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7/60

第7話:出会い(7)

 2010/03/23 表現内容を修正(話の展開も最後を少々修正)

 2010/04/16 修正版を更新(いくつか表現を修正、今までの流れは変えていません)

 2011/11/08 表現内容を修正(話の展開も最後の方が変わっています)

 ほんのりと辺りを照らす程度の月明かりの下、まだ新雪の積もる雪山の斜面を走り続ける人影があった。

常人とは思えぬスピードでありながら、まるで平地を走っているかのように木々の間を軽快に走り続ける影。

ただ、その数は1つではなかった。

高速で移動し続ける影は分身でもしたかのように1人が2人、2人が4人と増えていき、最後には約30人ほどの大所帯へと変わる。

影の団体は少し開けた所へ抜け出ると足を止めた。

そこに現れたのは雪に紛れるための白迷彩服の下に防弾チョッキや防刃アーマーを着込み、手にはサプレッサー付きP90(サブマシンガン)で武装した一団だった。

全員が辺りを警戒し、場には緊張感が漂っている。


 「クリア」


 「クリア」


 「警戒を続けろ、何かあれば知らせろ」


腕に装飾の施された腕章をつけた指揮官らしい男が命令を飛ばす。

彼自身は警戒には加わらず、何かを探すように辺りを見回して歩き回る。


 「・・・ハッハー、見ーつけた」


ふと、彼はある一点で目を止めた。

彼が凝視する先には、木の枝が何かに巻き込まれるように不自然に折れている木があり、彼は警戒する部下そっちのけで移動する。

茂みを掻きわけて彼が進んだ先には、何本もの枝が縦に折れている中心に綺麗な半円状の大きい窪みがあった。

姫が落下の際に造ったそれを見つけた男は口の端を吊りあげる。


 「ふん、ここに落ちて・・・更に飛んだらしいな。巨大な魔力を感知してやってきたがどうやら大当たりらしいな」


 「隊長、追いますか?」


 「ああ、本部に連絡を入れておけ。まだなにかは分からんがもしかするとこれは奴かもしれん」


 「奴・・・『旅人』ですか」


 「まぁな、これが当たりかどうかは直に見なきゃわからん。まぁ、聞いている話通りなら内心戦ってみたくてしょうがないがな」


元傭兵として戦場を駆け回り続けた隊長の一言。

その一言で、彼の部下として同じように戦場を渡り歩いてきた男達の頭に過去の記憶が蘇る。

常に死神が付きまとっている様な神経がひり付く感覚の中で戦い続け、仲間の死を直に自分達の目で何度も見てきた。

そして、自身が怪我を追うと消耗品と同じように簡単に切り捨てられた時、『W2』に拾われたが戦う力を与えられたもののやる事は単調な仕事だった。

戦場に比べれば穏やかな毎日だが、彼らはただ燻り続け、生活に満足している者は誰一人としていなかった。

それがただの一言により、久しく感じていない高揚感、あの戦場に戻ったかのような緊張感が全員の体の中を貫くように駆け巡る。

彼らが伝え聞いている『旅人』が追う先にいるのなら、それは化け物対自分達という図式になりかねないからだ。


 「隊長!捜索を続行し、『旅人』であるならすぐに連絡し、監視しろとの事です」


 「よし、とりあえず奴かどうかは置いといて追うぞ」


隊長が手を挙げて前に進むよう合図する。

俊敏に全員が動き、あっという間に何者かが消えていった方向へと向かって広場からいなくなってしまう。

その胸中では、これから遭遇するかもしれない者に期待を膨らんでいた。





 「姫~?どこですか~?」


瞬は消えてしまった姫を探して洞窟の奥へと進んだ。

だが、思ったよりも洞窟に奥はなく、彼は洞窟から出てみたがどこにも姫の姿は見当たらない。

彼女が消えた事実は意識のなかった彼には分かるはずもない。


 「姫・・・どこにいったんですか?僕はどうすれば・・・?」


自分を連れ回した姫の姿が見えないのに落胆すると、彼は一旦洞窟の中に戻ると手頃な岩に座り込む。

溜息をついた彼は自分の服装を見直して見る。


 「やっぱり、『旅人』になったって言う事なんだろうな」


