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第30話:霧の街(6)

 襲いかかる触手の大群に瞬はその場から大きく跳び上がった。

地面がうっすらと見える中でどうにか着地すると、抱えていたフェイリンの亡骸をそっと下ろす。

だが、その間すら待ってくれない触手の群れは方向を変えて瞬へと襲いかかる。

咄嗟にその場から離れた瞬の前に触手は迫り、瞬はAA12を作り出して連射する。

今までならそれで触手を吹き飛ばせていたが、今度は触手の本数があまりにも多く狙いが絞りきれない。

何本か触手を飛ばしはしたが、触手の勢いはまるで津波の様に止まらず、飲み込む様に瞬を盾ごと巻き込んだ。

一瞬にして瞬の視界は暗闇だけの世界へと変貌した。

そして、瞬の脳裏に海底でのトラウマがよみがえってくる。


 「う、うわぁぁぁっ!」


焦るように作り出した大剣を触手へと突き刺して振り抜き、嫌な音を上げながら何本もの触手を斬り飛ばす。

どうにか触手の攻撃から逃げられ、下に地面が見える。

地面へと落ちていく瞬。

だが、それを防ぐように残っている触手が下から瞬を支え、そして隙間が無い程に触手が盾の周りに巻きついた。

また暗闇の中へと戻り、慌てて瞬は懐中電灯を作る。

作り出された懐中電灯の光に少しだけ冷静さを取り戻した瞬。


 「大丈夫だ、怖くない、大丈夫・・・」


まるで自己暗示かのように落ちつくようつぶやき続ける。

しかし、彼の心にダメージを与えてくるのは暗闇だけではなかった。

目の前の蠢く触手の壁に押し潰されそうな圧迫感を瞬は感じていた。

もし、盾を解いたなら一瞬にして押し潰されそうだった。

駄目だ、ここにいたくない!

