孤独の緩和と悪化と消滅
今俺はまさに窮地に立たされている。
それは数分前に遡る。
「田神くんは紗良のこと見ててね」
俺の横には警戒もせずに夢に落ちた同級生の異性がいた。とりあえず寒そうなので上着を被せておいた。親友の恋路を邪魔しないようふたりでいることを選んだはいいもののこの状態で冷静にいられるほど俺は図太さを持ち合わせていなかった。そしてその異性は微睡の中、身をよじって言う。
「んぁまくらぁ」
彼女は俺の膝にたどり着いた途端、再び夢に落ちた。俺は状況を飲み込めず、フリーズしてしまい、今に至る。
まず、やってはいけないことは起こしてしまうこと。これをやれば社会的に死ぬ。
ではどうすべきか。
その1 起きた時に事情を正確に教える。
その2 スルッと抜け出す
その3 起きた時にすっとぼける
その1は信じてもらえないor 逆ギレされ、関係にひびが入るのは確定する。
その2は成功すれば良し、失敗すればその1かその3にすぐ移行しなければならない。
その3はどうなるか見当もつかない。
これはその2を実行し、成功すれば放置、失敗すればその1に移行しよう。これが最善策だ。
そして、実行しようとした時に気づく俺の右手が彼女の頭を撫でていたことを。
しまった妹と弟がいるせいでついやってしまった。
でも今からでも遅くねえ早く抜け出さなくては、!
「ねえ、この手、なに?」
この日22:27俺の人生に終止符が打たれた。
◻︎ ◻︎ ◻︎
「何してん」
2人で部屋に入り、目に入った光景にこう言わずにはいられなかった。
「田神がセクハラした」
「誤解ですって紗良さん、!」
土下座をする紳助に仁王立ちする堀宮さん、ほんとに何をしているのか。
どうしたのかと紳助に耳打ちするとその事情を事細かに説明された。
「お前が悪い」
なぜ誤解を招くようなことをしたのか。
隣では聞き耳を立てていた月さんがくすくすと笑っている。被害者である水宮さんは呆れた顔でいう。
「もういいわ。あとでスタバ奢ってね」
「神様、紗良様、仏様ぁ」
それで良いのか紳助よ、と僕も呆れてしまった。
月さんが急に顔を覗かせる。
「2人ともお似合いだね」と耳元で囁いた。
流石に心臓に悪いのでやめてほしい。
◻︎ ◻︎ ◻︎
暖かい春の陽気に包まれ木陰で木漏れ日にあたりながらもそよ風に吹かれ木の葉が心地よい音色を奏で、野原の草は踊るそんな風景のなか昼寝をする。
そんな夢を見た。
そしてそこにはまた月が浮かんいた。
◻︎ ◻︎ ◻︎
「じゃあまたね」
皆んながいなくなり、家には僕一人になった。何故だろう。前までは独りでもなんとも思わなかったのに今では寂しさが込み上げてくる。孤独に慣れていたのに友達という存在を得てしまったからこんなにも胸が苦しくなるのか。こんなにも苦しいのなら友達など得なければよかったと思えてくる自分に嫌気がさす。
──ピロン
通知音が沈黙をノックする。
『月曜から私のことは呼び捨てね!私と最高の復讐をするために!』
最後には親指を立てているグッドマークが添えられていた。
月さんから送られてきたメッセージに胸が高鳴る。
呼び捨てというハードルに少しの不安はあれどそれを越えるに足る期待が胸を弾ませる。
先程まであった孤独感はなくなり、僕の中には期待が注がれた。