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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第二章 王都へ

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帰りの道で(3)

リーリアは、さっさとグリューネバルト領を出た方がいいだろうという事で、黒髪の青年がリーリアに付き添い、峠のマフィン屋で三人の青年が戻ってくるのを待つ事になった。

一応、リーリアは遠慮したのだが。


「あの男達も捕まったし、もう危険は無いだろうから私大丈夫よ。」

「いや、家まで送るよ。」

「本当に大丈夫。あの男の事以外で人に恨まれる事は・・・。」

「・・・。」

「・・・(30秒経過)・・無いから。たぶん。」

「送らせてください。お願いだから!」


三人の青年達を待っている間に、黒髪の青年がウィンクラー夫人に渡されたお弁当を半分分けてくれたので、一緒に食べた。


「あの弁当はおいしかったわ。」

リーリアが思い出して、うんうんと頷いている。

「でっ?」

「で、その後王都まで送ってくれて、四日かけて戻ってきたの。」


四人ともグリューネバルト領で、何か手伝える事があればと思って、少し長めに休みをとっていたらしい。

だから、帰りの道筋はゆっくりしたものだった。


四人とも大層リーリアに親切で、旅は快適そのものだったが、一つ困った事があったのは、リーリアがその四人の名前を忘れてしまっていた事である。そういう事は、後になればなるほど、もう一度改めては聞きにくくなるものだ。

四人がお互いを何と呼び合うか、リーリアは注意深く耳をすましていたのだが、「おい」とか「なあ」とばかり言い合うのだ。

結局、リーリアの家の門までついても、四人の名前はわからなかった。


リーリアが、門を開けて中へ入ると、庭で花の手入れをしていた父親が転がるように走って来た。

「リーリア!おまえ、どこへ行っていたんだ⁉︎『この空が私に飛び出せと呼びかけているの』などと置き手紙を残して家出しおって!」

「見聞を広げる為に、各地を流浪していたのよ。」

「嘘をつけ!どうせグリューネバルト領に行っていたんだろう。」

そこまで怒鳴って、同伴者の存在にようやく気がついたらしい。


咳払いをしてから

「あなた方は?」

と聞くと

「新緑騎士団の者です。」

と、四人は身分をあかした。


「伯爵夫人のご依頼を受け、お嬢さんを送らせていただきました。」

「それは、わざわざどうも。」

父親が何度も頭を下げる。

「娘が、ご迷惑をおかけしました。」

「いえ、それではわたくし共はこれで。」

そう言って四人は立ち去った。


ただ、黒髪の青年は帰り際に振り返り

「いつでも、騎士団本部に遊びにおいでよ。入り口で僕らの名前を言ってくれたら、中に入れるから。」

と、言った。


「・・・もちろん、一度も遊びに行ってないんでしょう。」

フロルがそう言うと、リーリアはゲラゲラと笑い出した。

「そりゃ、そうよ。だって『名前』わかんないんだもん。」

「・・・あんたね。」

「それに私、家出した罰でその後一ヶ月間自分の部屋に閉じ込められていたの。流石にそれだけ間があくと、なおさら訪ねて行きにくくなってしまって。」

「そうなんだ。」

「でも、名前を忘れといてこんな事を言うのも何だけど、4人共本当にいい人だったのよ。それだけは保証する。」

「うん。」


フロルは嬉しかった。四人の青年達の優しさが嬉しく、そしてその中に自分の兄弟がいるかも、と思うとなおの事嬉しかった。

ウィンクラー夫人も嬉しそうに頷いている。

「フロル様。これは新緑騎士団と仲良くする絶好のチャンスですわ!」

「・・・えっ?」

「友人を助けてくれたお礼と言って贈り物をするのです。贈り物を貰ったら、人は普通お礼を言いに来ます。新緑騎士団員と仲良くする、これは大チャンスですわ。」


なるほど。それもそうだ。

仲良くなったら、いろいろ情報も得られるだろうし。


だが、問題が一つある。

「何を贈ったらいいんでしょう?私、男の人が欲しい物って、全然思いつきません。」

「ジゼル様に、聞けばいいんですよ。」

「王太子妃様に?」

「ええ、彼女は四年間、新緑騎士団のデイムを務めていたのですから、騎士団員の事はよく知っているでしょう。きっと、良い意見を聞かせてくださると思いますよ。」


なるほど。である。

贈り物をするからには、相手が喜ぶ物を贈った方がいいに決まっている。

贈り物は『気持ちが大切』という意見もあるが、それは贈る側と贈られる側の仲が良い場合だ。現時点で、他人同士のフロルと新緑騎士団の場合、その贈り物の内容次第で今後の関係が上手くいくか、ヒビが入るか決まるのだから、騎士団員の知り合いに好きな物を聞いてみるのは実に賢い手だ。

一応あの人、「いつでも来てください」と言っていたし。

まあ、本音を言えばあの人と顔を合わすのは、少しばかり気が重いが。

でも、これで兄弟を見つけるのに一歩近づけるのだ。

フロルの心は弾んでいた。

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