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第39話:アジア統括支部(5)

2011/06/19 最後の部分を修正

 獲物が罠にかかった事に喜び、溜まっていたストレスが抜けていく様な感覚を覚えるアジア統括支部長、グラン・ヴォルト。

ここ数カ月の間感じた事のなかった解放感に浸り、その快楽に近い感覚に彼の体は小刻みに震えていた。

見下ろす『ホール』には僅か5cm先すら見えないほど濃い霧が溜まり、その中にいた者は全員霧の中へと呑まれた。

脱出不可能な霧の中へ、だ。

それこそがまさに彼の待ち望んだ瞬間だった。

いつもは冷静であり疲れた様子の彼だが、この時ばかりは自然と体全体でガッツポーズを取るほどの快感と興奮が脳内を駆け巡る。


 『支部長!この霧は一体・・・?』


ふと手に持っている指示用に持ち出した通信機からの声に我に戻る。

さすがにガッツポーズは止めたものの、興奮はいまだ冷めあらぬといった状態だ。


 「やったぞ!『旅人』を閉じ込めた!『ニブルヘイム』の中にだ!ハーッハッハッ!」


 『あ、あの、それはテリトリー魔法の事ですか?』


今まで接した事もない様なテンションの上司に部下は困惑気味に尋ねる。

それに気付いているのかいないのか、グランの勢いはいささかも衰えず、それに乗る様に答えた。


 「その通りだ!『ホール』のあの様子が見えるだろう!?あれは実験動物から抜き取った魔法の1つで、内に閉じ込めた者を絶対に外に出す事はない魔法だ!これ以上ない程に完璧な檻なのだよ!」


 『は、はぁ・・・』


捲し立てる様に早口で言うグランに対して、通信相手である司令室の部下はただ曖昧な相槌を打つしかなかった。

ただの空間魔法である割には上司のこの喜びよう。

部下が破られるのではないかと懸念しているが、それすらも馬鹿馬鹿しい事だと言っているかの様にグランは笑い続ける。

まるで相反する2人の反応だが、どちらともある意味自然といえる反応だった。

今まで秘匿され続け、アジア統括支部内はおろか『W2』でも知るのは極少数という『ニブルヘイム』。

作り上げた霧の檻の中では全ての出口は入口となり、内部に入った者を逃しはしない。

テリトリー内の魔法使いを捕える以外、いかなる手段を用いても脱出は不可能とされ、捕える手段としてはこれ以上ない程有効な魔法ともいえる。

それを知っているグランは勝ちを確信していたが、それを知らない部下としては上司の笑いの意味もおそらく1割程度しか理解していないだろう。

そもそも捕えたからと言って『旅人』の力を手に入れた訳ではない。

笑い声の中で冷静に考える部下だが、それも見越したようにグランは先に口を開いた。


 「よし、『ホール』内の固定砲台を全て起動させろ!銃座も出せ!一斉射撃後、自動制御の『ウォーカー』と実験動物を突入だ」


突然の命令に驚いた部下だが、それよりもその内容に驚く。


 『一斉射撃って・・・、そ、その何処に向かってですか?』


 「決まっているだろ?霧の中に向かってだ!撃ち込んだ弾丸は外にも抜けず、何度か霧の壁で反転しながら進んだ後に落ちる。こちらは安全な外から『旅人』が疲弊するまで攻撃し続けるだけだ。まぁ、持久戦になるだろうが奴も長い間攻撃され続ければいずれ精神も壊れる。その時が奴の最後になる!分かったらさっさとやれ!」


