような威厳というか、カリスマ性が、王様からはまるで感じられないのだ。


決して美男とは言えない容色はどことなく生気が無く、王者に相応しいオーラが無かった。自堕落な生き方による生活の疲れが血液を通して全身に回り、汗腺から噴き出している感じなのだ。はっきり言って好きになれそうにないタイプだったのである。


フロルはその四人の事をじっと見ていたが、その四人の内の三人。王太子とジゼルと、ローゼンリール侯爵夫人もフロルを探していたらしい。三人の視線がフロルの視線と出会ってしまった。

フリードリヒはにっこりとフロルに微笑みかけ、ジゼルは実に清楚でかつ上品な微笑みを浮かべた。


そしてローゼンリール夫人。

彼女は不愉快そうな表情でフロルの事をにらみつけた。


しかしフロルは、その敵意がフロル個人ではなく『マリーンシェルド伯爵にコバンザメのようにくっついているフロル』に向けられたような気がした。もし隣に伯爵がいなかったら、ハムスターを発見した猫のような表情でフロルの事を見たのではないだろうか?


二組の男女は、それぞれに分かれて歩き出した。これから国王と王太子は、それぞれの恋人を伴い貴族達に声をかけて回るのだそうだ。


しかし、勿論全員にではない。そして、どういう順番で声をかけられるかが、実に重要な意味を持つのだそうだ。勿論、早く声をかけられるほど、より名誉な事なのである。


王太子とジゼルが自分の方に向かって来るのを見た時、フロルは意外には思わなかった。ウィンクラー夫婦に王太子が一番最初に声をかけてくるとしたら、ジゼルの父であるレーステーゼ伯爵かフロルだろうと言われていたのである。そう聞いていたのに、フロルはその場から走って逃げたくなった。


こういうシチュエーションが、フロルは苦手なのだ。照れ屋というのとは、ちょっと違うだろう。人に注目されたり、羨ましがられたり、妬まれたりする状況が嫌いなのである。

先日、馬を買うのにお世話になったのはありがたいと思っている。ウィンクラー夫人にも馬の事で褒めてもらったし、リーリアを通じてマクシミリアンからの感謝の言葉も聞いた。それを聞いた時には、ちょっと(?)くらい高くてもいい買い物をしたなー、王太子様のおかげだなー、と思ったりしたのだ。


でも、フロルの中では王太子もジゼルも、まだ友達ではないのだ。

というか、こういう『住む世界が違う人』と友達になるという事は考えられない。数えるほどしか会った事のない相手だが、共通点を全く感じないのである。


しかし、現実には走って逃げ出すわけにもいかずフロルはフリードリヒとジゼルに声をかけられた。


「やあ、伯爵夫人。王宮の感想はどう?」


・・答えにくい質問だ。というか「素晴らしい所です」以外にどんな答えようがあるだろうか?でも『素晴らしい所』とは、これっぽっちも思っていないのだ。


見え見えのお世辞をしれっと言えるほど、フロルは大人ではない。

しかし正直に「いまいち」と答えて、笑って許されるほど子供でもない。


周囲の人間達の視線が自分に集中しているのが、フロルにはわかった。好奇心二割、嫉妬が八割。と言ったところだろうか。

というか、既に王太子に話しかけられて20秒以上沈黙している。まずい!このままでは不敬罪に問われてしまう!


そしたら。フロルの隣から突然声が上がった。


「伯爵夫人は今私と話をしていたのです。割り込むのは失礼でしょう。下がりなさい。」


半径五メートル以内にいる人々の視線が、発言者であるマリーンシェルド伯爵に集中した。

勿論フロルも伯爵の顔をじっと見つめた。


すげーっ。と内心で思う。一国の王太子にこの態度。しかも後半は敬語でさえなかった。しかし、彼の態度は正しいのだ。


人が話をしている時に、予告もなく割り込むのは超ーっ失礼な事なのである。

割り込んだ相手が王太子だから許される。それが身分制度と言うものだ!と言うならその制度は誤っている。身分などに関係なく人は人間として、まず守るべき道徳律というものがあるのだ。


けど。


それは建前だ。世の中には『不敬罪』と言って、四民平等の制度とは対極にあるわけのわからない罪状があって、それに引っかかるとどんなに自分が正しくても、ぎゃふんという目に遭わされるのである。


だからこそすごい。そして超かっこいい。こういうセリフが言ってみたい。

でも。この発言がマリーンシェルド伯爵だから許されるのだという事がフロルにだってわかっている。だから、ますますかっこいい!


フリードリヒは鼻白んだ。一瞬不愉快そうな表情をしたのは当たり前という奴だろう。

しかし、すぐに


「すまなかった。伯爵。」

と言った。大人だ。


彼はわかっているのだ。権力を持つと叱ってくれる人がどんどんといなくなっていく事。それでも叱ってくれる人は得難い存在なのだという事を。


「グリューネバルト伯爵夫人。王太子殿下はきみが持つ権力と財力を利用したいと思っている。殿下の亡き母上は外国人だ。だが、遠い国だし現在では政治的な理由から国交がない。この国に頼るべき人間のいない殿下にとって、きみは最高のネギとタレを背負った鴨だ。殿下はいつも、自分より弱い者を探している。」


伯爵はフロルにそう語りかけた。


「幸薄い王子様に同情して、センチメンタリズムに浸るかどうかはきみの自由だ。しかし、それならそれで利用されないよう気をつけるように。覚えておきなさい。きみが力になってあげなくてはならないのは、きみより身分が上の人ではない。下の人だ。はっきり言えばきみが治める領地の領民だ。人の力には限りがある。だからこそ、その力を無駄に使う事のないようにしなさい。」


ド正論だ!


しかし、それを、今ここに、目の前に王太子がいるのに言うだろうかっ!


本当にすごい人なんだなと思う。

マリーンシェルド伯爵が持つ権力、影響力がこの短時間でよくわかった。それと同時に性格も。


マリーンシェルド伯爵は、グリューネバルト伯爵の従兄弟で幼馴染で親友だったとウィンクラー夫人に聞いている。

そして人が誰かと親友になる時。その二人はキャラが丸かぶりしているか、対極にあるかだ。

グリューネバルト伯爵はどっちだったのだろう?とフロルはつらつらと考えた。

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