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第24話:お勉強

 「よっと、ついたぞ」


ロビンの後に瞬も足を止める。


 「ついた・・・んですか?」


瞬は素直にそう問いかける。

無理もない。

ロビンがついたといった場所は広大な何もない平地のど真ん中だったからだ。

周りには地平線が見えるほど平地はずっと続いている。


 「ここでいいんだ、お前に『旅人』ってのが何かを教えるならな。ほら、まずはお前の知ってる事を全部話してみろ」


ロビンはその場に似合わない革張りの高級な椅子を作り出して深く座る。

瞬もそれにならって椅子を作り出したが、何処にでもありそうな背もたれのついた椅子で浅く腰かける。

場所が場所なら上司と部下が向きあっていると取られてもおかしくない奇妙な光景だった。


 「・・・話す前に聞いておきたい事があります」


 「ん?なんだ?」


 「貴方は狼に変身する連中を殺したと言いましたよね?」


 「ああ、言ったな」


 「なぜ、そんな簡単に殺せるんですか?罪悪感はないんですか?」


瞬の質問にロビンは呆れて青い空を見る様に頭を逸らす。

だが、ロビンはめんどくさそうに思う心のどこかで懐かしさも感じていた。


 「やれやれ、嬢ちゃんと一緒だな」


 「え?」


呟くように言ったロビンの声を瞬はうまく聞き取れなかった。

何を言ったのか聞こうとした瞬だったが、古い記憶を呼び起こしながらロビンは頭を元に戻し、瞬の方を向く。


 「なぜ簡単に殺せるか、そんな理由は分かってるんじゃないのか?やらなければやられる、お前がいるのはそういう世界だと言う事だ。罪悪感?戦争でいちいち相手を殺した事を悔いている兵士などほとんどいないぞ」


 「こ、これは戦争じゃ」


 「戦争だ。いいか、簡単に言ってやろう。『W2』という組織は世界中のどこにでも存在し、ボランティアとしての表とその国の政治を支配するほどの力を持った裏がある。表で色々な国へと入り込み、裏の力であっという間に侵食する。言うなれば性質の悪いコンピュータウィルスみたいなもんだ。そうやって支配を繰り返した結果、今現在、『W2』のいない国はない。つまり、世界中がお前の敵である訳だ。奴らがその気になれば大量の軍隊が押し寄せるが、お前はそんな状況でもいちいち傷つけずに倒せると思ってるのか?」


 「それは・・・」


 「敵を眠らせるだけならいずれまた襲ってくる、だから殺す。殺さなければ終わりは来ない。お前以外の他の『旅人』も昔からそうしている。まぁ最も、『W2』の力を使えばいくらでも人員補充は可能だろうな。金や脅し、最後には洗脳まで使うような連中だからな。」


激情に任せて立ち上がった瞬はロビンに詰め寄る事はせず、その場に立ったまま叫ぶ。


 「そんな!なんという事を!」


 「結局は、だ。巨大すぎる組織は頭を潰すしかない。仮にお前が『W2』の頭と対峙したとしよう。お前はそれからどうするつもりだ?」


ロビンの言っている意味を瞬は理解した。

つまり、止めるためには結局人を殺さなければいけないという事を彼は言っているのだと。

瞬の脳裏に日本支部で自殺した小田切の姿とお前のせいだという言葉がよぎる。

瞬の口からすぐに答えは出なかった。


 「まぁ、そういうことだ。誰も殺さずに治めるなんて事はでき」


 「・・・しません」


 「ん?」


呟いた瞬の言葉にロビンの言葉が止まる。

そして、瞬はボリュームのつまみを捻るように声を大きくして続けた。


 「僕は殺しません!誰も!」


 「・・・そうか、お前がそう決めたなら俺はとやかく言わん。ただ、そう決めたなら貫き通す事だな。いずれ壁にぶち当たるだろうがな」


 「そんな壁壊してみせます!」


瞬は強い意志を秘めた目でロビンから目を外さない。

嬢ちゃんも最初はそう言っていたが、結局・・・。

ロビンは心の中で付け加えるが止める気はない。

なぜなら、彼も遠い過去に『旅人』になった時はそう思っていたからだった。

もしかすると瞬なら出来るかもしれないと心のどこかで期待していたのもあるだろう。


 「ふっ、俺がお前の行く末を見届けてやるよ、その言葉を本当にできるかどうかを、な。出来る限りの手助けはしてやるが、まずはお勉強からだな」


本題に戻ると瞬は椅子へと腰を落とす。

とりあえず、瞬は事の始まりから話し始め、姫から『旅人』について教えてもらった事を話す。

最初は頷いてまで聞いていたロビンだったが、次第に表情は曇り、最後にはめんどくさそうな顔をしていた。


 「こんな所です。他は何も聞いてません」


 「くぁ~、やっぱりか。まともに魔力についてすら分かってないのか」

 