彼の記憶にあった服は入院服だったのだが、意識が戻った時に来ていたのは姫と同じ古い旅人の恰好だった。

更に、彼は今までに感じたことのないような巨大な力、強さといったものを体中から湧きあがるのを感じていた。

何気なく転がっていた石を手に取った彼は軽く外へと投げてみる。

すると、石はまるで弾丸のように一直線に飛んでいき、木に当たると鈍い音を上げて振動が木を揺らし、枝の上に積もっていた雪が全て下へと落ちた。


 「な・・・」


信じられない出来事に瞬も固まる。

あまりにも予想と違う石の動きぶりに、彼は夢でも見ているのかと本当に勘違いするほどだった。

さすがにこの力で軽くでも頬を抓る気にはならなかったようだが。

これが全力ならどうなるんだろう?

自身の力を把握するため、今度は立ち上がり本気になって瞬は石を投げる。

狙いは先ほどと全く同じ場所。

ただし、その結果はまるで違っていた。

彼の手から離れた石は・・・消えた。

正確に言えば、常人の目には捉える事もできないスピードを出し、誰の目にも映らないだけだ。

投げたと思った次の瞬間には轟音を上げ、木に深い窪みを作りながらも石自体が粉々に砕けていた。


 「す、すごい・・・。これが『旅人』の力の一つなのか」


元々、力などに興味が湧かない瞬でさえ、常識はずれな力に気分も高揚する。

彼の頭の中は想像を超える力を試してみたい欲求のみで埋め尽くされ、姫を探す事を一旦止め、他の力を試しにかかる瞬。

意気揚々とやり始めたまではよかったが、すぐに彼は手を止めた。


 「やり方が分からない・・・」


『旅人』になったからには瞬にも魔法は使えるのだろう。

ただ、今の彼にはそのやり方も何も分かりはしなかった。

教えてもらっていないのだから、当然と言えば当然だ。

なれば自然と使える物だと思っていた瞬だが、姫がやっていたように頭で出したい物をイメージしながら手を出しても何も出ない。

何度か試しても結果は空しいものだった。


 「う~ん、『リアルメモリー』よりは『イージスの盾』の方が簡単な気がするし、そっちを先にやってみよう」


彼が覚えていた限りでは、『イージスの盾』を出す時に姫は特に身振り手振りもしてはいなかった。

イメージする力がいるであろう『リアルメモリー』よりもON・OFFのみで出来そうな『イージスの盾』が簡単と思えるのも最もだ。

その切り替えは頭の中ですると考えた瞬は、試しに『イージスの盾』を思い浮かべる。

透明な最強の盾は出ているのかが彼には分からない。

試して見るべく、瞬は足元にあった石を手に取って軽く投げると、意思は洞窟の壁で跳ね返り瞬へと向かう。

彼のイメージではそのままどこかに飛んでいくはずだった。


 「痛っ!?」


のだが、石は瞬の頭へとぶつかって地面の上を転がった。

木を揺らすほどの剛速球に近い速度で飛んでいた石だったが、体が強化されているため、瞬はそんなに痛がっている様子もない。

出ない最強の盾に疑問を浮かべるだけだ。


 「ん~、どうやったら盾が出てくるんだ?」


 (馬鹿者!魔法を出す場合はキーワードが必要だ)


 「そうか、呪文みたいなものか・・・って、姫!?ど、どこに?」


彼はすぐさま辺りを見回してみるが、どこにも声の主の姿は見えない。

声が聞こえたというよりは頭に声が直接入ってきたような感覚。

初めて体験する感覚を瞬が不思議に思っていると、またどこからともなく彼の頭に声が届く。


 (お前の中だ)


 「僕の・・・中、ですか!?」


 (先に言っておくが、私はもう消えたも同然な存在。正確に言うなら魂だけの存在であり、お前の体の中に留まっていることで会話だけ出来ている状態だ。今はどうにか会話できるが、それもすぐに出来なくなる)


 「出来なくなる?どういう事ですか?」


 (私の魂は別の存在へと転生するための準備に入る)


 「・・・よく分かりませんが、まさか、死んでしまったという事ですか?そ、そんな・・・」


 (気にすることはない、『旅人』の継承はこうして行われる。『旅人』を今以上に増やすという事はできないからな)


