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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第二章 王都へ

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帰りの道で(1)

領主の館を出て、街を囲む城壁もウィンクラー夫人が書いてくれた証明書のおかげで楽々パスし、リーリア達五人はあと500メートル程で隣の領主の土地という所までやってきた。その辺りになると人もほとんどいなくなり、リーリアは緊張から解かれて大きく深呼吸した。


そんなリーリアの背中に冷たい声が突き刺さった。


「でっ。おまえ、いったい何をしでかして役人に追われていたんだ?伯爵夫人の頼みとはいえ、事と次第によってはおまえを城壁内まで連れ帰って、司法省の役人につき出すぞ。」

そう言ったのは茶髪の青年である。


他の三人。金髪、赤毛、黒髪の青年達もじっとリーリアを見ている。嘘をついても仕方ないので、リーリアは全てを洗いざらい話した。

話し終わると、四人は唖然としてしばらく声も出ないようだった。


「領外追放・・・で、戻ったら死刑って、そりゃひどいな。」

と赤毛の青年がつぶやくと、金髪の青年が

「いや、それだけローゼンリール侯爵夫人の事を、グリューネバルト伯爵は不快に思っていらしたという事だ。私は伯爵のご判断は正しいと思う。」

と言った。だから、リーリアも言っておいた。


「まあ、うちの家族は領外追放になってもしょうがないろくでなしだったしね。」

「でも、きみの行動力はすごいね。本当にすごいよ。」

そう言ったのは黒髪の青年である。四人の中では、一番気の優しそうな青年で、その青年におっとりとして口調で褒められるといい気持ちになり、「えへへ。」とリーリアは笑った。


「ちょっと待って。」

そこまで話を聞いてフロルは口を挟んだ。

「茶髪、赤毛、金髪、黒髪なんて言ってるけど、名前があるでしょ。名前が。」

「そりゃ、もちろんあるでしょうよ。」

「なら、何で名前を言わないの?聞かなかったの?」

「もちろん聞いたわ。」

リーリアは胸をはった。


「でも忘れたのよ。」


「・・・リーリア。」

「だって、もうその場ですぐにお別れするつもりだったんだもん。だけど・・・。」

役人に見つかったらマズい理由も説明したので、リーリアは四人にこう言った。


「ここまで一緒に行動してくれてありがとう。とても助かったわ。何かお礼をと言いたいところだけど、私も家出中であまりお金を持っていないのよね。だから代わりにこれあげる。ここから1キロくらいいった所にある峠に、美味しい焼き菓子屋さんがあるの。そこのマフィンがすんごい美味しいのだけど、店主さんがとってもいい人で、また来てくださいねって言って、マフィンオール半額というチケットをくれたのよ。何個買っても半額らしいから、ぜひそこで帰り道に買って食べて。ちなみに私のお勧めはラズベリーのジャムのマフィンよ。」

「・・・それくれた人、男だろう。」

「そうよ。どうしてわかったの?王都で10年修行して、最近こっちへ戻ってきたという若い人だったわ。」

「そのチケットは、きみにまた来てほしくて渡したんだと思うよ。」

「そりゃ、そーよ。リピーターあってこその商売じゃない。商売は口コミが命だから、私は美味しかった店は美味しいと必ず口に出す事にしてるの。本当に美味しかったのよ。だから、遠慮しないでよ。あっ・・もしかして、甘い物嫌い?」

「・・・。」


「四人共、変な顔して受け取ろうとしないのよ。まあ、騎士というものは慎み深いものなのかもしれないわねぇ。」

「いや・・そういう問題ではなくて。」

フロルは口を挟んだ。


そうこうしていると、赤毛の青年がこう言った。

「ま、いいか。よし!五人で食べに行こう。」

「私はいいわ。四人で行って。もう、ここでお別れしましょう。あなた達の親切。私、絶対忘れないわ。王都に戻ったら尾ひれつけて吹聴しとくから。」

「お別れって、どうして?」

「だって、私馬に乗れないもの。私と一緒に歩いて帰ったら、あなた達王都に帰るのが遅くなってしまうわ。」

「僕の馬の後ろに乗せてあげるから、二人乗りをしよう。」

と黒髪の青年が言った。


「それでも一人で馬を走らせるより遅くなるでしょう。」

「でも、女の子の一人旅は危険だよ!」

「平気よお。来る時も一人だったのよ。でも全然問題なかったわ。これ以上あなた達に迷惑かけられないもの。」


「やっと、見つけたぞ、きさま!」


突然、後ろからドスのきいた声がした。

振り返ると、人相の悪い男が、同程度に人相の悪い男を七人ほど従えて立っていた。着ている服はなかなか立派で、金持ちなのかなとも思えるが、品の無い表情が全てをおしゃかにしている。


「知り合い?」

と、赤毛の青年がリーリアに聞いてきた。

「知らない。見た事ないわ。」

「ふざけるな、このアマ!」

という発言からして、リーリアの知り合いのようだが、リーリアには全く見覚えがなかった。一度見たら、絶対に忘れられそうにないブ男だったのだが。


「・・・で、思い出したの?」

と、フロルは聞いた。

「ええ、思い出したくもなかったけれど。」

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