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彼女は

作者: RYUN

―――彼女が、笑った。


そう言われても、誰も純粋に驚けないだろう。

何故なら、彼女が笑うのはいつものことだから。

珍しくもないことだから。

その容姿にぴったりな笑顔を常に保ち、周りも輝かせてしまう彼女は、校内の人気者だった。



そんな彼女が、突然いなくなるなんて。誰が想像出来ただろうか?



―――彼女が、死んだ。


彼女は、殺された。

あんなに明るかった彼女が、あんなに美しかった彼女が。

理由は分からない。

…いや。僕だけが知っている。

誰も知らない真実を、僕だけが知っている。


何故なら………







「あ。」

「あ、広瀬君。偶然だね!」


偶然なんかじゃなかった。だって彼女は、僕が昼休みはいつも屋上にいるということを知っているからだ。彼女だけだと断定するのはおかしい。正確に言えば、みんな知っていることだろう。何故なら、僕はいつも一人だから。いじめられているわけでもなく、クラスメイト達と不仲なわけでもない。ただ、孤独を愛しているからだ。


「偶然?俺がここにいるって、知ってて来たんだろ?」


思わず口に出すと、しまった、と口を塞いだ。今気づいたって遅いのに。絶対、自意識過剰なイタイ奴だと思われた。そう思いながら、恐る恐る顔を上げてみる。すると、そこに見えたのはいつもと変わらぬ彼女の美しい笑顔。


「うん。」


と彼女は、余計な言葉などは言わず、簡潔に答えた。気を遣ってくれたのか、僕の言った通りなのか。どちらかはよく分からないけど、あまり恥ずかしい思いをせずに済んだ。


彼女が返事をしてから、彼女と僕は黙りこくったままだった。お互い言葉を発することなく、ただ沈黙を貫いていた。


「ねぇ、広瀬君。」


彼女が、暫くの沈黙を破った。僕は俯かせていた顔をゆっくりとあげ、彼女の呼びかけに応えようとした。けれど、その前に彼女が僕の発言権を奪った。


「私って、暗いかなぁ」

「は?」


あまりにも拍子抜けな質問に、唖然とした。だって彼女は、明るくて美人な人気者だったから。そんな彼女のどこに、暗さなどみられただろうか。


「私、もう疲れたの。」

「………。」


そう言われて、ハッとした。もしかして彼女は、僕の思っている彼女とは違うのかもしれない。僕だけじゃない。みんなの、彼女以外の人が「彼女」を誤解している。多分、彼女の心も。


「完璧を演じるなんて、私には無理。もう、今まで十分頑張った。だから、もういいかな…なんて」


この時に見せた笑顔は、やはりいつもと変わらない笑顔だった。

ああ、そうか。本当に、僕は「彼女」を誤解していたんだな。


本当の「彼女」を全て理解したわけではない。けれど、これだけは分かった。

―――彼女は、笑えない。


「でも、全てが嘘ではないと思うんだ。」

「え?」

「広瀬君が好きだったよ。」


突然の告白に、高鳴る鼓動。

嬉しいはずなのに、返事が出来なかった。


「だから、せめて広瀬君には真実(ほんとう)の私知ってほしかったの。」


そう言って微笑んだ彼女は、今までに見たことのない表情をしていた。どう表せばいいのかが分からない。けど…美しかった。これしかいえない。


「…じゃあね、広瀬君」

「え?」







数秒後に、屋上にまで響くような悲鳴が聞こえたのを覚えている。

そして、その悲鳴の理由(ワケ)も、僕自身でみてしまった。


それは、美しかった彼女からは想像出来ないような姿だっただろう。

けれど、僕にはそれが彼女の今までの姿で一番美しく思えた。





―――彼女は、殺された。

あんなに明るかった彼女が、あんなに美しかった彼女が。


そんな彼女を殺したのは、「偽者の自分」に耐えられなくなった、「真実(ほんとう)の彼女」―――

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― 新着の感想 ―
[一言] この時期の少女の気持ちが、すごく伝わってきます。ある日突然疲れてしまうってあるんでしょうね。 とても心に残る作品です。
2009/12/13 11:38 退会済み
管理
[良い点] Ryun様初めまして、聖闘士と申します。 短いながらも濃密な物語をありがとうございました。 この作品では『真実の彼女』に彼女自身を殺された、となっていますが、私は彼女を殺したものは…
[一言]  この世に完璧な人間なんていない。 短いストーリーの中でぐっと感じました。  彼女が本当の自分を好きな人に解って欲しいと見せた笑顔のシーンはちょっと胸が痛みました。  人間ってあるよな…
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