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新緑騎士団  王都No.1人気の騎士団に男装して潜入し、生き別れた兄を探します  作者: 北村 清
第一章 グリューネバルトの花嫁

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兄弟がいる場所

フロルは自分の部屋でウィンクラー氏とアイゼナッハ夫婦を待っていた。

やがてドアが開きウィンクラー氏とアイゼナッハ夫婦、あと四人の男女が入って来た。


「フロル様。私の長男のイザークとその妻アリーセ、それに次男のルーカスとその妻のクリスティーネです。」

アイゼナッハ氏がそう紹介する。

「はあ、よろしくお願いします。」


イザーク氏とルーカス氏は兄弟だけあって顔立ちがよく似ていて、二人共イケメンだ。アリーセさんは、美しいクリームブロンドにスミレ色の瞳をした、たおやかな美女で、押せば倒れそうなほど弱々しく見えたが実は女医だと言われて認識が変わった。可愛い顔して肝がすわっているのかもしれない。


クリスティーネさんは、輝くような黒髪をした凛とした美人で、スタイルも良いが、女性らしさとかフェロモンとかとはちょっと離れた感じの美人だった。どちらかというと、大衆演劇に出てくる男装の麗人のような、かっこいい系の美人なのだ。


年齢は、イザーク氏が32歳。ルーカス氏が30歳。クリスティーネさんが29歳。アリーセさんが28歳だそうだ。ちなみにイザーク氏とルーカス氏には、今年26歳になるフィリーナさんという妹もいるらしい。


「ここにいる四人も、フロル様の本当のご両親の事を知っておりますので。」

とアイゼナッハ氏は言った。

「それで、双子の男の子の事ですが。」

「はい。」

「どうなっているのかわからないのです。」


フロルは椅子から転げ落ちかけた。


「わかんないって、どうしてですか⁉︎」

「それが、伯爵様が何も言われないうちに亡くなられたので。」

「そんな。」

「ルドヴィカ様が亡くなられたのは、7月21日の事です。そして8月の3日までは、坊っちゃまは城にいたのです。それは間違いありません。誰かが、伯爵様の命令で外へ連れ出したのだとは思いますが、それが誰なのか見当もつきません。ちょうどその頃は、ルドヴィカ様を弔問する客や、伯爵様を見舞う客が殺到していて、上を下をの騒ぎでございましたから。」

「じゃあ、何の手がかりもないんですか?」

「いえ、あります。」


フロルは再び椅子から転げ落ちかけた。


「フロル様、一年前に王都で起こった新緑騎士団事件というのをご存知でしょうか?」

そう聞いてきたのはウィンクラー氏だ。

「知ってます。つまりあの、さっき帰った四人達の事件でしょう。」

「そうです。あの事件があった時、伯爵様はすぐに彼らを助ける為に行動を起こされました。あの手この手で、金貨150万枚を用立てられたのです。しかし、その行動については反対する者も多くいました。見ず知らずの人間の為、先祖伝来の財宝を処分するなどと。」

話をしている間、ウィンクラー氏は下を向いていてフロルと目を合わさない。きっと『反対する者』の一人だったんだな。ウィンクラー氏は。


「そうしたら、伯爵様はこうおっしゃったのです。その20人の中に私の息子がいるのだと。」

「えーっ!」

フロルは叫んだ。


「って事は、さっきの四人の中に、私の双子の兄弟がいたかもって事ですか⁉︎」

「はい。ですから私共は、あの方達にもう少し長くこの城にいて欲しかったのです。あの・・こういう事はあまり言いたくありませんけれど、あの四人がさっさと帰ってしまったのは、フロル様の昨日の対応があまりにも愛想がなくて・・その少々機嫌を損ねられた・・というか、かなり機嫌を損ねたというか、めちゃくちゃ怒らせたというか・・・。」

「すみません。でも、知らなかったから・・・。というか、それなら急いで呼び戻・・・。」


すわけには絶対にいかない。今リーリアがあの四人と一緒にいるのだ。少しでも遠くにさっさと行ってもらわないと・・・。


「呼び戻したいのはやまやまですが、呼び戻す口実がありません。伯爵のご令息の事は、とにかくトップシークレットなのですから。」

アイゼナッハ氏がため息混じりに言う。

「・・そうですね。

フロルもうなずいた。


うなずきながらも、頭の中ではあらゆる考えが、火花のように駆けめぐっている。


自分には兄弟がいる。


実父も死に、天涯孤独な身だと思っていたけれど、血のつながった身内がまだ一人いるのだ。それも男の兄弟が。

今まで、領地はおまえの物、とか言われて頭がくらくらしていたが、男兄弟がいるなら、彼に爵位と領地を継いでもらって面倒な事を全部押し付けてしまえばいい。自分はお金を少しと、小さな家でももらえれば十分だ。


それに、もう自分は一人ではないのだ。血のつながった家族がいるのだ。ずっと憧れだった家族が。


「私、王都へ行ってみたい!」

フロルは叫んでいた。

「王都へ行って、その20人に会ってみたいです。兄弟を探したいんです。」

「ええ、行けますよ。というより行ってもらわねばなりません。」

ウィンクラー氏がうなずいた。


「爵位を所有する貴族とその妻は、一年に一度、新年に王宮に集まらなくてはならないという掟があるんです。たとえ重病で、明日死ぬという体調でも行かなくてはなりません。そう決まっているのです。これは、各貴族達が反乱を起こさぬよう動静を見守る為と、地方貴族達が力をつけすぎないよう金を使わせる為、という目的があるのですが・・。フロル様には、それに行ってもらわなくてはなりません。私達も同行し、伯爵様のご令息探し協力させていただきます。」


「領地はフロル様が継ぐ事ができますが、爵位を継ぐ事はできません。もしご令息が見つからなければ、爵位を王家に返上しなくてはなりません。建国以来の名門である当家にとって、それだけはあってはならぬ事。ご令息探しの件、フロル様が承諾してくださって、ほっといたしました。」

アイゼナッハ氏が嬉しそうにそう言った。


「しかし、フロル様。ご令息が新緑騎士団の中にいる事を知っているのは、私と家族とウィンクラー夫婦だけです。決して、決して口外されませぬよう。総資産額金貨200万枚とも言われる大貴族家なのです。もし隠し子がいるなどと噂になれば、『それは自分だ』と一万人くらいの人間が殺到するでしょう。」

「わかりました。内緒ですね。内緒。」

「伯爵様の喪があけるまでは、爵位を返す必要はありません。つまり一年間猶予があるわけです。その間に必ず見つけ出さなくてはなりません。」


フロルは力強くうなずいた。この空の下のどこかにいる自分の兄弟。会いたい。早く会ってみたい。


夢見る間は幸せだった。

第一章完結です。読んでくださって本当にありがとうございます。


第二章からは王都編になります。田舎者のフロルが初めて領地を出て遠い王都まで旅をします。どうかフロルと作者に応援よろしくお願いします(^◇^)

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