精神の許容限界を超えたのか、それだけが瞬の頭の中の大部分を占め、すぐさま瞬は触手へと剣を突き立てる。

まるでケーキでも斬っているかのように剣は触手を瞬の振った通りに切り刻む。

そうやって瞬が焦りながら触手を手当たり次第に斬り飛ばした結果、瞬の足場も崩れて再度下へと落ちる。

ようやくたどり着いた視界の開けた場所。

瞬は落ち着きを取り戻そうと深呼吸していた。

その様子を霧の中に溶け込むようにニキータは隠れ見ていた。

なぜ、不老不死で絶対防御を持つ『旅人』があんなに肩で息をしているのか・・・。

それが絶対防御を誇るあの『旅人』を倒す手段になるのではないかと、ニキータは考える。

物理攻撃では傷をつけられないでも、精神的な攻撃であれば体験させるだけで攻撃となる。

ただ、問題はそれが何かだった。


 「触手の中、か・・・。わざわざライトを作るという事は暗所恐怖症といったところね。いいわ、試してみようじゃない」


ニキータが腕を上げると周囲の霧が一段と濃くなり、自分の下半身すら見えないほどに霧が立ち込める。

すると彼女は腰からゴーグルを取り出し、それを頭に被った。

あらかじめマクシムの装備の中から抜いていたサーマルゴーグル(熱感知式ゴーグル)だ。

それにより彼女の視界は温度の無い霧に塞がれることなく、クリアに瞬を捉えていた。

対照的に瞬は作り出したライトの光が霧に反射し、何処を見ても白い霧しか見えない。

盾の内側にまでは霧も入ってこないが、巨人やニキータの影すら見えない。

まるで雪山で遭難した時の再現だった。


 「何も見えない・・・っ!」


更に周囲を明るく照らしていた街灯が次々に巨人の触手で壊され、霧の中でボンヤリと光って見えた光が消えていく。

辺りは薄暗い霧に包まれた。

その途端、瞬は足元がグラつく様な感覚を覚える。

勿論、それは暗闇から来るトラウマのようなものだと瞬は分かっていた。

すぐさま大量のライトを作り出して体の至る所につける。

照らしだす光が盾の内側のみを明るく保ち、どうにか瞬は落ち着きを取り戻す。

だが、それはこの暗闇の中ではいい的でしかなかった。

四方から周りを取り囲んでいるであろう巨人からの触手が飛び交う。

全てが的確に瞬目がけて飛び、次々と盾へぶつかっていくがその攻撃には終わりがなかった。

反撃しようと瞬も触手にAA12を向ける。

引き金を絞った瞬間、散弾が放たれると同時に触手は霧の中へと消える。

当たった様な様子はない。

続けて襲ってきた触手にも同様に瞬はAA12を撃つが、霧の中からいきなり現れて消えていくのではまともに当てる事は出来なかった。


 「何処にいるか分からないなら、これで」


瞬は次の手として大量の閃光手榴弾を触手が襲いかかる中で作り出した。

それを触手が飛んできた方目がけて投げつける。

直後にその周辺にいるはずの巨人に目が眩む光と反射的に耳を塞ぎたくなるような爆音を食らわせるつもりだった。

だが、投げつけた手榴弾が爆発した音は確かに瞬にも聞こえるものの、光はまるで見えない。

それどころか音もまるで収縮したかのようないつもより小さい音だった。


 「無駄よ、この霧を操れる私には音や光は届かない」


どこからともなく聞こえるニキータの声。

瞬はいる方向を探し出そうとするが、反響する様な声にまるで居場所が分からない。


 「い、一体どこに?」


無駄とは分かっていても目を閉じて、魔力を探す。

だが、やはりノイズのようなものが頭にぼんやりと浮かぶだけで、ここに本当にニキータがいるのかさえ分からなかった。

なにより、生き埋めになっているかのような白い濃密な霧の壁に囲まれ、絶え間なく触手が襲いかかるのでは誰も集中出来はしない。

息が乱れていく程、瞬は焦り出していた。


 「と、とにかくこの霧を何とかしないと・・・、そうだ!」


瞬は何かを生成しようとする。

その様子を霧の中で窺っていたニキータは『旅人』が何かの行動を起こそうとしているのに気付いた。

一気に畳みかける様、巨人に命令を出す。


 「全ての触手を出せ!『旅人』を取り囲め!」


命令に合わせて周りにいた巨人達の背中がボコボコと変貌していく。

元は4つだった触手の穴が至る所から穴が空き、その数は20を超えていた。

その穴から一斉に触手が伸び、空中で他の触手と重なっていく。

まるで空中に建物が浮かんでいるかと思わせるほどでかい塊になると、瞬へと振り下ろされた。

幾重にもまとめられた触手が『イージスの盾』を一斉に取り囲む。

瞬の周りは白い霧から一瞬で何本もの蠢く触手へと変わる。


 「うあぁ・・・」


捕えられた瞬はさっきと同じように圧迫されているような感覚へと陥る。

霧とは全く違う、異質な触手だから感じる恐怖もあった。

恐怖に駆られた瞬は作り出そうとした物を大剣へと変え、触手へと突き立てた。

そのまま力を入れて切り裂くが、斬った触手の下にはまた触手があった。

何度斬っても押し寄せる触手は変わらない。


 「う、うわぁぁ!」


正気を保つのも難しくなってきた瞬は力任せに斬り続けたが、何本斬ってもまだ触手の壁は続く。

一体、どれだけの本数があるのか見当すらつかない。

呼吸が荒くなっていく瞬。

その様子は見えないが、外では何時まで経っても出てこない『旅人』にニキータはほくそ笑んでいた。

彼女が聞いている限りでは他の『旅人』達は手段を選ばない。

非人道的など知った事ではない、とばかりに場合によっては核爆発すら平気で起こす奴までいるらしい。

だが、目の前に捉えた『旅人』は違う。

その性格からか『旅人』の力を持ちながらもこの触手の檻すら破れない程であり、中では今頃、恐怖し絶叫しているかもしれない。