 「気にしないなんて出来るわけないでしょう!僕が『旅人』になったから貴方が死んでしまったという事じゃないですか!それならそうと事前に・・・」


瞬はその場に頭を抱えながら項垂れる。

自分が『旅人』になりさえしなければと本気で後悔をしていた。

彼は命という物は重い物であり、簡単に捨てたり、ましてや奪ったりする物ではない事を常に頭の中においていた。

生物や植物にも同様の考えであるため、殺して食べる事で自身が生き延びる事は人間の罪の一つだとも考えている。

ただ、今回に限って言えば、瞬自身も気づいていない姫に対する感情が考えに強く絡みついていた。

最早、彼の中には後悔の念しかない。


 (・・・事前に知っていたら優しいお前の事だ、絶対にやらなかっただろう。それでは困るんだよ)


 「困る?貴方の命を引き換えにしてまで僕を『旅人』にする価値でもあるというんですか!」


 (ああ、その通りだ)


 「は、ははっ、残念ながら僕にそんな価値はないですよ。何しろ、好きな人に告白の一つもできないただの気の弱い奴ですよ」


 (まぁ、今はそうかもしれないがお前は変わるよ、私が保証する。だから、私の事でそんなに気負うな。・・・それよりも敵がまた迫ってきているかもしれない、『イージスの盾』と『リアルメモリー』のキーワードはお前の脳に刻まれている。意識を集中してまずキーワードを引っ張り出してみろ)


まだ心の整理がつかないままである瞬。

どこか彼女に誤魔化された様な感じはぬぐえないものの、ひとまず言われたとおりに意識を集中させる。

記憶の海からサルベージを行うように深く奥へと潜っていくイメージの中、彼は今までに聞き覚えも見覚えもない単語があるのに気づいた。

どこの国の文字かもわからない様な文字はだが、不思議な事に瞬には読み方が理解できていた。


 「これかな?でも、言葉に出せないよ、姫」


 (言葉に出す必要はない。その言葉を頭の中で呼んでみろ)


言われたとおりに瞬は頭の中でそれを唱えてみる。

すると、彼の体中が何かに包まれたような感覚があり、恐る恐る瞬が手を伸ばしてみると姫が出していたのと同じ『イージスの盾』の感触があった。


 「出た・・・」


 (それでいい。出す時と消す時はその単語を頭の中で唱えろ。その調子で『リアルメモリー』もやってみろ)


同じようにもう一度聞き覚えも見覚えもない単語を彼は見つける。

単純に彼は『イージスの盾』の様に唱えてみたが、さっきとは違って特に変化は起こらなかった。

姫の時は淡い光が溢れて、手の中に物が生成されていたが手の中にも何もできてはいない。

瞬はキーワードが間違っていたのかと思ったが、よくよく考えれば何を作るべきなのかの情報を与えていないのに気づいた。

とりあえず、彼はさっき投げた石を思い描きながらキーワードを唱える。

すると手の中で淡い光が溢れだし、光が凝縮した次の瞬間にはさっき投げたのと全く同じ石が出来上がっていた。


 (ほう、最初で出来るとは優秀だな。だがいいか?これを何時いかなる時でも即座にできるよう練習しておけ。もしもの時、イメージすらまとまらなかったなら何も作成することはできないのだからな。試しに色々やってみることだ。食べたい物だろうが、武器だろうがなんでも作ってみろ)


 「・・・分かりました。やってみます」


彼は石を作った時と同様に頭の中でイメージを作り、キーワードを頭の中で唱える。

また淡い光が溢れだし、凝縮した光の中から今度はイチゴのショートケーキと香り高い紅茶のセットが現れ、彼が持つお盆の上に収まっていた。


 (クククッ!またケーキか!アッハハハッ!)


