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第5章 軋轢(あつれき)

シア姫と別れ、代理で葵に渡して欲しい――と一部のお菓子をレオナルド王子に託し、紗良は部屋に戻った。

静かな自室でただ一人、電池切れでつかなくなったスマホの画面を見る。

 手帳型のスマホカバーには、弟・祐樹(ゆうき)と撮影したプリクラが一枚、色あせて貼られていた。

 

(あ、ちょっと前のだ。いたずらで貼られたっけ)

 ふと、笑みを浮かべる。

 

 (お父さん、お母さん、祐樹……みんな、元気かな。それに葵は、どうしてるんだろう……)


 ただ、今の時点で自分にできることは限られる。

 紗良は別れ際のレオナルド王子の言葉を思い返した。

 

 『聖女は、一刻を争う事態であるがゆえに、お前と会えない。

 理由は今は、いえない。落ち着いたら話そう。

 ただ、互いに会いたいだろうし、そこは考慮して時間を設けるようにしよう――』 

 とレオナルド王子は約束してくれた。今は、その約束を信じるしかない。

 

 そしてここで新たに、隣国王子の来訪が近いとの情報が入った。

 なんでも、近隣国の召喚の儀はどこも不成功で、まずはこちらの聖女をみたい、と確認しにくるらしい。

 

 そして、掃除や衣装などで慢性人手不足状態となった。

 

紗良も、料理長と一緒に料理とデザートを一緒に考えることになった。

なんでも来訪のやり取りを交わしていると、先日の『異世界のお菓子』が話題にでたらしく、それを隣国王子がとても興味を示したらしい。

 

 しかしこの頃、わずかに減ったものの城内の”聖女もどき”という言葉はまだまだ紗良の耳に届いていた。

この日この時も、そうだったのだ。


「聖女様はいつになったら、結界を張ってくれるのかしら?」


紗良はたまたま通りかかった三人の侍女たちに絡まれていた。

この場合は囲まれていた、という方が正しいのかもしれないが。


実際その通りで、葵は毎日大聖堂に通っていた。

 どうやら結界をはるための儀式とやらを行っているようだが、それを紗良が知る由もない。


「あなたって、お菓子作り以外できないの?」

「だから聖女もどき、なんでしょう」


せせら笑う三人たちに紗良は反論できかねた。

その通りなのだ。紗良にはなんの力もない。

実はひっそりと魔力があるのだろうかと何度も試したが、紗良には氷一つですら作れなかったのだ。

それは、こちらの世界の住人には、当たり前のようにできる魔法とのことだった。 


 せめて、なにかしらの魔力があれば――、悔しがっていても、結果が変わるわけではない。


「聖女様も、エドワード様とずっと一緒にいるなんて」

「ずるいわ」

「でも気持ちはわかるもの。エドワード王子って本当に素敵よね、あの爽やかな笑顔なんて特に。でも、一緒にいるのって、本当になんでなのかしら」


要するに新参者が憧れの王子様と一緒にいるのが気に入らないのだろう。

それも、紗良にいったところで知る由もないし、まったく関係がない話なのだが。


「それは、あなたたちがエドワード王子本人に、直接きいてみればいいんじゃないの」

紗良は、あまり強くいうことができず控えめにいったが、三人の耳には届いていないようだ。


「まあ、レオナルド王子も素敵だけれども、笑顔がないのがちょっとね」

「この間なんて、お菓子が甘すぎる!って文句をいわれちゃったのよ」

ヒートアップした侍女たちはレオナルド王子の文句をいうようになっていた。


「ね、あなたもレオナルド王子はとっても冷たいと思わない?」


侍女たちはそう紗良に振ってきた。

紗良は直感した。なるほど、罠だ、これは罠。

自分たちの思想に引き込みたい、という独特の、(いや)らしい罠。

 

それに、紗良はレオナルド王子が冷たいとは、思えなかった。

 

「そうかしら?レオナルド王子は、とても優しく笑いますよ。ご存じないですか?」


自分に向けられたものならば耐えられる、けれどレオナルド王子や――特に葵に対しては納得がいかない。

紗良は今度は思い切ってそう反論した。


「レオナルド王子が笑うですって!?」

「みたことないわ、あり得ない!」

「そもそも、あなたみたいな、大したことがない子がなんでレオナルド王子と話してるの……」


侍女たちに驚かれ、紗良はここぞとばかりに反論するため、頷いた。

 

「わかってくれなくてとても残念だわ、本ッッ当に素敵な方なのに」


紗良は少し前の厨房での笑顔や、プリンを食べていた姿、紗良の言葉に驚いた表情を想い出した。

無口で少しわかり辛いところはあれど、悪い人ではない。

侍女たちは紗良の不敵な笑みをみて、みるみるうちに逆上していく。


「生意気ね……」


そういわれ、紗良はこれは叩かれるかも、と覚悟した。

そのうちの一人に手を振り上げられた瞬間だった。


「お前たち、何をやってるんだ?」

 

その声で侍女たちは固まり、慌てて周りを見渡した。

侍女たちの顔がみるみるうちに真っ青になっていく。

視線の先にまさかのレオナルド王子本人がいた。


「レオナルド王子!」

「いつから……」

「わ、私たちは別に……」


侍女は手を下し、口をパクパクとさせながら、口をつぐんだ。


「紗良に免じて、今の君たちの発言は忘れよう。ただし……俺のことが嫌いなようだし、俺の前に二度と現れてくれるな」


侍女たちは全てを聴いていたのだと悟り、逃げるように去っていった。


「どうもあなたはタイミングよく、いらっしゃいますね」

 

 もしかして、先ほどの自分の発言をすべて聞かれていたのだろうか――、とてつもなく聞かれたくない発言をしてしまった気もするが、紗良はそれ以上考えないよう、自身の発言は過去のものと認識し、頭の片隅に追いやった。


「妹いわく地獄耳でね。それにたまたま、といいたいが……ここではいえない、重要な話がある。少し、俺の部屋にきてくれないか」


レオナルド王子は真剣な面持ちで紗良を見やった。

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