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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第二章 王都へ

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馬を買いに(1)

一時間後。

フリードリヒとジゼルは目立たない馬車に乗って王宮をあとにした。


王宮の門を出たら、グリューネバルト家の門までは五分とかからない。白大理石でできた、美しい門扉の側に馬車を止める。

今日は晴れて少し暖かくなったからか、門の前は人通りも多くたくさんの人が通りを歩いていた。


その中に一人、ぽつんと立っている少女がいた。灰色を基調にした地味な服で、髪も両方に三つ編みにして垂らしている。地味なだけでなく、どこか野暮ったい少女で、いかにも都会へ出て来たばかりの田舎者。という感じだった。

きっと、何処かの貴族の家に田舎から奉公に来たのだろう。


「殿下。あの方がグリューネバルト伯爵夫人ではないでしょうか?」

ジゼルが、灰色の服の少女を見ながら言ったので、フリードリヒは「いぃっ!」と叫んだ。


「髪の色が同じですし、身長もあれくらいでしたわ。」

「13歳か14歳くらいにしか見えないぞ。」

そう言いつつも、馬車を寄せさせた。フリードリヒと目が合うと、少女はぺこっとおじぎした。当たり、であるらしい。

馬車のドアを開けると少女が中に入って来る。


「お待たせしました。」

とジゼルが言うと

「いいえ。」

と少女が答える。


この声。間違いなく、グリューネバルト伯爵夫人である。


フリードリヒは、馬車の外をキョロキョロと見回した。

何で、一人で立っていたんだ⁉︎だから尚の事わからなかったのだ。てっきり、ブドウの房のようにぞろぞろと侍女や護衛騎士を連れて来ると思ったのに!


それにしても、こんな顔だったのか。とフリードリヒは思った。

不細工な女。というイメージがあった彼女だが、目を見てみると意外にそうでもなかった。彼女はとても目が大きく、その目には強い光があって、生き生きとした感情が外に溢れている。


ドレスを着ている時は、痩せて貧相な女と思ったが、体型の隠れた服を着ると欠点が覆われ、長い手足が逆に引き立って見える。女性らしさは無い人だが、中性的な魅力があった。


そんな中性的な彼女の持ち物としては、実に似合わない物が彼女の膝の上に乗っている。可愛らしい、ピンクのウサギの形をしたリュックサックで、いったい何がそんなに中に入っているのか、ぬいぐるみは丸々と太っていた。


「可愛らしいウサギですね。」

とジゼルが言うと、グリューネバルト夫人は微笑んだ。その微笑みを見てフリードリヒは驚いた。


微笑むと彼女の小さな口は、こんなにまで!というくらい横に広がり、しかもそれが実に見事にUの字を描いたのである。

非常によく鍛えられた、表情筋だった。

女は笑顔を見ないとわからないと言うが、これはなかなかたいしたものだ。

可愛いじゃないか。と、フリードリヒはその表情にしばし感心した。


やがて、馬車は大通りへとたどり着いた。『馬市』に来ている人々で、通りは上を下をの大騒ぎだった。

フリードリヒは馬車を降りた。同乗していた護衛達には、少し離れて歩くように言い、ジゼルとフロルと共に歩き出した。人の声に、馬のいななきが混じり合い、なかなかの喧騒である。


「馬って大きい・・。」

グリューネバルト伯爵夫人は微妙に蒼ざめていた。


「グリューネバルトで見た馬は、もっと小さくて足が短かったです。」

「それ、ロバだったんじゃないですか。」


フリードリヒも馬は好きなので、だんだんと心が弾んで来た。だが、グリューネバルト夫人は

「これだけいても、違いがわかりません。」

と言って首を傾げている。


「どれが、良い馬なのでしょう?」

「ま、側対歩で走れる事は、絶対の基本ですね。」

「そくたいほ?」

「右の前脚と後脚を同時に出す走り方で、馬の走り方が安定するんですよ。訓練しない限り、自然には身につかない走り方です。」

「へー。」

そう言うフロルの事をフリードリヒは振り返り、ドキッとした。


フロルはフリードリヒを見つめていた。

花色の瞳は眼力が増し、一言の言葉も聞き漏らすまいという決意に輝いている。一瞬、その大きな瞳に吸い込まれるような感覚にフリードリヒは襲われた。


「・・あと、それと。」

『良い馬』の条件を、次々とフリードリヒが言っていくたび、フロルは大きくうなずいている。

今の今まで、興味を持っていなかった事に対する情報を、これだけ熱心に聞き身につけようとしているのにフリードリヒは驚いた。


この少女は知識を吸収する事に貪欲なのだ。

あらゆる知識を求め、知らなかった事に触れ、それを自分のものとする。

この熱心さに、グリューネバルト伯爵は惹かれたのではあるまいか?


伯爵は、理想の花嫁を『選びたかった』のではない。

理想の花嫁を『育てたかった』のではないだろうか?


その為に、地位や容姿などに関係無く、若く、賢く、熱心に学ぶ態度を示す者を選んだのではないだろうか?


フリードリヒの中で、この少女に対する考え方が変わって来ていた。

この少女は、あの伯爵が選んだ少女。そして、何者かになれるかもしれない女性ひとなのだ。


「条件に合う馬は結構いますよ。どういった点を第一にしたいですか?」

とフリードリヒは聞いてみた。

「そうですね。条件が同じなら。」

フロルは、胸の前で手を組んだ。

「白い馬がいいです。」


・・・。

やっぱり、17歳の女の子だよ!

『白馬の騎士』という奴に憧れているのである。


「白い馬も悪くはないけど、栗毛や青毛の方が体が丈夫で足も速いよ。白い馬は弱いから。」

そう言ってからフリードリヒは意地悪く笑った。

「あと、お尻が汚れている馬も良くないなあ。お腹が弱い生き物は、体が弱いから。」

「そうですね。」

と言ってフロルは真剣な表情でうなずいた。


・・・。

フリードリヒは恥ずかしくなった。わざと汚い話をして、フロルをからかってみたのだ。だけどフロルは、真剣に話を聞いている。

真面目な者をからかうのは、恥ずべき事だ。フリードリヒは咳払いをし


「ため口でかまわないかな?」

と聞いてみた。

「勿論です。私などに敬語なんて必要ありません。」

「そうか。さっきは、汚い話をしてすまなかった。」

「何か汚かったでしょうか?」

「・・・。」

「そんな事より・・。」

フロルはキョロキョロ周囲を見回しながら言った。


「青い毛の馬って、どこにいるのですか?すごく希少なのですか?」

「・・・。」

「『青毛』の馬というのは、黒い馬の事を言うのですよ。」

とジゼルが、優しい声で教えてあげていた。


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