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百物語

作者: 駿介

 「なぁ、『百物語』やろうぜ」

 気の置けない男四人組でコテージを一棟借り切っての、高校最後の卒業旅行。

 その初日の夜に唐突にそう言い出したのは、ひょうきん者の宏人ひろとだった。彼は根っからのオカルトマニアで、毎度どこからともなくその手のネタを仕入れてくるのだ。宏人の言葉に、隣にいた陸が反応する。

 「百物語? それって何?」

 「ロウソクを百本灯して、暗い部屋で怪談話を順番に話していって、話し終わったらロウソクを一本消すんだ。んで、百本目を消す時に怪奇現象が起きる、ってやつ」

 「ふーん、面白そうじゃん」

 宏人程ではないが、彼もオカルト的なものが好きな人間である。

 「だろ?」

 「でも、ホントに怪奇現象なんて起きるのか?」

 「そんなの、やってみれば分かるだろ」

 「いつやるの?」

 「最後の夜、バーベキューの後にやろうぜ」

 「まぁ、いいけど……。大樹はどう思う?」

 陸が唐突に話を振ってきて、思わず大樹だいきはどぎまぎしてしまう。

 「えっ、俺は……、雅輝まさき次第かなぁ」

 大樹は自分と同じように聞き役に回っていた、幼馴染の雅輝の方を見る。

 「俺は、別にやってもいいよ。ま、そういうのあんまり信じないタイプだけど」

 「よし、じゃぁ決まりな!」

 宏人は大樹の答えを聞く前にもうやる気満々である。あまりこの手の物が好きでない大樹は、正直あまり乗り気ではなかった。ただ、雅輝のやりたそうな顔を見て、大樹は参加することにしたのだった。



 その次の晩。

 宏人は宣言通りにロウソクを百本用意してきて、それを部屋の真ん中に置いた。

 「ルールは昨日言った通り。庭のバーベキューやった場所にロウソク用意するから、話し終わったヤツがそれを一本ずつ消すこと。消したロウソクは持って帰ってこいよー」

 「オッケー」

 他の三人が異口同音に返事をする。

 「じゃぁ、じゃんけんで順番決めようぜ」

 大樹がじゃんけんに負け続け、陸、宏人、雅輝、大樹の順番になった。部屋の電気が全て消され、代わり映えしない、どこか聞いたことあるような怪談話ばかりが次々と語られていく。よくある学校の怪談や七不思議に始まり、彼らが通う高校の話、その近くにある心霊スポットの話、果てはネットの掲示板に転がっているような都市伝説まがいの陳腐な話まで、色々な話が順繰りに登場していった。

 そして、半分を過ぎた頃───。

 「さすがに、もう話すネタなくなってきたね」

 陸が少し疲れた顔でため息をついた。

 「ま、ホントは全部怪談話じゃなきゃいけないらしいけど、奇妙な話とかいうくくりでもいいらしいな」

 「へぇー、それならまだ少しネタあるかも」

 「陸、何話すの?」

 「うーん、恋バナとか?」

 「あ、それも面白そうじゃん」

 「え、雅輝がそういうの食いつくなんて珍しいじゃん」

 「そりゃぁ、俺だってそういう話する時もあるよ」

 陸と雅輝のやり取りを大樹は複雑な心境で聞いていた。幼馴染である大樹でさえ、雅輝とはその手の話をしたことがないのだ。

 「え、ナニナニ、お前好きなヤツいんの?」

 二人の会話に、宏人が小学生のようなノリで割って入る。

 「そういえば、俺もそういう話聞いたことないな」

 陸もさっき以上に食いついている。

 「……俺、好きなヤツいるよ。でも、秘密」

 雅輝の言葉に、大樹はその場から逃げ出したいような気分だった。暗がりで顔がハッキリとは見えないことが、大樹にとって救いだった。

 「何だよー。面白い話聞けるかと期待したのに」

 「でも、ある意味奇妙な話だよね」

 「何が?」

 「だって、お前のそういう話全く聞いたことないからさ」

 「俺、別にそういうの自分から言ったりしないし」

 打ちひしがれる大樹をよそに、三人は呑気に会話を続ける。

 年頃の男ばかりが深夜に集まっているとあって、恋愛話は怪談話以上に盛り上がった。だが、雅輝の思わぬ告白に、その後の話は何一つ大樹の頭の中に入ってこなかった。



 そうして、とうとう百本目になった。

 百話目を話し、大樹は恐る恐る庭に出た。

 暗い庭の奥の方に、ロウソクが一本だけ灯っている。ロウソクが置いてある場所は昼間見た時は何とも思わなかった距離だったのに、今の大樹には果てしなく遠く感じられた。一歩ずつ踏みしめるようにゆっくりと歩いていき、大樹はロウソクが置いてある庭の隅に立った。

 このロウソクの火を吹き消すと、何か不思議なことが起こるかもしれない。

 そんなの嘘に決まっている、と思いながらも、臆病な大樹は少し躊躇した。だが、そんな恐怖よりも、大樹は雅輝の告白の方が気がかりでならなかった。意を決して、大樹はチビたロウソクの火をふっと吹き消す。途端に、辺り一面にべったりと塗られたような真っ黒な闇が広がった。闇の中に手を伸ばすと、ねっとりと闇がまつわってくるかのようだった。さっさと戻ってしまおう、と思う一方、大樹は雅輝と顔を合わせたい気分ではなかった。

 明日で旅行が終われば、もうこうして四人で集まることもない。

 ふとそんな感傷が、大樹の頭に浮かんだ。春からは、物心ついた時から毎日の様に顔を会わせていた雅輝とも、離ればなれになるのだ。

 大樹は相変わらず雅輝の好きな人相手のことを空想していた。そういう相手がいるであろうことは想像していたが、いざ言葉にされると中々に堪えるものがあった。それと同時に、自分が雅輝に想いを寄せていることを誰かに悟られていないか気が気でなかった。

 恐怖も忘れて考え込む大樹は、初め「その声」に全く気付かなかった。

 「おい! 何度呼ばせるんだ」

 「え? 誰?」

 ドスの利いた無気味な声に、大樹はその場にしゃがみ込む。氷水を浴びたかのように、大樹は小さく震えていた。

 「お前のことは全てお見通しだ」

 「えっ、何で?」

 「お前、あれで隠してるつもりだったのか?」

 「えっ、じゃぁ、俺が雅輝のこと好きなことも……」

 例の声は帰ってこない。だが、少し離れた草むらで、聞き慣れた笑い声が聞こえてきた。大樹が目を凝らして見ると、そこには雅輝が立っていた。

 「雅輝…」

 今の自分の言葉を聞かれてしまったのだろうか。それは大樹にとって、幽霊なんかより遥かに恐ろしいことだった。

 「いや、アイツらにお前のこと脅かしてこいって言われてさ…」

 雅輝の持つスマホでは、ボイスチェンジのアプリが起動していた。

 「えっ…」

 頭が混乱する中で、大樹はもう手遅れであることを悟った。

 「ゴメン…、気持ち悪いって、思ったよな」

 「いや、そんなことない!」

 「お前、やっぱ優しいな…」

 「俺が言ってた好きなヤツって、実はお前のことなんだ」

 「やめろよ、そんな冗談」

 「俺がそういう冗談言えないの、知ってるだろ?」

 予想だにしなかった雅輝の言葉に、それ以上大樹は何も言うことができなかった。

 「大樹、お前のことが好きだ」

 雅輝が大樹を力強く抱きしめた。

 

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