 『は、はい!』


自信満々に命令するグランの叱咤に部下は司令室内のオペレーターへと指示を飛ばす。

すると、次々に『ホール』内の壁に不自然な窪みが現れ、パネルの様に切り放された一部の壁がスライドして収納される。

その穴の中から全長2mはあろうかという巨大な銃や、戦車からもぎ取ってきたかのような大砲が姿を現す。

銃身が穴の中から飛び出す辺りで前に出てくる動きは止まり、突き出した様な銃口はその先を霧の中へと向ける。

そっちの準備が整ったのに続き『ホール』内のシャッターが開いたかと思うと、そこには通路一杯を埋め尽くすほどの幾つもの『ウォーカー』が佇んでいた。

また、別のシャッターの中からはまるでおとぎ話や神話に出てくるかのような見た事もない異形の怪物たちが蠢いていた。

怪物たちは互いの事には興味がないのか、襲いあう様な事がないがコミュニケーションを取る様な事もない。

ただ、その場で唸り声を上げながら何かを待っている。


 「弾丸の雨を降らせろ!」


 『了解!』


グランの命令を受け取った部下の号令が司令室の中へと響き渡った。





 「つまり、元々は蛇女の魔法だった空間魔法の中に閉じ込められた訳か」


蛇女という言い方にニキータは『名無し』を睨みつけたが、すぐにどうでもいい様に顔を背けた。

彼女はただ、訪れる死を待つつもりしかないらしい。

簡単な説明で理解した『名無し』に瞬は頷き、説明を続ける。


 「そう言う事です。ちなみにテリトリーを解除する方法を僕は知りません。普通なら中にいる魔法使いが解除する事で出られるらしいですが・・・」


そう言うと瞬の動く目線に『名無し』も合わせて視線が移動し、止まった先には寝そべるニキータがいた。

それに気付く様子もないニキータへと近づいた『名無し』は、胴体へと渾身の蹴りを見舞った。


 「ギャッ!」


飛び跳ねるニキータの頭を掴んだ『名無し』は、こめかみにコルトパイソンの銃口を押し当てる。

まるで、と言うよりは脅迫そのものだった。


 「おい、元々お前の魔法だったといったが、お前に魔法を使う力は残っていないのか?」


 「なんでアンタに教えなくちゃいけないのよ」


 「・・・いいのか?」


彼は押し当てたコルトパイソンに力を入れ、押される痛みにニキータは顔を歪めた。

更に本当にやるというのを表すためか、『名無し』の体から殺意が溢れ、それを受けたニキータは体中に寒気が走る。

だが、ニキータはすぐに無気力な表情へと戻るとため息を一つついて答えた。


 「残念だけど残っちゃいないわ。それに残っていれば私がとっくに解除してるでしょ?」


 「さてどうだかな。『旅人』の力を奪うために実は捕まった演技をしているとも考えられる」


 「あっそ、そう思うならそう思えばいい。ただ、解除しないならお前も私も殺されるだけよ」


言葉の意味が分からず、『名無し』は頭を捻る。

それは瞬も同様らしく、戸惑った様な表情を浮かべた瞬が2人の会話に割って入った。


 「それはどういう意味ですか?」


 「簡単な話よ。此処は入る者を拒まず、出る者を拒む結界。なら、中に捕えた『旅人』を殺すのに外にいる者はどうすると思う?」


 「・・・外からの攻撃、つまり、安全な場所からの一方的な攻撃か」


 「そういうこと。外からなら霧の中にいる者の位置が魔力探査でおおよそは分かる。なら後はそこに攻撃を集中させるだけ。お前は一方的に攻撃されながらも手は出せず、私達はその余波で間違いなく死ぬ。分かった?それが私が生きるのを諦めている訳よ」


