新緑騎士団事件(2)
シュザンナの弟セデリッヒは、姉の七光で宮廷内で絶大な力を誇っていた。姉と国王の威光をかさにきて、宮廷内の女性達を散々食い散らかした後、彼の興味は市井の美少女達にうつった。何件かの略取、強姦事件が起きたが誰もそれを訴えなかった。訴えられなかったのだ。セデリッヒと姉のシュザンナの報復が恐ろしくて。
だがついに、勇気ある娘が現れた。
その娘は、婚約者と一緒に歩いていたところをセデリッヒとそのバカ友共にからまれた。女を置いていけと言われて、嫌だと答えた婚約者は勇気があったが無謀だった。よってたかってタコ殴りにされた後、彼は生きたまま川に突き落とされて溺死した。だが、その婚約者の勇気と足止めにより少女は逃げる事ができたのである。
少女は周囲の反対を押し切り、セデリッヒを殺人罪で告訴した。ローゼンリール夫人とその一派を敵に回したら、この街では生きていけないと家族は泣いて反対したが、少女の意志は固かった。それも、事件をもみ消されたら困ると、役人ではなく王太子に直訴したのである。
王太子はすぐに行動した。
ローゼンリール夫人の息のかかった、司法省の役人には立ち入らせず、自ら直接セデリッヒを裁く事にした。
その日たまたま国王は、ローゼンリール夫人を連れて地方の温泉地に視察という名の遊びに行っており留守だった。国王が王都を留守にする間は、、王太子がその全権を任される。次の日には国王が戻ってくるのが分かっていたので、王太子は急いで行動した。新緑騎士団に命じてセデリッヒを捕えさせ、裁判、処刑を行なおうとしたのだ。
王が戻ってくれば、侯爵夫人が王に泣きついてセデリッヒを無罪放免にするだろう。つまり、セデリッヒにしてみたら、姉が戻ってくるまで逃げる事ができたら命が助かるのだ。
セデリッヒは、門を固く閉ざして館の中に隠れた。だが、普段からセデリッヒに虐待されていた使用人の密告で、新緑騎士団第一隊に所属する20人はセデリッヒを見つけ出した。セデリッヒは館に火をつけて逃げようとしたが、結局は捕えられて王太子の前に引き出され、その夜のうちに友人共々処刑された。
民衆は、王太子の英断を歓喜して褒め称えた。
が。そのままで済むわけがない。
戻ってきたローゼンリール夫人は激怒した。弟が殺され、政敵である王太子が人気を上げていたのである。
だが、どれだけ憎くても王太子に直接手を下す訳にはいかない。自分に反感を持つ護衛官達が、いつも周りをかためているし、どんなわがままでも聞いてくれる国王も、一人息子である王太子の事はとても可愛がっていて、王太子に罰を与えてほしいと頼んでも聞いてくれそうになかった。
そんなわけで、侯爵夫人の憎しみは、王太子の指示のもと働いた新緑騎士団へと向いた。そして、騎士団の第一隊に属する20人を放火及び器物損壊罪で訴えたのである。その資産損失額は金貨150万枚と算定された。
放火や強盗、器物損壊という罪は失われた物と同等の金品を弁償すれば許されるとされる。しかし、金貨150万枚など絶対に払えるわけがない。
王太子は激怒した。火をつけたのは騎士団員ではなく、セデリッヒなのだ。それなのにローゼンリール夫人は使用人達に偽証をさせ、司法省の役人を丸め込み騎士団員に冤罪を着せた。
放火や器物損壊は、弁償できなければ有罪とされる。有罪となると、その金品の額に応じて公共広場でムチ打ち刑に処されるのだ。ムチと言っても、ただの革紐ではない。太い革に無数の金属の鋲が付いていて、これを50回も振り下ろされれば打たれている人間はミンチになってしまうという怖しい物だった。
それを最大限度数である500回と決まったのである。事実上のなぶり殺しであった。
国民も激怒した。新緑騎士団は、街の人気者だったし、今回の件はどう考えたってセデリッヒが悪いのだ。そのうえ、あの女狐は、自分達の税金を金貨150万枚分も横領していやがったのか!
だが、刑の執行が決定してしまった以上誰にもどうする事もできない。王都の人々は可哀想な若者達の為に涙をこぼし、ローゼンリール夫人を恨んだ。
そんな中で。驚きの事態が起こった。その20人の為に金貨150万枚払ってやろうという、物好きが現れたのである。グリューネバルト伯爵だった。
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