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ショートショート3月〜3回目

くっつき虫

作者: たかさば

 ……毎月最終週の火曜、私は父親を歯医者に連れて行く。老いた父親はじゅうぶんに歯磨きができないので、専門家にケアしてもらわなければならないのだ。


 もうすっかり通い慣れた歯科医院。歯科医が複数在籍している、そこそこ人気の病院だ。

 広い駐車場があるものの、時間によっては停める場所が見つからないこともある。


 いつもは父親を出入り口に置いてから、少し離れた場所に停めて一緒に院内に入るのだが…、今日は一番近いところが空いている。左側に草がぼうぼう生えているのが気になるが、近いし……よし、ここに停めるか。


 父親を降ろして、受付をし、口内清掃をしてもらい、予約を入れて車に戻ると…右隣の車が信じられないほどこちらに寄せて停めてある。


 ……反対側から乗らないといけないな。


 そう思って、草をかき分け、車のドアを開けようと。


 ビッ…ビリ、びりびりびー!!


 足元で派手な音がして、何事かと思い、目を向ける。


 デニムのロングスカートが…破れた音?ドアの端にでもひっかけたのだろうか、そう思って裾を確認すると…げえ!!


 スカートにこびり付いているのは…くっつきむし!!


 緑色の塊がびっしりと紺色の布地に貼り付いている!ちょっと待って、信じられないくらいくっついてる、紺色にすじが入ったというレベルじゃない、明らかに一面グリーンになってる!!


「ごめん、ここ草がすごいからちょっとそこで待ってて、車前に出す…」

「いいよ、草なんて踏めば…」


 ざしゅ、ざざっ!


 ああ…、人の話を聞かない父親が、草を気にせずドアを開けて、緑色に染まったスウェットで、スニーカーで車に乗り込んでいく……。


「なんだ、すごいなあ、この草は…クククッ」


 困りつつも、面白そうに…ひと粒ひと粒指でつまんでいる。


「昔さあ、空き地で遊んでいたときに、よくくっつけては…おかあに取ってもらいよったんだわ」


 やけに良い笑顔をしているので、とても咎める事などできない。……気軽に足元に捨てているなあ、これは掃除が大変そうだ。


「ああ、そうなんだ。今日は私が取ってあげようね。取らなくてもいいよ、帰ったら着替えよう。下向いてて酔ったら大変だし」

「そうかい?」


 緑色の父親を後部座席に押し込み、自分も運転席に乗り込む。


 時折ビリッと音がするのは、くっつき虫がスカートと座席、どちらに貼り付こうか迷っているのだろう。……どちらに貼り付こうが、剥がされるのだけども。


 帰ったら…、神経質な母親がうるさいことを言うのだろうな。


 めんどくさいけど、まあ……くっつき虫はがしに集中してたら、気にはならないかな?


 手早く父親を着替えさせて、車の中で作業するかな。……そうだ、ついでに車の掃除もしよう、洗車もずいぶんしてないし。


「はい、じゃあ帰りますよ~」


 声をかけて…ゆったり車を…ああ、下向いてるなあ、くっつき虫が気になるんだな……。ニコニコしてるのは、おそらく……、遠い記憶の彼方に意識を飛ばしているのだろう。


 ……せっかくの思い出旅行中なのに、邪魔をするのもなあ。


 私は極力揺れが少なくなるよう、いつも以上に安全運転に努め、帰路についたのだった。

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