 「っち、さっさと破らないと殺される訳か」


さすがに状況が状況だけに『名無し』も無表情を崩すほどの焦りを覚える。

何と言っても、将棋で言えば詰み、チェスで言えばチェックメイトと言える状況なのだから。

だが、ゲームと違い、投了する事も出来ず、また相手に交渉すらする事も出来ない。

一方的に命を奪われるだけという絶望、それがいち早く気づいていたニキータを無気力にさせる原因だった。

その上、自分の魔法で自分の命を奪われるなど滑稽な話でしかない。

項垂れるニキータの様子に『名無し』は嘘はないと判断すると、その後の行動は早かった。


 「おい、『旅人』!」


 「は、はい?」


 「俺の負けだ。これ以上、お前に手出しはしない」


両手を軽く上げて降参の意思表示を見せる『名無し』。

突然の申し出に驚く瞬だが、その意図が何を意味してるかを今の状況から察し、呆れたように笑って言う。


 「それで、力を合わせて脱出しようという事ですか?」


 「理解が早くて助かる」


 「僕を死ぬ寸前まで追いやってそれは都合がよすぎやしませんか?」


 「ああ、そんな事もあったかな。・・・それでどうするんだ?俺を殺すか?」


怒りを露にする瞬に挑発的で開き直った様に言う『名無し』。

互いに睨みあいながらも互いに一言も発しない、沈黙の間が流れる。

重苦しい雰囲気が辺りに漂っていたが、瞬は細めた目を緩めるとそれに釣られて『名無し』の目も緩む。


 「分かりましたよ。貴方の提案に乗りましょう」


 「そうか、それはよかった」


表面上は平然とした顔の『名無し』だが、内面では1つ厄介事が片付いたと高まっていた心臓の鼓動が少しだけ収まる。

彼には命を奪う事をためらう瞬だからこそ、これだけの挑発でも殺されないという自信があった。

そして、交渉に踏み切った事により停戦どころか協力まで結びつけた。

とは言っても、今現在抱えている生還のための障害。

その中でも一番低い障害をクリアしただけにすぎない。


 「ただし」


 「っ!?な、なんだ?」


障害が無くなったかと思った彼にとって予想外の一言だった。

思わず素の反応をしてしまいそうになったが、寸前で踏みとどまる事が出来た。


 「約束してください。ここから出られたなら人殺しは止めて今までの罪を悔いて生きると」


 「・・・いいだろう」


 「え?そんな簡単に?」


思いのほか、あっさりと了承した『名無し』に今度は瞬が驚く。


 「死亡する可能性を少しでも下げるためには仕方ない。命あってこそだ。今、この時から俺は人殺しを止める」


 「それに嘘偽りは・・・」


 「ない」


こんな場所で殺し屋廃業宣言をする事になるとは考えてもみなかった『名無し』。

言い切りはしたものの何処となく引っ掛かるものがあるのも事実だ。

それを生きるためと無理やりねじ伏せた彼の真剣な言葉を瞬は信じる事にした。


 「分かりました、信じましょう。それで、ニキータさんはどうするんですか?このままここで死ぬつもりですか?」


 「・・・」


 「脱出する手段なら探せば何かあるかもしれませんよ?」

 