ニキータは様子を見守りながら、期待せずには居られなかった。


 「早く、早く死になさい!盾を解いて触手に押しつぶされなさい!」


口を開けたまま、ただ1つの事を思いながら触手の群れを見ていた。

まだ私に『旅人』の力は移らないのか、と。

裏返して言えば、彼女がそこまで『旅人』の力に魅力を感じているという事だ。

だが、傍目に見ればまるで思考が狂って停止した女の様でしかない。

そうして彼女が集中して見ていると、触手の群れに変化があった。

触手の群れが少しだけ全体的に凹んだのだ。


 「やったの!?」


ずっと見ていた彼女は『旅人』が盾を解除したために押しつぶされたのだと思った。

だがそれ以降、何の変化も訪れない。

中が見えない彼女には中を見るには触手を開くしかなかった。


 「開ける・・・いや、死んでいるなら私に力が移るはず。もう少し待つべきね。そろそろ特殊部隊も到着するし」


彼女は用心深く、今まで以上に何が起こっても見逃さないように監視する。

ただ、一瞬だけ腕時計に目を落とすと時刻は午後11時となっていた。

統括長にメッセージを送る時間だった。

当初の計画では既に『旅人』の力を奪い、その後は逃げているはずだった。

だが、今は少しでも戦力が欲しい以上、特殊部隊の受け入れも含めて連絡しなくてはいけなかった。

彼女はゴーグルと同じようにマクシムから奪っていた無線にスイッチを入れる。

無線からはノイズだけが永続的に聞こえてくる。

この閉鎖された空間で外との通信は出来ないはずだった。

そんなことなど構わないかのように彼女はそれを耳にあて、そのまま意識を集中し始める。

すると、彼女の意識が集中するのに合わせて徐々にノイズが小さくなり、人の声が断続的に聞こえ出す。

やがてまともに聞き取れる程クリアな通信へと変わっていく。

この空間、『ニヴルヘイム』の管理者である彼女には元の世界とこの空間を自在に繋げる事が出来た。

今ならば瞬も逃げ出す事が出来ただろうが、今の状況ではそうもいかないだろう。

彼女は注意深く様子を窺いながら無線の相手に統括長を出すよう言う。

無線の向こう側ではすぐさま統括長に相手が代わり、ニキータは手短に現在の状況を嘘を交えながら伝える。

報告を信じるしかない統括長は戦力増強として、今から5分後に特殊部隊が『ニブルヘイム』へと突入する事を告げた。

特殊部隊を迎え入れた後、そのまま『旅人』を倒し、力を奪い取った所で皆殺しにして逃走。

統括長の話に彼女の頭の中でプランは固まった。

彼女はタイマーをセットし、その時を待つべく『ニブルヘイム』を一時的に元の世界から切り離す。


 「後5分・・・」


おそらく20代そこそこの彼女が歩んできた人生の中で、一番長く感じる5分になる事だろう。

サーマルスコープ越しで触手の塊に変化がないか見ているだけ。

だが、それだけでも手のひらに汗は滲み、まだ1分も経っていないというのにまだ鳴らないのかと苛立ちを覚える。

彼女がそうやって苛立ちを募らせ、2分程過ぎた時だった。

突然、爆弾が爆発したかのような音が触手の中からあがる。

すると触手の塊が大きく上へと膨れ上がっていき、次第に触手がほどけていく。


 「っち!緩めるんじゃない!」


彼女が命令を下すと、触手は上へと押しのける力を抑え込むように下へと戻っていく。

一体何が起こったのか不安に駆り立てられるニキータだったが、その不安を増大させるように一度は下に下がった触手が上へと弾き飛ばされていく。

触手の檻がほどけていくのと同時にその隙間からは赤い光が漏れだし、霧を赤く染めた。

ニキータはその光をサーマルスコープで捕えたが、彼女には光の色が赤ではなく白に見えていた。

温度を視覚化するサーマルスコープでは温度の高い物は徐々に赤くなっていくが、表示しきれないほどの高熱を放つ物は白く見える。


 「アレは一体なんなの!?」


赤い光を抑え込むように新しい触手が次々に光へと触手を叩きつける。

だが、触手が光に触れた途端、触手に火がついたかと思うと一瞬で表面が焼けただれ、消し炭へと変えられていく。

抑え込みの効かない赤い光はゆっくりと触れた触手を焼き尽くし、触手の中から赤い光が溢れ出る。

周囲を覆っていた霧は赤い光が現れると、風でも吹いたかの様に辺り一面から吹き飛んでいく。

まるで夜の闇を払う日の出の様な光景だった。

ニキータは何が起こったのか分からず立ちつくしていたが、球体から吹く全身を焦がす様な熱風を浴び、光る球体が何なのか理解する。


 「超高熱の球体?まさか、これをあいつが!?」


霧がなくなり、意味がなくなったサーマルスコープをニキータは外す。

直に見る赤い球体は吸い込まれそうなほど綺麗な色だが、見た目とは裏腹に触れる触手を一瞬で焼き尽くし続ける。

ただ、彼女はこれに見覚えがあった。

魔法と科学を融合して作った武器の試作品『スコルピオン』、その実験結果の記録でだ。

彼女がどういう事か思案する前にその球体から何かが目の前に飛び出る。

咄嗟に彼女は持っていたデザートイーグルを撃つが、その全ての弾は見えない『盾』によって力を吸収された様に下へと落ちる。

目の前に現れた『旅人』は口の端を釣り上げると、一旦離れようとしたニキータの腕を掴む。

彼女は反射的に訓練された動きで『旅人』にハイキックを放つ。

鋭い角度で放たれたキックだが『旅人』は右腕を上げて簡単にガードし、逆に彼女を捕まえている腕を捻りながら下へと落とす。

それに引っ張られて彼女の視界は上下逆転し、うつ伏せに地面へと叩きつけられる。

更に手際よく掴んだ腕を後ろ手に固定し、彼女の動きを完全に封じた。

 

