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恋焦がれ月夏に願うは誰が為か  作者: 月乃夢理
恋焦がれ月夏に願うは誰が為か
14/21

2人の月

保健室の扉をノックし、開ける。


「お、きたきた」


中には椅子に座っている紳助と水宮さんがいた。僕が来るまで待っていてくれたのだろうか。肝心の月はカーテンの奥のベッドで寝ているようだ。


「月はどうだったの?」


2人の座っている近くの椅子に座りながら聞く。


「軽い夏バテだって先生が」


夏バテか。今年の夏は昨年よりも暑いとニュースであっていた。確かに今年はエアコンを使い始めるのも早かったし、氷菓に費やすお金も多くなっているような気がする。


「月はまだ寝てるんでしょ?」


閉まっているカーテンの方をちらりと見て問いかける。


「そうよ。ぐっすり眠ってる。ここのところ勉強でよく眠れてなかったのだと思うわ」


それで体調を崩したということか。幸い今は夏休み真っ只中だから登校しなくて良い。不幸中の幸いだな。


「そういえば先生は?」


ここに来てから保健室にいるはずの先生がいない。

どうしたのだろう。


「あーっとね、先生今、月の保護者に連絡してるの」


そりゃそうか。娘が夏バテになったことはもちろん親に伝えなければならない。だからいなかったのか。


「先生が戻って来るまでは私たちが責任持って月についていなきゃいけないね」


「先生ももうすぐ戻って来るから雑談でもして時間潰そーぜー」



   ◻︎ ◻︎ ◻︎


程なくして先生は戻ってきて、僕たちは帰された。後で聞いた話によると月はその1時間後に目覚め、体調も戻ったためそのまま帰宅したらしい。何事もなかったようなので安心した。


「ちー次これ頼む」


「はーい」


夏休みに入った為、部活に入っていない僕はバイトに心血を注いでいた。


──ガラガラッ


「いらっしゃいませー」


「やっほーハルくん」


聞き馴染みのある声が鼓膜に響き、ほんの数秒フリーズする。意識を取り戻し、音源を辿ると月と紳助と水宮さんが扉の前によっ!とでも言うように片手をあげて立っていた。


「こ、こちらにどーぞ」


「うむ、くるしゅうない」


紳助がふざけて座るが、そんなことに気を向けられる状況ではない。まあ開き直るしかないけども。幸い今は紳助たち以外に客はいないので迷惑にはならないだろう。


「おーあんたらちーちゃんの友達かい?」


大将の奥さんが野菜を炒めながら首だけ後ろを振り返る。エプロン姿で一つ結びの髪が揺れている。


「ハルくんのお友達です!」


手を腰に当て胸を反らしあたかも自慢するように月が言う。

そうかいと奥さんは大将のように豪快に笑った。


「あんた!ちーちゃんの友達来てるよ!」


奥さんは奥の部屋に向けて呼びかける。


「おー!来てんねえ!」


奥の部屋から顔を出した大将がこれまた豪快に笑う。


「ちょっと待っとき!」


そういうとまた部屋に戻り、皿に盛った枝豆を持ってきて紳助たちの座るテーブルにどかっと置いた。


「常連の一人から豊作だからって大量に貰ったんだ。それサービスだから!ちーも客来るまでのんびりしといていいぞ」


大将はどこか嬉しそうにそう言うとカウンター席に座り、奥さんと話しているようだった。


「ねえ大将!女将さんとはどうやって結婚したの?」


僕も紳助たちの席に座ったとき、紳助が隣から大将に向けて質問を投げかける。何故急にとも思ったが、紳助の胸の内は探れない。急だなと大将は笑った。


「んー話すと長くなるからプロポーズのときの話でもするか」


紳助の質問に対してこちらを向いて何の疑念も持つことなく大将は語り始める。


「俺はあん時ビビリでな。結婚しようって言う前に会社で働いてたこいつを自分の店にいて欲しいなんて言えなかったんだ。そこでちーの地元、月山町に願い事が叶うっていう神社があるってちーの親父である悠也に言われてな」


その名前が出た時に胸がきゅっと絞られた。

悠也というのは僕の父親の名前で久しく聞いていなかった名前でもある。


「叶ったらいいな程度の想いで参拝した。そしたら急に勇気が出てな。翌日、会社帰りの美華を飲みに誘ってプロポーズした。我ながらロマンチックもクソもねえプロポーズだったと思うよ」


後悔はしてないけどなと女将さんの方を向いて大将は言う。そして、そんでなと大将は言葉を紡ぐ。


「不思議なことにその帰り、胸の中が嬉しさでいっぱいだったとき、ふと空を見上げるとな満月だったんだよ。昨日は新月だったってのに」


「あんた喜びすぎて酔っ払ってたのよ。あの日は繊月だったわよ」


「そうだったかぁ?」


あはははと大将は笑う。


「でも大将にだけ満月が見えてたってことは神様が大将におめでとうって祝ってたのかもしれませんね」


「紗良って案外ロマンチストだね」


水宮さんの横には微笑んでいる月がいた。


隣を見ると納得したような顔を見せる紳助がいた。そこに疑問は持てど何と聞けば良いか分からずそれは胸の中に押し込んだ。


──ガラガラッ


お客が来たようなので休憩は終わりのようだ。まだ日は沈んでいないが、これから退勤ラッシュの時間帯なので客が多くなりそうだ。そう思いながら席を立ち、接客を開始する。忙しくなるなと心の中でぽつりと呟いた。

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