 「・・・そんな、・・・そんな都合良くあるわけないでしょ!もう放っておいてよ!私はここで死ぬのよ!」


ニキータは心の底から溜まっていた感情を吐き出すように叫ぶ。

やけくそ気味な彼女だが、その気持ちは瞬にも分かる。

本当は助かりたい、出来る事なら生きたいのだと。

『名無し』には劣るものの何人もの人を殺している彼女であるが、自身が死ぬとなるとその感情は簡単に崩壊しかかっていた。

涙を浮かべて寝そべる彼女の隣に『名無し』を移動させ、瞬はその周りへ大量の鋼鉄の壁を作り上げた。

人1人程度では動かす事さえできないであろう壁が何重にも周りを埋め尽くし、どこからも中を狙えはしない。


 「そこで待っていてください。周りを調べてきます」


『名無し』から了解したと返事があり、瞬は濃い霧の壁の前に立つ。

何度か触れた後、霧の中へと突っ込んでみるとやはり前の時と同じように同じ場所に立っていた。

脱出の手段と言っても皆目見当がつかず、とりあえず他の場所を調べようと移動し、手を触れようとした時だった。

辺りに立ち込める霧がより一層濃くなり、視界が1mすら先も見えなくなる。

まるで雪山でのホワイトアウトのように瞬は自分だけしかそこには存在しないかのような錯覚を覚える。


 「来たぞ!奴らの攻撃だ!」


姿は見えないが『名無し』の警告で我に返った瞬は叫んだ。


 「絶対にそこから動かないでください!」


その直後、外から霧の壁を突き抜けた高速の弾丸が雨の様に降り注いだ。

瞬は盾によってそれを防ぎ、『名無し』達は築き上げた鋼鉄の壁で銃弾から逃れる。

銃声すらなく飛んでくる弾丸は、唯一鋼鉄の壁に当たった時だけ甲高い音を立て、まるで何十人もの人間が壁を叩いている様な騒音に思わず『名無し』とニキータは耳を塞ぐ。

瞬の耳にはその音が届きはするものの、深い霧によっておおよその位置でしか分からない。


 「霧が濃くて位置がっ!大丈夫ですか!?」


戸惑いを浮かべ叫ぶ瞬。

だが、その声は鉄鋼の音にかき消され、二人の耳に届く事はない。

安否が気がかりな瞬はその場に巨大なキャンプファイヤーを作り出すと、燃え上がる炎の圧倒的な熱量が周囲の霧を吹き飛ばす。

2人のいた方へと移動しながら次々に同じ物を作り上げ、すぐに銃弾を防ぎ続けるそびえ立つ壁までたどり着いた。

その耳を塞ぎたくなる程の音の中で、瞬は背面に同じような壁を作り上げると前方の壁を消す。

そこにはまだ無事な2人の姿があった。


 「よかった!無事ですか!」


 「俺達の心配より脱出する方法を探せ!このままじゃいくらこの壁が頑丈でも持たん!」


『名無し』が言ったそばから鋼鉄の壁が倒れそうなほどの衝撃が四方八方から襲いかかる。

互いに支えあうような形でどうにか立ったままの壁だが、このまま同じような攻撃を何度も受ければ倒れる事は間違いない。

それどころかその重量で2人を軽々と押し潰してしまうだろう。


 「くそ!何かの砲撃でも受けたか!?」


焦る『名無し』を更に追い詰める様に銃弾の中に砲弾が混じって次々と壁を破壊していく。

呻くような軋みを上げる壁を瞬は別の壁を作り上げて補強して回るが、圧倒的に攻撃の速度が速い。

誰が見ても2人が死ぬのはすぐだと思う時だった。

『名無し』の横で今まで伏せていたニキータが不意に顔を上げた。


 「・・・来る」


 「何か言ったか!?」


 「来るのよ!」


 「っち!一体何が来るって・・・、止まった?」


激しい嵐の様な攻撃が嘘のように止み、至る所がへこんだ壁の前には大量の潰れた弾や巨大な砲弾が転がっていた。

耳鳴りがする耳を押さえながら、瞬は入る時に開けた隙間から外を覗く。


 「完全に止まっている?一体どうして?」


 「さぁな、とりあえず弾切れを起こしたとは考えにくい。奴らの気まぐれか、それとも作戦か。何にせよ、大声で喋らなくて済むのは助かる」


同じように耳を押さえる『名無し』はそう言いながらも、大体の見当はついていた。

隣にいたニキータの呟きが本当であるなら何かが中へ入ってくるのだと。

また、その呟きも言った直後に銃撃が止まった以上、嘘や偶然とは考えにくい。

奪われた魔法とはいえ、まだ何らかの繋がりを持っているようなニキータに『名無し』は脱出の可能性を見出していた。


 「何が来るか分かるのか?」


 「そんなもの、分からないわよ!ただ、かなりの数の何かが中へ入った。私に分かるのはそれだけ」


それだけ言うとニキータは頭を伏せ、また床の上に横たわる。


 「っち、それだけじゃ抜けるのには役に立たんな。おまけに殺すために直接何かを送り込んできたとなると、ここで防戦するしかないか。これと同じ弾を出してくれ。残弾が厳しい」