 「ぐっ!お、お前!」


 「動かない方が良い。その気になればあっという間に殺せる」


 「!?」


さっきまでの虫も殺せない様な男の忠告とは思えないセリフだった。

彼女の狙い通り恐怖で追い詰めることには成功したが、それが『旅人』を追い詰め過ぎた結果なのだろうか。

それを確かめようと微動だにしない『旅人』に彼女は顔を向ける。

だが、止めるべきだったとすぐに後悔した。

見る物全てを凍らせる様な冷たい無機質な眼が彼女の眼と合ったからだ。

目が合っただけ、たったそれだけで人殺しも厭わない彼女の全身の毛が逆立つ。


 「あ、アンタ、一体、何者、なの?」


震える口で絞り出すように聞く。

それを聞いていないのか『旅人』は黙ったまま、ただジッと彼女を見ていた。

その気があるなら殺すのに躊躇もなく、一瞬で殺される!

まるでロボットのように身動きしない『旅人』に、彼女はさっきの忠告は間違いなく本当だと理解した。


 「・・・ここから出る方法を教えてもらおう」


 「はっ、ははっ!言っておくけど私を殺しでもしたら貴方はここから一生出られない。それなのに答える訳、・・・ギャァアアッ!」


精一杯の虚勢を張って彼女が答えたが、その途中で骨の折れる音が鳴る。

すると、彼女の答えは悲鳴へと変わり、辺り一体に悲鳴が響き渡る。

見ればニキータの捻りあげられていた右腕に関節が1つ増えたように、腕の真ん中がへし折れていた。

だが、彼女が苦痛に暴れまわろうとも『旅人』は全く気にした様子もなく、表情はまるで変わらずにただ彼女を見ていた。


 「あ、あぐっ、痛い・・・」


 「もう一度言う。出る方法を教えろ」


 「し、知らな、ギャアアァァー!!」


ニキータが全て答える前に今度は彼女の左腕が半ばで折れていた。

大量の脂汗を流しながら痛みに耐えるニキータに『旅人』は告げる。


 「次は右足だ。出る方法を教えろ」


 「わ、分かった、分かったから、止めて」


力なく告げたニキータだが、頭の中では合図1つで『旅人』を襲うよう、巨人達に命じていた。

もうすぐ5分になり、特殊部隊を受け入れる時間が来る。

どちらにしろ外と繋げなければいけない時間だった。

ここで少しでも陽動が効けば、ひょっとすれば助かるかもしれない。

彼女は『旅人』の力を諦め、ひたすらに自分が生き残るためへの算段を組み立てていた。


 「こ、このテリトリーはわ、私が集中すればすぐに外と繋がる。ただ、集中には少し時間がかかる」


 「よし、やれ」


 「こんな態勢じゃできない。せめて座らせて・・・」


『旅人』はニキータを抑え込んでいた手を緩めると、その途端に彼女は走り出した。

逃げたといっても常人レベルでの脚力ではものの数秒で『旅人』に追い付かれる。

彼女に『旅人』の手が触れようとした瞬間、その間に割って入るように大量の触手が『旅人』を襲った。

その触手へと『旅人』が飲み込まれる事で彼女は助かったかに見えた。

だが、それもものの数十秒の話だった。

展開された『イージスの盾』に守られた『旅人』は、その中で雪山で見た『スコルピオン』を作り上げる。

ロケットランチャーの形状をしたそれを触手の中へと突っ込み、ためらいもなく引き金を引く。

すると、0距離で発射された特殊弾頭が爆発し、発生した赤い球体状の炎が触手を全て消し炭へと変える。

伸びてきていた触手を全て燃やすと、今度はその根元である巨人達に向けて『スコルピオン』を次々に撃つ。

動きの鈍い巨人にかわす事など出来もせず、着弾した弾頭の火に次々と焼かれていく。

その隙にニキータは茂みの中へと飛び込み、折れた腕の痛みを堪えて意識を集中する。

腰のアラームが鳴りだすのと同時に『ニブルヘイム』が外との連結を完了した。

巨人達が次々と燃やされる中、ニキータは外からの救助に望みを託した。


 「早く・・・早く来なさいよ」


そう呟くニキータだが、その願いとは裏腹に援軍のヘリや車の音はまるで聞こえてはこない。

アジア統括長の話では街の手前で援軍が待機しているはずだった。

5分たつと突入する手はずだったが、どこにもその姿は現れない。


 「ど、どうして!?」


 「何かは知らんが当てが外れたらしいな」


 「!!」


いつの間にか茂みの前に『旅人』が立ち、ニキータを見下ろしていた。

その手には黒い西洋剣が握られている。

ニキータは巨人に助けるよう命令するが、どこからも巨人は現れない。

