バイトと放任主義
彼について書きたかったんです。。。
「それじゃまた明日!」
彼女は忘れていたスマホをとると足早に去っていった。
「んじゃ行くか」
一人取り残された教室に独りごちた言葉は風に乗ってどこかへと運ばれていった。
通い慣れた道を自転車で通る。
これからの季節に想いを馳せているとすぐに目的の場所についた。
どこにでもあるような大衆居酒屋。
その裏に無造作に自転車を置く。
「大将、今日もお願いします」
木造の引き戸を開けながら言う。
「おう、ちー今日もよろしくな」
「そのちーって呼ぶの良い加減やめてくれません?」
「いいだろこれくらい。それより、どうだった?新しい学校は」
「これからに期待大ですね」
そうかと大将は豪快に笑った。ここは僕のバイト先で、人懐っこく笑いの絶えない大将のいる居心地のいい場所だ。
「いらっしゃいませー」
ここには近場の工場や大工の人などの常連が多く通う。
いまはまだ3時ごろなので客はまばらだ。
ん?ある中年の男性の客の姿に目が留まる。それもそのはずだ。その男性客は僕の担任だったのだから。
「注文が決まりましたら、お呼びください」
声は震えていなかっただろうか。
佐野先生は何も驚いた様子はなく、どっかりと席に座った。
さて、どうしようか。
別にバイトがバレるのは問題ないのである。
僕の通う高校、陽光高校は書類を通して大丈夫だったらバイトOKの高校だ。今日、呼び出されたのはその書類関係だったのだが、それには今日からと書いていた。
しかし、ここで働き始めたのは春休み前からである。つまり、バレたらやばいのである。ちなみにバイト先は書いていないのですごく驚いている。
「大将、僕今日裏の方ついていいですか?」
「これから1時間は俺ら二人だけだから接客してくれよ」
「仕方ないか、」
佐野先生は気づくだろうか。僕が今日からではなく前から働いていたということを。
「すみませーん」
早速か。
「はい。何でしょう」
「枝豆と焼き鳥のももと皮を一つずつ。それと生で」
「えーと、すみません。ももと皮を二つずつですかね」
「いえ、一つずつです」
「わかりました。たいしょー、枝豆、もも、皮一つずつ!」
あえてもう一度聞くことで初心者感を出すという高等テクニックをこなす。というか、この時間帯から酒かよ。
もうすぐ16時を指す時計を見ながら心の中で呟く。
「ありがとうございましたー」
約1時間呑んだあと、先生は帰っていった。
「ちー、テーブルの片付け頼むー」
「はーい」
あの先生、酒5杯飲んでったな。食器を片付けていると、皿の下に挟まっている紙切れを見つけた。
───大目に見てやる
先生、、、気づいてたんかい。
明日からの日々に不安が芽生えた瞬間だった。