『名無し』はポケットから取り出した弾頭の色が違う弾丸を瞬に見せる。

そのまま空いた反対側の手を瞬の前へと差し出したが、何かを考えているのか瞬は反応はなく棒立ちしていた。


 「どうした?」


 「・・・何かが中に入ったのが分かる、と言う事は一時的に外と繋がったのが分かると言う事ですか?」


 「ほぉ、なるほどな。どうなんだ?」


2人の期待を帯びた様な目線を受けながら再びニキータは起き上がる。


 「ええ、そうよ。ただ、正確に言えば私が分かるのは魔力の流れだけよ」


 「魔力の流れ?」


 「何かが入ってくる時、普段は霧として漂っている魔力がそこに向けて凝縮する。つまり、それがこの世界への一方通行の入口を作る時と言う事よ。何かが完全にこちらへと入ると入口は閉じられ、集まった魔力は分散する」


 「なら、その入口から出ればいいんじゃないのか?」


 「残念だけど、あくまで一方通行よ。こちらからその入口を使って外に出ようとしても無駄。もし出れたとして体が半分になっていても不思議じゃないし、出ることすらできずに異空間をさまようかもしれない。それでもやるの?」


小馬鹿にしたように問いかけるニキータ。

脱出への光明が射していたと思った2人だが、完璧に否定されて二の句もつげない。

そうこうしている内に瞬の耳は何かの金属音が幾つも近づいてくるのを捉えた。

アジア統括支部へと突入してから何度か聞いた足音だった。


 「っ!ロボットが来ます!それも大量に!」


 「あれか。それならレールガンでぶっ飛ばして・・・」


そこまで言うと『名無し』の声が途切れた。

何かに意識を集中しているかのようで、その目線は彼の背後へと向けられていた。


 「こっちからも何かの大群が押し寄せてきているな。っち、このままだと囲まれる。おい、もう一度言うぞ、弾だ」


『名無し』の要求に瞬は慌てて大量の弾丸を作り出して答えた。

両掌の上に大量に生成された色とりどりの弾丸へと手を伸ばす『名無し』だが、掴む寸前で瞬は弾丸を手前に引いた。

当然の様に空振りする『名無し』の掴み。


 「ふざけている場合か?」


 「いえ、ふざけたつもりはないですが、さっきの約束は覚えてますか?」


そう言われて『名無し』は瞬が何を言わんとしているのか気付く。

要するに殺さないよう誓いを立てたのだから守れという事なのだろう。


 「約束は守る、人は殺さん。ただ、ロボットなら構わんだろ?」


それで納得したのか瞬が止めた手から『名無し』は弾を掴み取る。

そして瞬の背後へと向かってコルトパイソンを構えると、足音を頼りに微調整を行うと即座に引き金を引いた。

既にセットされていたレールガン用弾丸から大量の電流が放出されて磁気のレールを作り上げると、そこを通り抜けた1発の弾が超加速して放たれる。

周りの霧さえも吹き飛ばす弾丸は一瞬で『ウォーカー』の胸へと突き刺さり、分厚いはずの鎧を通り抜けて後ろにいた別の『ウォーカー』をも貫通する。

