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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第二章 王都へ

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馬を買いに(2)

その後、三人は10分くらい、市の中をいろいろ見て回った。良い馬は多いが、なかなか『この馬』とは決まらない。

白い馬の事だけは、とりあえず諦めたフロルだが、次に出した条件がなかなか難しく、しかも十分に正当な物だったからである。


「名馬が一頭に、普通の馬が三頭というのではなく、四頭ともほぼ同じレベルの馬が欲しいんです。」

その意見は実に正しく、公平でもあったので、その希望にそえるようフリードリヒはいろいろ見て回ったが、なかなか同じレベルが四頭となると難しい。

軽くため息をつき、フリードリヒはフロルとジゼルを振り返った。


「お嬢さん達、疲れただろう。何か飲み物でも買ってあげるよ。リンゴジュースで良いかい?」

「良いんでしょうか?」

と、フロルはフリードリヒにではなくジゼルに聞いた。


おや?とフリードリヒは思った。

フリードリヒはジゼルの婚約者である。だから、フロルはジゼルに気を使っているのだ。


こんな少女は初めてだ。王宮に出入りする娘達の中には、そういう気を使う娘はいない。


むしろ、隙あらば王太子の愛人になりたい、ジゼルに成り代わりたいという態度がはっきり見える。あからさまにジゼルを見下す者もいる。


「かまいませんよ。殿下がそうおっしゃっているのですから。」

とジゼルも快諾してくれたので、フリードリヒは屋台にリンゴジュースを買いに行った。


屋台へ向けて歩く途中、一頭の青毛の馬がいた。

体つきも大きく肩も張っていて、なかなか良い馬である。


「良い馬だな。いくら?」

「金貨50枚ですぜ、旦那。」

「高いな。」


フリードリヒは、そう言ってその場を離れた。

良い馬だが、高過ぎる。できれば金貨20枚、高くても30枚以内に抑えたい。

こちらに見る目さえあれば、そのくらいの値段でけっこう良い馬が買えるのだ。


フリードリヒはジュースを買って、フロルとジゼルの所へ戻った。二人にコップを渡したその時だった。


ざわめきが聞こえてきた。フリードリヒがそちらを見る。つられるようにフロルもそちらを見た。


大通りを四頭の馬を連れた、一人の商人が歩いていた。

商人は、肩に大きな荷物を下げていて、それに竿が付いており、先端に連れている四頭の馬によく似たぬいぐるみをぶら下げている。

栗色の毛に、額の白い星。小さくて短い足が側対歩になっているのが実に芸が細かい。


だが、周囲の人々が見ていたのは、無論ぬいぐるみではなく馬の方である。その四頭は非常に良い馬だった。

均整のとれた姿体や強く張った肩。この辺りではあまり見ないアラブ種の血を感じる。


周囲の人々の誰もがその馬に見とれている。

だが、遠巻きに見ているだけで皆近づかない。この馬は高い。というのが見ているだけでわかるからだ。

もし、アラブ種の血を引く馬であったなら、金貨の枚数は0が一つ違う事になるだろう。


「可愛い。これ、いくらですか?」


フリードリヒは凍りついた。フロルが一歩進み出て、そう聞いたのだ。


「金貨200枚。」

「えええええっ!」

フロルが悲鳴をあげる。だが、その途端にフリードリヒも馬商人も違和感に気がついた。

馬商人が苦笑いする。

フロルの見ていたのが、竿の上のぬいぐるみである事に気がついたのだ。


「お嬢ちゃん。それは売り物じゃないよ。俺の女房が作ってくれた商売繁盛の為のお守りだ。200枚ってのは馬の値段だ。」

「そうですか。びっくりしました。お腹にいったい何が詰まっているのかと・・・。」

そう言いながらもフロルの目は愛らしいぬいぐるみに釘付けである。


フリードリヒはおかしかった。


これほどの名馬を前にしても、興味のない者には全くどうでもいい事なのだ。しかし、宝とは本来そういう物なのだろう。


『金貨200枚』という言葉に誰もが動揺を隠せずにいる。

いわゆる『中流』と呼ばれる階級の年収が、金貨20枚から40枚ほどだ。実際金貨が100枚もあれば、第二地区にかなりの広さの豪邸を買う事ができるのだ。

だが、それだけの価値がある。と、その場にいる誰もが思っていた。


その気配を察したのだろう。


「あの馬って、そんなに良い馬なんですか?」

とフロルがフリードリヒに聞いてくる。


「ああ、良い馬だね。見た事もないくらい良い馬だ。」

「ふうん。」

とフロルが小さくつぶやいた。そして。

とんでもない事が次の瞬間に起こった。

フロルが手をあげて叫んだのである。


「その馬買います!」

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