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恋焦がれ月夏に願うは誰が為か  作者: 月乃夢理
恋焦がれ月夏に願うは誰が為か
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ペナルティ

夢を見ていた。

淡い光を放つ月が無限に広がっていると思える白い空間を満たす。

不鮮明な世界の中に年寄りにも幼児にも男にも女にも見えるそんな存在を見た。

いや正確にいうと認識はできるが、脳で処理ができないそんな変な体験をした。


薄く開ける目に光が差し込む。まだ起きたくないと本能は言い、もう起きろと理性は言う。

陽気な機械音が心臓を驚かせる。

初期設定のアラームが起きた後の私を不快にさせた。アラームを止め、ロック画面を開き、天気のマークのアプリを開く。

天気予報には晴れのち雨と冷たい光を放っていた。




「涼原、放課後職員室来い」

佐野先生がそう言うと待ってました!とばかりに田神が飛びついてきた。


「なになに地遥、何やらかしたの!」


「違うよ、多分バイト関係だと思う」


「え、地遥バイトしてんの?どこで?」


「教えないよ、紳助絶対くるでしょ」


ちぇーと言いながら身を離す紳助に少し笑みが漏れる。てか何のようだろうか。そんな疑問が宙に浮かび、暖かい春の空気に溶けていった。



野球部が声を出して練習する校庭には夜間ライトの長い影ができていた。そんな校庭を横目に佐野先生と対峙する。


「お前、提出物は出しておけよ。バイト出来なくなるぞ」


「あー、すみません。登下校の時間とかバイトとか色々あってやる時間見つけるの大変なんですよ」


「まあ、わからんでもないよ。特にお前の場合は忙しいだろうしな、他のやつより」


提出物とは先生が一昨日出した課題のことだろう。提出は今日の朝までだったが、無理を言って昼休みに出したのだ。

もちろん学校で終わらせて。

だが、杞憂だったな。注意で終わりそうだ。


「しかしだ。それはそれ。これはこれだ。てことで俺から罰を与える」


速攻でフラグを回収してしまった。


「それって、?」


「明日のお楽しみだ」


佐野先生の不気味な笑みと西陽の光と影それらが合わさって僕の不安を掻き立てる。横目に映る太陽の上には暗雲が立ち込めていた。



「結局何もなかったな」


「地遥くん?どうかしたの?」


放課後、部活のある紳助と紗良さんは素早く教室を出ていき、僕と月さんだけになった。自転車を押しながら雑談をしているとふと昨日の佐野先生の発言を思い出し、呟いた。


「いや何でもないよ」


そっかと夕陽に照らされる街並みを見ながら彼女は言った。一日中、警戒していたが、何も起きなかったな。ただの脅しだったか。


「それじゃ、またあとでね」


「うん、バイバイ」


互いに手を振り、沈みかけている夕陽を背に僕は自転車を走らせる。ん?「あとで」?ま、いいか。



◻︎ ◻︎ ◻︎


「よお、ちー。早速だが接客頼んだ」

「はーい」

今日も大将の居酒屋で働く。今日は金曜だからいつもより客が多そうだなと少し気分が落ち込むが、そんなのは関係なしに仕事はやってくる。やるか。



あと30分程度で終わりかな。

時計の針を見てふと考える。

ガララッまた客か。やはり今日は多いな。

「いらっしゃいませー」

「やってる、やってる」

その男子高校生と思わしき声で無意識に僕は扉を見る。そして感じるこのデジャヴ。


「やっほー地遥」


「さっきぶりだね地遥くん」


「ごめんね涼原くん。止められなかった」


右手を常連のように上げて入ってくる紳助と月さん、そしてその後ろを申し訳なさそうに手を合わせて入ってくる水宮さん。その様子に驚いた僕を見て、大将は何かを察したみたいだった。


「ちー、なんだ友達か?」


こくりと頷く。これが今の精一杯だ。

何故ここに、いや何故知っている。

いや、わかるだろう。

ここを知っているのは奴しかいない。

こういうことか。やりやがったな佐野!


「地遥くん、『ちー』って呼ばれてるんだね」


「俺たちも『ちー』って呼ぶ?」


「もう、二人とも煽るのはやめなよ」


「ごめんね地遥くん。そんなつもりはなかったんだけど。」


くっ。心へのダメージがすごい。しかし、とりあえず席に座らせなければ、大将の微笑みがじわじわと精神を攻撃してくる。


「とりま、このテーブル席に座りなよ」


そう誘導して座らせると水宮さんが口を開いた。


「なんだか、涼原くんの制服以外の姿は新鮮ね」


「なんかいいよね似合ってる」


この褒め言葉すらも今は毒に変じてしまう。さてどう切り抜けようか。


「ちー、今日はもう早めに上がっていいぞ」


大将は僕があと少しで上がりだからと僕を自由のみにしてくれた。ありがとう大将。

感謝の意を込めて礼をした。


「今度アイス奢れよ?」


不敵な笑みを浮かべる店長にそういうことかと苦笑いで返す。

そのやりとりを見ているあいつらはニマニマと腹の立つ顔でこちらを見ていた。

あの申し訳なさそうだった水宮さんでさえも。

引き戸を開けると空に陽の光はなく、暗い空からまばらに雨が降っていた。

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