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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第二章 王都へ

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帰りの道で(2)

一瞬、グリューネバルト司法省の役人かと思って身構えたリーリアだったが、男達は役人ではなかった。男は隣の領地の人間だった。


グリューネバルト領へ行く途中、峠の茶店でマフィンをガツガツ食べていたリーリアは、女性の悲鳴に気づいて周囲を見回した。

見ると一人の若い女性が、男に茂みの方へ引きずって連れて行かれようとしている。必死になって逃げようとする女性を男は殴りつけた。そのうえ、女性を押し倒し、その女性の上に馬乗りになった。


「何してんの、あいつ!」

リーリアが立ち上がると、隣の席に座っていた老人がリーリアを諌めた。

「放っておきなさい、お嬢さん。あの男は大地主の一人息子で、この辺りの人間は誰も逆らえない。しかもあの男の母親は、グリューネバルト伯爵の親戚なんだ。逆らったら大変な事になる。あの女の子は可哀想だが。」

「放っておけるか!」


リーリアは走って飛び出した。店には、リーリアの他にもたくさんの客がいるのに、皆見て見ぬふりをして動かない。

リーリアは男の背後に走り寄り、男の股間を思いっきり蹴りつけた。

ぶへとぐひゃを足したような悲鳴をあげて、男はそのままうつ伏せに倒れた。気を失ったっぽい男の体の下から泣いていた少女を引っ張り出し、リーリアは少女と二人で走って逃げ出した。


「マフィン代は、商品受け渡し時にちゃんと払ったからね。」

「どうでもいいよ。そんな些事さじ。」

フロルは、そう言って話の続きを促した。


少女はグリューネバルト領の子だった。隣の街に住むおばあさんの家を訪ねた帰り、先刻の男にナンパされ、逃げようとしたら襲いかかってきたそうな。

「私達の街でも評判の嫌な男なんです。私は週に一度、病気の祖母の見舞いに必ず行くのですが、前にこの道を通った時にあの男に目をつけられていたみたいで。」

リーリアは少女を家まで送り届けてから、その後領主様の館へ向けて歩き出した。


「そんな大事件を忘れてたのか!」

信じられない、という口調で茶髪の青年が言った。

「忘れてはいないわよ。ただ、急いで逃げたから、この男の顔を見ていなかったのよ。」

怒りに燃えた男は、目撃者からリーリアの詳しい人相を聞き出し、領地境周辺でリーリアを探していたらしい。男は叫んだ。


「今からおまえを・・・。」


「・・・おまえを?」

フロルが首をかしげる。

「聞きたい?」

「・・・やめとこうか。」


1分経っても男の下品な悪態が止まらなかったので、流石に自制心にあふれた騎士団員も嫌になったようである。予告もせず突然に赤毛の青年が、主犯格の男の口を蹴り付けた。

「きさま!」

男は目をむいて怒った。そして手に持っていた、釘を無数に打ちつけた棍棒を振り上げた。後ろにいた男達も、それぞれ手に持っていた武器を振り上げる。


「まず、きさまらから叩きのめしてやる!」


数を頼みに男は強がった。弱い奴から袋にするのではなく、強い方から襲おうとした男はある意味公正であったのかもしれない。しかし、それは間違いだった。

男達のうち半分にあたる四人が、あっという間に地面になぎ倒された。

その光景を見て残る四人はあっさりと逃げ出した。たぶん、もともと数合わせに連れてこられただけだったのだろう。


主犯格の男は鼻血をダラダラと流しながら、新緑騎士団を睨みつけた。

「きさまら、この俺にこんなマネをしてただですむと思うなよ。俺の事を誰だと思っている。きさまらなどとは身分が違うんだ。きさまら名を名乗れ。後から親父に頼んでたっぷりと報復を・・・。」


「新緑騎士団だ!」


「四人がそう叫ぶのを聞いた時の、男の顔色の代わりようをあんたにも見せてあげたかったわ。人間の顔色って、あんなに早く赤から青に変わるものかとびっくりしたわよ。」

いや、そんな物別に見たくはない。とフロルは心の中で思った。


国王の愛妾の弟さえ権力に屈せず処断した、新緑騎士団員が相手と知って男は血の気を失った。自分の持っている権力の力が通用しない相手に男は初めて会ったのである。


「おまえこそ、こんなマネをしてただですむと思うなよ!今すぐおまえをグリューネバルト司法省に突き出してやる。おまえの住んでいる地域では知らないが、グリューネバルト領では強姦も強姦未遂も重罪だぞ。俺はなあ、何が嫌いって、強姦という犯罪が一番嫌いなんだ!」

茶髪の青年が男の胸ぐらを掴んで叫んだ。しかし男は悪足掻きした。


「お・・俺の母親は、グリューネバルト伯爵のまた従姉妹だ。母親の弟が、未亡人になった伯爵夫人と再婚して次の当主になると決まっているんだ。そんな叔父貴を持つ俺をグリューネバルトの奴らに突き出しても、どうもできるものか。」

「だから?」

氷のような声で、金髪の青年が男に言った。


「・・いや、だからって・・・。

「おまえが何者でも、我々がする事は変わりない。ただ、私はあの高潔な伯爵閣下に仕えていた家臣達は、同じように高潔であると信じている。」

「それとなあ、教えてやる義理は無いけど教えてやろう。」

赤毛の青年が、いっそ優しげにさえ見える笑顔で口を挟んだ。

「この女性は、未亡人であるグリューネバルト伯爵夫人のご親友だ。おまえみたいな親戚がいたせいで、叔父上の縁談に差し障りが出ないといいな。さあ、来い!」


男は、他の三人の男と一緒に、茶髪、金髪、赤毛の三人の青年に引きずられて連れて行かれた。


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