横目で周囲を見てみるがそこには燃え散った巨人の残骸しか残ってはおらず、魔法で造られた命の無い生物は空気中に分解される様に散っていった。


 「もうお前を助けられる奴はいない。この街で感じる魔力はお前だけだ」


 「そんな、霧のジャミングは効いてないの!?」


 「いいや、ちゃんと効いている。ただ、魔力探知を500年もやってきた私にはジャミングを無視する術があるだけだ」


 「500年・・・、アンタ一体?」


 「お喋りが過ぎた、これが最後だ」


『旅人』は黒い剣の刃をニキータの首に当てる。


 「このテリトリーを解除しろ、さもなくば殺す」


 「・・・分かったわ」


ニキータが眼を閉じると、次第に周囲の霧が消えていく。

そして、辺りが大きく地震の様に揺れたかと思うと壊されたはずの街の灯りが戻っていた。

『旅人』が辺りを見回すとそこは人の生活している様子が見て取れる本当のアノールだった。


 「テリトリーは解除した。もう何処にでも行ったらいいわ」


 「そうか」


それだけ聞いた『旅人』は『天狼』を作り出すと、その切っ先を折った。

それを持ったまま近くの民家の裏側に回ると、そこにはドミトリーが戦闘から避難するように隠れていた。

どうやらフェイリンが死ぬ間際に逃がしてくれていたらしい。

『天狼』の切っ先でドミトリーの手を軽く切りつけると、フェイリンの支配がなくなり、その場に膝をついた。


 「い、一体、今までの出来事は何だったんだ?お前ら、何者なんだ?」


 「気にしない方が良い。運悪く巻き込まれたが貴方は今後関わらず、いつも通りの生活に戻るんだ。さもなければ死ぬぞ」


何か言いたい事があったドミトリーを『旅人』は最後の一言で完全に黙らせた。

小さく震えるドミトリーに『旅人』はダイヤやサファイヤなど小さい宝石の粒を作り出して手渡す。


 「それを金に換えるといい。しばらくは仕事もまともに手につかないだろうからな」


 「あ、ああ・・・、な、なぁ、お前は本当に瞬なのか?」


ドミトリーもまた今まで一緒にいた青年とは思えない目の前の人物に素直に疑問を投げかけた。

すると、『旅人』は小さく笑うと一言だけ答える。


 「・・・まぁ、彼の保護者みたいなもんだ。それじゃ」


 「お、おい!」


まだ聞きたい事のあるドミトリーだったが、『旅人』は家を飛び超えて消える。

そして、そのまままだ横になっていたニキータへと寄っていき、恐怖に顔がゆがむ彼女を捕えた。


 「ひっ!命は助けるんじゃないの!?」


 「それは守る。瞬を人殺しにすることはしたくないからな。お前にはもっと聞きたい事がある。ついてきてもらうぞ」


逃げようとする彼女を脇に抱えると、その場から飛び上がった。


 「い、いやぁぁぁぁーー!」


ニキータの叫び声が夜空に響き渡った。





 街の外れ。

そこでは人気のない道でロビンが近くの岩に腰かけながら煙草をふかしていた。

吐き出す煙が消えていくのを見ていると、不意に彼の視界に空へと飛び上がる瞬の姿とその脇に抱えられたおまけの姿が映った。

どうやら次の目的地も決まったらしい。


 「やれやれ片付いたらしいな」


ロビンはそれだけを確認すると、煙草を消して岩から立ち上がる。

予測していた通りに事が運んでいるのを喜びながら鼻歌交じりに歩き出す。

その彼の歩く後ろには戦車や輸送トラックが炎上し、その周りには大量の人が血塗れで死んでいた。

更に森の中には墜落したヘリが幾つもあり、その全てが銃による無数の弾痕が刻まれていた。

本当ならこれがアノールへと突入し、今とは違う結果をもたらしていたかもしれない。

だが、それは全て彼の手により全て防がれていた。


 「まぁ、これくらいは手助けしてやるさ。後は成り行きに任せるとしよう」


そう呟いたロビンは夜の闇へと消えていくように空へと飛び上がった。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

出来れば文法や書き方、ストーリー展開で意見を頂けるとありがたいです。

お気に入り登録いただけるともっとありがたいです。


 ようやく霧の街が終了です。

結構強引な展開の気もします。

小説は文法表現的にも展開的にもうまく書くのが難しいですorz

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