1体目は向こう側が見える程の大穴が胸に空き、そこにあったはずの部品などはバラバラに吹き飛ばされていた。

2体目の見た目は1体目より損傷は少なく見えるものの、緻密に計算されて設計された内部をかき回し、正常に動く事などできはしない。

損傷を受けた2体はその場で動きを止めると、2度と動く事はなかった。

・・・あれに撃たれたんだ。

そう考えただけで瞬の体中に寒気が走る。

見た事もない銃の威力に瞬は自然と胸をさすり、顔から血の気が引いていた。

その隣で薬莢を排出し、再びレールガン用弾丸をセットする『名無し』。


 「ロボットは俺が引き受けよう。お前は後ろ、ん?どうかしたか?」


 「いえ、・・・別に」


 「?」


不思議そうな顔をしている『名無し』から逃げる様に彼の後ろへ回ると、瞬はその手に麻酔銃を作り出す。

敵の影は霧の中から浮かび上がる様に徐々に鮮明になっていくものの、すでにどう見てもただの人間などではなかった。

一番先頭を歩いていた人間らしき影は3m近い巨体を持ち、更に手には巨大な斧らしい影が映る。

集団の中でも飛び抜けてでかく、瞬が気が付いた時には既にその斧を大きく後ろへと振りかぶっていた。

ため込んだ力を解き放ち、渾身の力を持って振り下ろされた斧は瞬へと正確に迫る。

斧は霧を切り裂く様に瞬へと迫り、盾にいなされてその勢いを地面へとぶつける。

途端に辺りが少し揺れ、風圧によって霧が吹き飛び、地面に巨大な亀裂が走る。

その人間とは到底思えない威力を見せ付けた巨人へと瞬は怯むことなく麻酔銃を連射した。

正確に飛ぶ針は巨人の頭と四肢へと突き刺さり、さすがに巨大と言えど効いたのか、巨人はグラついたかと思うとその巨体を瞬の方へと向かって倒れる。

その倒れる背中を走り抜け、巨人の頭で踏み切って飛び上がった何匹もの小さい猿の群れ。

どの猿も狂気に満ちた赤い目で瞬を視界に捉え、鈎爪を思わせる様な巨大な爪を振り下ろす。


 「残念ですが」


瞬は小さく呟いた途端、爪は瞬どころか盾にまで届く事はなく、次々に瞬の早撃ちで麻酔針をつき立てられると力尽きて落ちていく。

だが、その様子を目の当たりにしても怪物の群れの更新は止まらない。

巨人の倒れた体を乗り越えると次々に瞬目がけて襲いかかる。

体に電撃を纏い、異常に伸びた腕を鞭のようにしならせる手長猿や体中の所々が腐り落ちているゾンビの灰色熊。

更には巨大な蝙蝠やニキータの様に蛇と同化した様な獣の皮膚を持つ人間。

見た事もない様な怪物達は様々な攻撃を仕掛け、そのどれもが『イージスの盾』に弾かれる。

怪物たちが群がる中、その相手であるはずの瞬は目の前の事よりもその先での戦いに興味が引かれていた。

瞬の見る先には霧で視界の悪い中をコルトパイソン片手に飛びまわり、次々と『ウォーカー』を壊していく『名無し』の姿があった。

その動きは無駄がなく、回避すると同時に『ウォーカー』のバイザー部分に電撃の魔力が込められた弾丸が叩きこまれ、レールガンを使用せずとも次々と最新の軍用ロボットをいともたやすく鉄クズへと変えていく。

