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恋焦がれ月夏に願うは誰が為か  作者: 月乃夢理
恋焦がれ月夏に願うは誰が為か
13/21

〝時〟

終業式の日から14回月が沈んだ。

その間に遊びに出かけたり、誰かの家でゲームをしたり、勉強会をしたり、夏を謳歌した。

そして今日は学校での模試である。勉強をするために最近は集まったりしなかったので久しぶりに皆んなと会える日で案外楽しみだったりする。模試は勘弁だけど。

夏の茹だるような暑さの中、校門から抜けて今はもう葉だけになった桜の並びの木陰に逃げ込むように自転車を押す。いつの間にか散っていた桜が夏が春を奪ったのを改めて実感させる。

自転車のタイヤの廻る音と木の葉のざわめきが心地良く耳に響く。前までの汗は体の熱を奪ってくれている。昨日雨が降っていたせいか空気が透き通っているような気がする。夢見心地のように気持ちいい。

これで模試がなければなあ。

憂鬱な気持ちが時計の針が動くに伴い増幅していく。僕は今青い夏の中心で生きている。




   ◻︎ ◻︎ ◻︎


「終わったぁー!」

先生が最後の解答用紙を数え終わって礼をした瞬間聞き馴染みのある声が耳に飛び込んできた。今日の模試は主要3科目だけの小さなものなので午前に終わった。だから午後は遊べる、、、と言うわけでもなくこれから模試の解説と自習がある。それら合わせて3時くらいに終わる予定だ。昼飯を食べたらすぐに次が始まるため、休む暇は無さそうだ。



昼飯を食べて解説が始まり、休憩を挟んで2時間近く経過した。

今は国語の解説で佐野先生が教壇の椅子に座ってパソコンで仕事をしている。先生は模試の重要なところを簡単に説明した後、自習にした。なんとも先生らしい。


「先生、月が具合悪そうなので保健室に連れて行ってもいいですか?」


自習をしていると後ろから水宮さんの声が聞こえた。その声に反応して振り返ると確かに具合の悪そうな月がいた。顔は青白っぽくなっており、夏バテや貧血などの症状ではないかと予想ができる。


「ああ、水宮頼んだぞ」


無愛想な声で先生が応じる。

大丈夫なのだろうか。やはり心配だ。


「なあ、この次の授業で最後だからその後様子見に行こうぜ」


隣の紳助が僕の気持ちを察してか身を乗り出し耳元で囁いてきた。


「そうだね行こう」


「そうだ」


紳助に返事をしたら先生が声を出した。


「涼原この次終わったら職員室に来なさい」


先生は絶妙なタイミングで僕にそう言った。ここまで絶妙だと故意なのではないかと疑ってしまう。隣の紳助に前言を撤回し、ごめんと一言付け足す。ほんとに先生はタイミングが悪い。



   ◻︎ ◻︎ ◻︎


先生に呼ばれた通りに職員室に顔を出すと先生は隣の応接室に入るように言った。話が長くなるなと察し、覚悟を決めた。先生はどっかりとソファーに座ると僕にも座るように促した。やはりバイト関連だろうか。


「涼原、最近はどれだけ入江たちと会って遊んだりしてる?」


急な予想外の質問に声が詰まる。いつも通りというか何というかやはり先生の意図は読めない。


「夏休みに入って模試の勉強し始める前まではほぼ毎日のように会ってました」


先生がふーっと緊張を肺から出すように息を吐き、言葉を選んでいるかのように自分の顎に手を当てている。


「そうか、なら俺が画家みたいなことをやってるってのは水宮から聞いたろ?」


「、はい」


先生は水宮さんが僕達にその話をすることを知っていたかのように聞く。先生は何を言いたいのだろう。


「それでそのきっかけも聞いたと思うが、俺をそのときに励ましてくれた奴ってのは──」


そこで先生は一つ間を置いて口を開いた。

『今は亡きお前の父親で俺の親友だ』と。

頭を灰皿で殴られたような衝撃を受ける。その僕の様子を知ってか知らずか先生は言葉を紡ぐ。


「実はあいつの葬式に出てたからお前とは入学式に初めて会ったわけではないんだ。葬式んときはお前もまだ何が何だかわからず混乱してて、参列者の顔なんて見る余裕もなかったろ」


意味は分かるけど心が追いつかない。情報が机の上に段々と積み上がっていく。僕の父親が先生の親友、?聞いたこともない。いやそれもそうだ。こんなこと普通は入学してからすぐにいうことじゃない。でもやはり衝撃的だ。


「先生から見て、お父さんはどんな人でしたか」


頭から流れてきたものをぽつぽつと口から零す。その度に先生は丁寧とは言い難いが、応えてくれた。自分の知らなかった父の姿を先生から聞いた。そして、心が頭に追いついた頃、先生は突然こう言った。


「これからの話は一つの国語の勉強だと思って聞き流してくれていい」


そして、先生は語り始めた。


「お前の知っての通り、時間ってのは自分たちの都合によって早くなったり遅くなったりしない一定のものだ。これは分かるだろ?」


「はい」


「だが、〝時〟は違う。俺はこれは各個人によって進むこともあれば止まることもあると考えてる。例えばお前は両親を亡くしたときにその〝時〟は止まったはずだ。しかし、今では青春を謳歌できるほどに〝時〟は進んでいる。これからその〝時〟が鍵となってくる。だからこれだけは覚えておけどんなに辛いことがあったとしても再び動き出したその〝時〟だけは止まらせるな」


そう言うと先生は気が抜けたようにソファーにもたれかかり、またも息を長く吐く。


「あと今度お前んとこのバイト先に飲みに行くかもしれんから店長によろしく言っといてくれ」


んじゃもう帰っていいぞと先生は帰りを促した。部屋から出るとまだ太陽は燦々と輝っていて帰るには向いていない天候をしていた。

帰る前に様子見ておこう。

もう帰ってるかもだけど。

蝉が五月蝿くしている真ん中を通り、保健室に向かう。

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