 「い、いいじゃないですか、好きなんですよ。心を落ち着けたい時にはこれが一番なんです。これは食べても・・・?」


 (大丈夫だ、心行くまで堪能するがいい。)


 「そ、そうですか。では」


瞬は嬉々としてフォークを手に取り、弾力のあるスポンジケーキを押し込むように切ると、三角状に切れたケーキを突き刺したフォークで口の中へと放り込む。

生クリームのなめらかな口当たりの後に強いけれども上品な甘みが口いっぱいに広がり、イチゴの甘酸っぱさとスポンジの弾力を噛みしめる事でじっくりと味わう。

彼の中で最高峰に位置する地元で有名なパティシエが作ったケーキは瞬の心を解きほぐし、少しだけ憂鬱な気分を解消させていく。


 「おいしい・・・。あの時食べたケーキの味、記憶の中にあった物そのままです」


 (それがお前の力だ。使い方次第では誰をも喜ばせる事も出来るが、誰をも恐怖に陥れることもできる。お前なら力に溺れる心配はなさそうだが気をつける事だ。まぁ、ケーキなら私がとびきりの奴を作ってやりたい所だったがな)


 「姫の手作り・・・。ぜひ、食べてみたかったな」


また自分が命を奪ってしまった事を悔いてしまい、瞬は途中まで手をつけていたケーキをキーワードを唱えて淡い光へと変えて消した。

そして、彼はうずくまるように小さく丸まって足の間に顔をうずめながら座り、落ち込んで顔を上げようとせずにため息をつく。


 (中々難しい奴だ。気にするなと言って・・・盾を出せ!)


 「え?どうし」


 (早く!)


突然の緊迫した姫の声に瞬は埋めていた顔を上げて『イージスの盾』をすぐに展開する。

その直後、盾の表面に目にもとまらない速さで何かが飛んできた。

瞬が驚く間もなく、盾によって流される様に弾かれた何かは洞窟内の地面や壁で何度か跳ね、最後には力を失って下へと落ちる。


 「な、何だ!?」


いきなりの出来事に彼は落ち着かないまま落ちたそれを見る。

彼の周りには変形した金属が幾つも転がっており、それが発射された弾丸だと気付くのはすぐだった。

もし、盾の展開がもう一息遅ければ銃弾は間違いなく瞬の頭や体を貫いていた事だろう。

その事実に気づくとゾッとする寒気を瞬は感じ、身震いしながら腰を抜かしてその場に座り込む。


 「な、なんですか一体!?なんで弾が!?」


 (敵だ。気をつけろ!もうそこまで来ているぞ!)


無傷ではあるものの反射的に近くの岩陰に瞬は隠れる。

表からは瞬がいる場所は見えてもそう容易に狙えはしない。

だが、そんな事などお構いなしに無数の銃弾が瞬目がけて飛び交い、強力な弾丸の波に岩は徐々に削り取られていき、終いには砕けてしまう。

身動きが取れない瞬の姿は敵の前に露になった。


 「わぁぁっ!」


咄嗟に動く事が出来ない彼だったが、彼を襲う大量の銃弾は瞬の意思とは無関係に次々と弾かれていく。

弾幕は途切れる事はなく続くものの瞬は怪我の一つも負ってはいない。


 (しっかりしろ!お前は無傷だ!)


 「え?あ・・・」


姫の言葉で我に返った瞬は1発も弾を食らっていない事で多少の余裕が生まれた。

とにかく逃げようと抜けた腰でどうにか彼は立ち上がる。

岩や雪が砕けて舞い散って粉塵立ち込める中、視界はまるでないものの彼は歩き出そうとした時だった。


 「・・・音が止んだ?銃弾も?」


今までの攻撃が嘘のように止まり、辺りは元の静寂に戻ったかに思われた。

この隙にさっさと逃げよう!

方針を決めた瞬は不意に耳で何かが転がる洞窟内で反響する音を捉えた。

それもただの1個ではなく、幾つもの堅い何かが転がって瞬の方へと寄ってきているのに彼は気づく。

ちょうど粉塵の切れ間から彼の足もとへと転がってきたそれに、薄暗がりながらも丸い金属製の物体に彼は見覚えがあった。


 「これは・・・まさか、さっき見たっ!?」


 (手榴弾だな)