ただの人間でもあんな事が出来るのか。

まるで軽業師のような動きに瞬は見惚ると同時に尊敬の念を抱いていた。

見られている視線に気づいた『名無し』は、群がる怪物達を気にすらせずこっちを見ている瞬に驚いたが、その動きは止まる事がなかった。


 「おい!サボって、・・・っと。サボるんじゃない!」


巧みに攻撃を回避しながらも瞬に撃を飛ばす『名無し』。

我に返った瞬は慌てて左手に『天狼』を作り出すと、盾に防がれていた魔法系の攻撃を全て切り裂き、その裂け目から麻酔針を飛ばす。

その時、壁の中で耳を塞ぎながら寝そべっていたニキータがふと顔を上げた。


 「今のは?」


壁の隙間から外を窺うとちょうど瞬が同じように攻撃を切り裂いていた。

同時にニキータが感じている魔力の流れに陰りの様なものが生じた。


 「あれは・・・、そうだわ、その手があった!」


ニキータの視線は瞬の持つ『天狼』に注がれ、何度か振るわれるたび発生する力に確信を持つ。

あれこそが脱出するための鍵であると。

生き残る希望を見出したニキータは戦い続ける瞬へと向かって叫ぶ。


 「『旅人』!その剣を寄こしなさい!」


 「剣?これの事ですか?」


不思議そうに手を止めて『天狼』を掲げて見せる瞬。


 「そう、それ!早く投げなさい!」


 「よく分かりませんけど、いきますよ」


鞘に収まった『天狼』を作り出すと、それをニキータ目がけて投げた。

壁の隙間から『天狼』を受け取ったニキータは瞬の力を狙う時の様な歪んだ笑みを浮かべ、鞘から『天狼』を抜き放つ。

そして、戦う二人を横目に人知れず霧の壁へと近寄り、意識を集中させた。

魔力の流れが次々と送られてくる怪物やロボットによってそっちに流れ、それにより周りを囲う壁の魔力はその時々で薄くなる。

その変化を感じ取ったニキータは霧の壁の前で『天狼』を構え、意識を集中するべく目を閉じながら時を待つ。

後ろでは化け物と言っても過言ではない2人が敵を倒していくため、送られる援軍はいまだに止まらない。

変化の止まらない壁の状態を探るべく、ニキータは神経をとがらせ、意識がすり減っていくような中で元自分の魔法と向きあい続けていた。


 「右に5m、今度は左に3m・・・、来た!」


魔力の流れが瞬間的に薄まったのを感じ取ったニキータは『天狼』を振るい、霧の壁を切り裂いた。

するとその場を霧となって漂う魔力が『天狼』によって切り裂かれ、霧から元の魔力へと戻っていく。

霧の壁に入った一筋の斬り込みは大きさを穴程にまで広げ、ニキータは『天狼』を投げ捨てると勢いよく飛びこんだ。

その後、何事もなかったように穴は閉じ、ニキータの姿は何処にもなかった。

彼女が脱出できたのか、どうか。

それは分からないが、後ろから彼女が逃げ出すのを『名無し』は見ていた。


 「あの蛇女、外に出たかもしれんぞ!」


 「え?ニキータさんが?でも一体どうやって?」


 「良くは分からんがその刀だ!そいつで切り裂いて霧に穴が出来た!」


 「分かりました!やってみます!」


怪物達の猛攻などお構いなしに壁にまで移動すると、瞬は『天狼』を振るった。

素人の域はとっくに出ているレベルの斬撃を霧の壁に見舞うが、霧は吹き飛んだものの何処にも穴などは出来なかった。


 「駄目です!穴は空きません!」


 「っち!アイツは一体どうやったんだ?」


明確な解答など出ないまま、とにかく2人は霧の中で戦い続けるしかなかった。





 霧に覆われたドームから飛び出したニキータ。

目の前に霧はなく、『ニブルヘイム』の中から逃げだせた事を実感する。


 「やった、やったわ!」


助かったという安堵感を覚えながらも、ふと何かがおかしい事に気付いた。

出てきたのは怪物達側の入口に近い場所からだが、不思議なほど静かすぎるのだ。

『ホール』内に立ち込める霧のドームからは元から音など聞こえはしないが、あまりにも不気味なほど静まりかえっている。

一体、この静けさは何・・・?

疑問を覚えながらもとりあえず、『ニブルヘイム』から離れたい彼女は通路の中へと走り込む。

すると、その途中から嗅ぎ慣れた臭いがするのに気づく。

地獄の様な監獄の中でずっと嗅ぎ続けていた鼻にツンとくるような独特の匂い、血の匂いだ。

すかさずニキータは足を止め、その場で止まった。

これ以上、先に進めば何かがいる!

蛇女になった時に野生の勘でも身についたというのか、それとも元々持っている直感か。

何かが彼女の中で行くのを止めろと押しとどめる。

だが、彼女からすればここに留まると言うのはいつ『旅人』に対する攻撃に巻き込まれるかもわからない。

ニキータは体中を襲う寒気と警告を告げる勘を押しとどめながら通路の中を覗いた。


 「なに・・・これ・・・」


そこに溢れかえっていたのは援軍として送り込まれるはずだった大量の怪物の死体だった。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

出来れば文法や書き方、ストーリー展開で意見を頂けるとありがたいです。

お気に入り登録いただけるともっとありがたいです。

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