希か絶か
「じゃあね」
月が外を見ている間に僕は病室を出た。
窓から入ってくる空気に押されて歩みは自ずと早くなった。彼女の病がどれほどのものかはわからない。でも僕らなら勝てないわけない気がした。
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月はまだ原因が掴めていないため、念のため検査入院の形で退院はまだ未定らしい。いつ病状が悪化するかもわからないので水宮さんと紳助と僕でそれぞれ空いている日に見舞いに行こうということになった。
「やっほーハルくん。今日は君かあ」
夏の朝の涼しげな日差しに照らされた彼女は微笑んでいた。蝉の声も青の澄み切った空もそんな空から覗く入道雲も夏をより鮮明にし、彼女を輝かせた。
「今日はすごく元気そうだね」
「ここ2、3日で体調が良くなってる気がするんだよね」
退院も近いかもと彼女はまた笑った。あの日以来月はなにか吹っ切れたように明るくなった。きっと肩の荷が降りたのだろう。そういう僕も少し気が楽になって前よりも心にゆとりができた。
「そういえば今日の夜みんな来るみたいだよ」
「そうなの?」
「今日の夜、みんな空いてるんだって」
あの2人は明日の午後から二週間近くは予定があるらしく、今日の夜しか空いていないらしい。
「そっかあ。楽しみだなあ」
月が入院してから全員揃ったことはないため楽しみだ。
それからはただの雑談をした。この曲がおすすめだとかこの人がかっこいいだとか他愛もない話をした。気づいた頃には太陽が真上で燦々と空を照らしていた。
「それじゃあまた夜にみんなでくるよ」
そういうと彼女はまたねと笑った。
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僕は病院から出たあと、家に帰った。そのあとはだらだらと夏の暑さに溶け、時間を潰した。ある時間、夕暮れ時になってから僕は家を出た。自転車で風を背中に受けながらある場所へと向かう。慣れた動きで建物の裏に自転車を止めて、扉を開ける。
「おっ、ちーもう居るぞ」
目の前には大将がいる。そうここはバイト先である大衆居酒屋で今日は別にバイトをしに来たのではない。ある人物に呼び出されたのだ。
「それにしても大将、知り合いだったんですね。佐野先生と」
カウンター席には久しぶりに見るシルエットがあり、まだ昼なのにも関わらずお酒を飲んでいたようだった。
「言ってなかったか?俺らは高校時代からの親友だぞ。ほらめっちゃ前にこいつここに来たろ」
「いやその時2人が話してるところ見てないですけど」
「親友同士、話さずとも顔見ればだいたいどんな感じかわかるんだよ」
まさか2人が親友だったとは予想だにしていなかった。そんな事実に動揺しているとカウンター席に座っていた佐野先生が徐に席を立ち、テーブル席の方に移動した。
なるほどそこに座れと。
すっと木の椅子に腰掛けると先生は俯いた状態でいた。時計の針の音が何回か鳴ったあと先生は僕の目を見てこう言った。
「単刀直入に言うぞ。あと2週間で入江月はこの世から消える」
3人しかいない空間に静かな声が響いた。