 「し、手榴弾!?」


驚く彼の前に粉塵の切れ間から更に大量の手榴弾が顔を出す。

途端に転がっているそれの最初の1つが爆発し、続けて転がってきた手榴弾全てが爆発し、合わさった大爆発が瞬を襲う。

洞窟内を全て吹き飛ばすほどの爆発は次々と洞窟内部を破壊し、洞窟は跡形もなく崩れていく。

大量の粉塵が辺りに舞い散り、辺りはもう一度静かになった。


 「やったか?」


崩れた洞窟の周りの木々から白いニット帽で顔を隠した一団が現れる。

P90を構えながらゆっくりと前進し、警戒を続けながら洞窟の跡地へと歩み寄る。

彼らの心の中ではこれだけやれば生きてはいまいと、幾度にも渡る戦場での経験から多少の気の緩みがあった。

ただ、彼らはすぐにその認識が甘く、気を締め直す事となる。

洞窟が崩れて積み上がった岩が彼らの目の前で微かに動いたかと思うと、次々に岩が弾け飛ぶように空へと飛び上がり、彼らの間に緊張が走った。

反射的にP90を構えている先で、最後の岩が飛んだかと思うとその中から『イージスの盾』に守られた瞬が現れる。


 「ば、馬鹿な」


 「はぁはぁはぁ・・・、び、びっくりした。生きてる・・・?」


 (当たり前だ。核爆発でも耐えるといっただろう?ほら、次はお前の番だろ。思うとおりにやってみろ。ちょうど向こうから出てきたしな)


動かない連中が見ている前で、『イージスの盾』の信じられない強度に瞬は段々と落ち着きを取り戻していく。

彼は頭の中で病院の屋上で見せてもらったハンドガンタイプの麻酔銃を頭に浮かべ、心の中でキーワードを唱える。

すると、彼の手の中に淡い光が集まり、形をなしたかと思うと手の中に麻酔銃が収まっていた。

映画などの見様見真似で、瞬は固まったままの手近な者へと狙いをつける。


 「はっ!?」


狙われているのに気づいた男は逃げだそうとしたが、瞬が引き金を引く方が早い。

腰は引けてはいたものの、しっかりと狙いをつけて撃たれた麻酔針は『イージスの盾』を通り抜け、男の背中へと突き刺さる。


 「ぎっ?」


小さい痛みに逃げ続けようとした男だったが、襲いかかる睡魔に抵抗も出来ず、意識は夢の世界へと連行されていく。

前のめりになって男が倒れ、我に返った一団はP90で瞬を撃ち始めた。

連中が必死で撃ち続ける中、場違いにも瞬は初めて人を撃って当たったのに驚き、戦場のど真ん中で立ち止まっていた。


 「あ、当たった」


 (無風なのが幸いしたな。よし、この調子でやるんだ)


 「はい!」


動きまわりながら襲いかかる男達へと彼は麻酔銃を向けて撃つ。

それは言ってしまえば無敵状態のシューティングゲームだった。

敵の弾は隠れなくても撃ち落とさなくてもライフは減らず、さらにこちらはいくらでも撃ち放題であり、時間も無制限のためゆっくり狙って撃っても構わない。

人を撃つ事に多少抵抗がある瞬でも、簡単に倒していく事が出来る。

最後には彼の感覚が麻痺してきたのか、淡々と狙って撃つという作業をこなし、次から次へと一団の数を減らしていく。

その様子を木の陰から見ている者がいた。


 「っち、ここまで一方的かよ!にしても、話とは違ってまるで遊んでいるかのようにチマチマとやりやがる!くそ、見てやがれ!」


一方的に戦える隊員の数を減らされるのを目の当たりにした隊長は、手元のトランシーバーを軋むぐらいに強く握り、まだ動くことのできる部下達に指示を出す。

即座に指示に対応した部下達は、その場から木を蹴って空へと飛び上がると木から木へと高速で飛び移りながらまた銃撃を続ける。


 「くっ!狙いづらい!


飛びまわる隊員達に狙いが定まらずなかなか撃つ事が出来ない瞬。

その立ち尽くす瞬を狙って、隊長は特殊な形状のロケットランチャーを構えていた。

彼は組織内で試験的に作成されたロケットランチャーの威力を信じ、赤くぼやける様に光る弾頭を360度から銃撃を受け続け、狙いをつけられずに立ち尽くす瞬へと向ける。

頼むぞ!奴を焼き尽くせ!

強く願いながら、彼は引き金に指をかける。


 「散れ!」


彼の部下は一斉にその場から飛び去り、残った隊長はまだ反応していなかった『旅人』めがけて引き金を引いた。

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