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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第二章 王都へ

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新緑騎士団・団舎にて(1)

フロルをグリューネバルト家の館の門まで送って行くと、門の外でウィンクラー夫人がキョロキョロ辺りを見回しながらフロルを待っていた。フロルが馬車から降りると、すぐさまフロルに走り寄って来た。


「おかえりなさいませ、フロル様。」

「ただいま帰りました。」

「寒かったでしょう。馬市はいかがでしたか?良い馬はいましたか?」

「ええ。とても良い馬が買えました。」


フロルは嬉しそうにうなずいた。だが、その後ふと、眉根を寄せる。

「でも、馬って高いものなのですねえ。一頭で金貨200枚もするなんて。」


「・・・・。」

ウィンクラー夫人が絶句する。フリードリヒも思わずのけぞった。

この人は、馬の値段の相場を知らなかったんだ!金貨200枚を『普通』だと思っていたんだ!


まずい・・。とフリードリヒは思った。ちらっとウィンクラー夫人の方を見る。

ウィンクラー夫人は、かなり長い事黙っていたが、にっこりと微笑んでフロルの肩を叩いた。


「それだけの価値のある買い物だったのでしょう。なら良かったではありませんか。新緑騎士団の方達もきっと喜ばれますよ。」

「喜んでくれるかな。」

「ええ。大丈夫ですよ。」


そう言ってウィンクラー夫人は、フリードリヒとジゼルの方へ寄って来た。

「今日は一日、我があるじの為ご足労頂きありがとうございました。心より感謝致します。」

「いや。私達も夫人とゆっくり話をする事ができて楽しかった。また、いつでも気軽に遊びに来て欲しい。」


フリードリヒとジゼルは馬車に乗り込んだ。フロルとウィンクラー夫人が頭を下げて見送ってくれる。


「新緑騎士団の団舎へ行ってくれ。」

とフリードリヒは御者に言った。

「今からですか?」

とジゼルが言う。


「今だからさ。すっごいパニックが起こるぞ。見物しなけりゃ勿体無いだろう。」

フリードリヒはそう言って、笑い出した。



フリードリヒとジゼルが騎士団の団舎に着いた時、まだ馬は到着していなかった。


いつも通りの賑やかさ、いつも通りの忙しさで皆が団舎の中を歩き回っている。地味な馬車で来た事もあり、皆直ぐにはフリードリヒ達に気がつかなかった。


「これは殿下!」

一番最初にフリードリヒに気がついたのは、目端のきくアレクだった。ちょうど彼は何かの荷物を、倉庫に運んでいる途中だった。


アレク、ことアレクサンデル・カイトは18歳。王都ではなく東部の出身で、栗色の髪に同じ色の瞳をしている。

頭蓋骨の外側もなかなか素晴らしいのだが、内側はもっと素晴らしく、その才能を買われて後方事務隊の隊長をしている。

単に計算が早いとか、記憶力が良いというだけでなく、想像力と応用力があり、人の気持ちを察したり空気を読むのも上手い。それでいて、頭だけの人間というわけではなく乗馬も剣術も腕前は超一流である。これだけ優秀だと周囲の妬みを買いそうなものだが、そのような事もなく、年上の部下達からも慕われ敬われている。

彼は間違いなく、騎士団随一の知性の持ち主だった。


「突然のお越しで、いかがなされましたか?」

「さあ、当ててごらん。」

「わかりません。でも嫌な予感がします。殿下はとても、お楽しそうだ。」

アレクのセリフに、フリードリヒは苦笑した。


他の人間達もフリードリヒ達に気がつき、わらわらと寄って来た。


赤い髪に緑色の瞳。いつも明るく元気いっぱいのヴェルギール・クローゼ。

黒い髪に灰色の瞳。いつも穏やかで物静かなマクシミリアン・ツヴァイク。

そして、金色の髪に青い瞳。騎士団随一の美丈夫のユリウス・フォン・レーステーゼ。。


彼らの姿も集団の中にあった。


「風が冷たいですから中へ。」

と騎士団長がフリードリヒとジゼルに勧める。その声がどよめきにかき消された。


来たな。とフリードリヒは直ぐに思った。


馬商人が、馬と共に現れたのだ。


騎士団員達の視線の先に、北風にたてがみをなびかせた馬達がいた。フロルと違って、この場にいる人間なら誰でも、馬の良し悪しを見る目を持っている。とんでもない馬達が現れたのは誰の目にも明らかだった。


「こちら、新緑騎士団の団舎で間違いござらぬか!」

馬商人が声を張り上げる。

「さる貴人の遣いにて参った次第、中へお通し願いたい!」


「御用件を。」

集団の中から進み出たのはアレクだった。


来客の応対は、後方事務隊の仕事ではあるが、それにしても落ち着いていて浮き足だったところがない。こういうところが実に信頼できると思える反面。年下のくせに可愛くない。

もう少し、驚けば良いのに。とフリードリヒは思った。


「さる御方より、こちらへ馬を届けて欲しいと御依頼を承った。取次をお願いしたい。」

「誰に宛ててでしょうか?」


馬商人は、上着のポケットから紙を取り出して読み上げ出した。


「ユリウス・フォン・レーステーゼ殿。ヴェルギール・クローゼ殿。マクシミリアン・ツヴァイク殿。アレクサンデル・カイト殿に届けて欲しいとの御依頼です。」

ざわめきが大きくなり、皆の視線が名前を呼ばれた四人に集中した。アレクは眉をひそめた。


「私がカイトです。しかし、送り主の見当がつきません。送り主は誰でしょうか?」

「おや、全くおつきにならない?」

馬商人が、少し意地悪な顔をする。それに対しアレクは

「憶測は口に出さない主義です。」

と答えた。


馬商人は胸を張り、声を大にして叫んだ。

「グリューネバルト伯爵夫人でございます!」


「・・・え?」

とアレクは意外そうな声をあげた。


「お知り合いであられるのでしょう?」

「いいえ、全然。」

アレクは即答した。


「確かに、グリューネバルト伯爵が亡くなられたおり、お悔やみを伝えには伺いました。しかし、弔問客は星の数のように多く、伯爵夫人とはほとんどお声を交わす事もありませんでした。」

アレクも、そしてヴェルもマクスもユーリも真剣に首をひねっている。

馬商人も首をひねりながら


「友人の命を助けてもらった、と伺っているのですが。」

と言った。


「あっ!」

とマクスが声をあげた。

「リーリア!」

「ああ、あの銀髪美人。」

ヴェルも大きくうなずいた。


「間違いございませんか?」

と馬商人の声も心なしかほっとしていた。


「・・ええ、まあ。」

とアレクは声を濁した。

助けた相手が『死刑囚』だったからだろう。


そんな事は知らない馬商人は

「では、受け取りのサインを。」

とアレクに迫った。


「待って頂きたい!」

人混みの中から声があがった。

進み出て来た人影を見て馬商人は眉をひそめた。


「あなたは?」

「そのような物受け取るわけにはいかない!」


大切に育ててきたであろう馬達を『そのような物』呼ばわりされて、商人はハッキリ怒っていた。


気まずくなった空気を振り払うように、アレクがわざとらしい咳払いの音をたてる。

「ユーリ。商人殿に対して無礼だぞ。ま・・人からもらうには、ちょっと高級過ぎる感は・・・。」

「『ちょっと』じゃないだろ!」

ユーリがアレクを怒鳴りつける。


「このような高価過ぎる物は受け取れない。その馬を連れて、今直ぐお引き取り願いたい。」


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