約束
「それじゃあグループ作ってー」
初の授業は国語、なにを学ぶのだろうと考えていると佐野先生が教卓の前に立ち、覚束無い日直の号令とクラスの礼のあと指示を出す先生。
指示に従い、四つ隣り合う机を対面の形にする。横には入江さんがいる形だ。
「んじゃ、適当にだべってていいぞー」
これは、、、気を遣っているのだろうか。
担任として、仲を深めよう的なやつなのだろうか。
それとも授業をしたくないだけなのだろうか。
きっと前者を言い分に後者を隠すつもりなのだろう、うん。
「それじゃあ、改めて入江 月です!よろしくね!」
「えーと、涼原 地遥です。よろしく」
「水宮 紗良、よろしく」
「俺は田神 紳助、よろ!」
水宮さんは髪がロングでクールな印象で田神くんは大将とは違う人懐っこさを感じる。
「水宮さん、肌綺麗だよね。なにか美容で気をつけてるの?」
「あんまり、気にかけてはないけれど初めて言われたわ。そういう入江さんこそ綺麗よね」
「月って呼んでよ。だから紗良って呼んでいい?」
横では女子トークが繰り広げられている。こっちも負けてられない(?)
「田神くんは何でこの高校選んだの?」
「紳助でいいよ。んー家から近かったから!家から15分程度で着くんだー。そう言う地遥は?」
「バイトがOKだからだよ」
ちなみにこの陽光高校、地元で2番目くらいのなかなかに頭のいい高校である。それを家が近いからとは、案外頭が良いのかもしれない。
「そういや、地遥は家どこ?」
「月山町ってとこ。遠いよ」
「あーあそこか。あの神社あるとこ!受験の時にお参りにいったわ!」
「私も知ってるわ。あそこのおみくじ引くと願い事が叶うっていう迷信あるわよね」
「あー!私そこ小さい頃行ったことある!」
地元の話で盛り上がるのは何だか無性に嬉しくなるな。
「でも、坂道とか階段とかきついんだよな」
「そういえば、町や神社の名前には意味があるってよく言うわよね。どう言う意味か知ってる?涼原くん」
「えーとね、月山町ってのは神社の裏山はどれだけ曇ろうとも夜になれば必ず月が見えるっていう言い伝えかららしいよ。今は立ち入り禁止だけど」
「それじゃあ、月ノ河神社の方は?」
「夏になるとね。上流の方から来る湧水が綺麗になるんだよ。」
「それと何の関係があるんだ?」
「夏の満月の夜に水面に満月が映るんだよ。それだけじゃなくて川底の砂や石が月光で輝くんだ。だから地上の天の川とも言われる風景が見れることから、その名前になったらしいよ」
これらは祖父母によく聞かされた話で近所のお婆さんたちにもたまに言われる。
だからいやでも頭に残るのだ。
「いつか行ってみたいなあー」
「それじゃみんなで行こうぜ!」
「私もいいよ。綺麗な景色を写真に収めたい」
「いいね。みんなで行こうか」
とるに足らない小さな約束が結ばれた。
それだけで心が満たされたように感じるのはなぜだろう。どこかに早く春が過ぎて、夏が来てほしいと願ってしまう僕がいる。
そんな僕の小さな願いをを無視するかの如く春の陽気な陽射しがこの教室を暖かく包んでいた。