本当、やってくれるぜ、嬢ちゃん。

心の中で毒づいてもその相手は既にどこにもいない。

やりきれないような怒りを心の奥底に飲み込んだロビンは、手の上に薫り高い紅茶の注がれたカップを作り出して一息ついて飲む。

どうにか怒りは治まったらしく、中身のなくなったカップを消したロビンは手で合図して瞬を立たせた。


 「いいか、まずは魔力というものがどういうものか教えてやる。目を閉じろ」


言われるままに瞬は目を閉じる。

何が起こるのか期待していると、ロビンはその前で手を前に出す。


 「意識を集中してみろ、何かを感じないか?」


集中と言われてもどうすればいいか瞬には分からない。

とにかく辺りの物事に意識を傾けてみた。

流れる風の音。

肌に当たる暖かい太陽の光。

風に乗って届く土の匂い。

そうやって周りの物事を目を閉じて感じ取っている。

すると、どこかボンヤリとした物がロビンの立っていた位置にあるのを感じた。

まるで幽霊の様な実体がそこに存在しているのかすら分からないが、霧の様なとにかくモヤモヤとした感じだ。


 「どうだ、分かるか?これが魔力だ。本来は空気中に雲散している魔力だが、人の体内で凝縮した物が今感じているものだ」


 「なんとなく分かります」


 「この感覚を十分に覚えておくことだ。これが敵の位置を知らせるレーダーのような役割も果たす。敵が魔法を使えるものなら必ず魔力は発生する。が、例外は存在する」


 「例外?」


 「そう、例えば敵が魔力の流れを操作出来る様な魔法を持っていたり、テリトリーを張るような魔法だった場合だ。前者はただの一般人を相手するようにまるでレーダーには引っ掛からない。逆に後者の場合は辺り一帯に魔力が満ちるため、術者が何処にいるのかは分からない。こういった例外があるが、それとは別に『魔具』という物が存在する。さっきお前が話していた刀もその一つだ」


そう言われて目を開いた瞬は『天狼』を思い出す。

『天狼』が『魔具』であると言われ、瞬は概ね理解していた。


 「魔法の力がある道具だから『魔具』、ですか?」


 「まっ、そういうことだ。魔法の力が封じ込められている便利な道具と思えばいいが、こいつらも魔力の探知には引っ掛からない。さっきの狼に変身する連中だが、こいつらはその『魔具』を体に埋め込まれていると見て間違いないだろう。探知に引っ掛からずに魔法を使える厄介な連中だったという事だ。幸い、お前には関係なかったがな。あ、そうそう、ちなみにだが俺達は相手の探知には引っ掛からない」


 「え?一体なぜです?魔法を使うのに」


 「俺達は地球を守る存在であり、地球に対して人間よりも近い存在だ。普通の探知では空気中の魔力の中に溶け込んでしまい、何もいないと思われてしまうのさ。ただし、魔法を使った場合は別だ」


瞬の頭の中に病院の屋上で姫が大量の銃器類を並べていたのが思い浮かぶ。

一通り覚えた後、姫は魔力が漏れたと言っていた。

それが敵に感知されていたのだと言う事が今になってようやく瞬は分かった。


 「魔力の話はこんなとこだ。続けて魔法についてだが、魔法と言うのはため込んだ魔力を人間と言う変換器を通して色々な形で放出するものだ。これについては何度も使っているだろうが、それはあくまで『旅人』の力だ。お前はまだ自分の魔法が使えないだろう?」


 「自分の魔法・・・ああ、僕自身のですか」


 「そうだ、人間は生まれついた時点で何かしらの魔法の要素が体の奥底で眠っている。普通の生活をしていたなら気付かないであろう力だが、お前はいまや『旅人』だ。お前の本当の魔法ではないといえ、魔力の流れる感覚や魔法を呼び起こす感覚はお前自信の魔法を目覚めさせる。そう遠くないうちに魔法が使える様になるだろう」


 「そうですか・・・、そういえばロビンさんの魔法は?」


 「俺か?ん~、実際にやってみせよう。」


そう言うとロビンは手の中に野球ボール大の石を3つ作り出し、それを適当に空中に放り投げる。

一体何をするのかと期待する瞬の前で、ロビンはCz75を作り出すとどういう訳か投げた石とは正反対の方向を向いた。

そしてまるででたらめな方向へとCz75を構えて3回引き金を引く。

放たれた弾は当然のように石とは逆の方へと飛んでいく。

だが、突然、弾道が大きくカーブして180度反転すると石へそれぞれの弾が飛んでいく。

弾は石を撃ち砕き、3つの石は空中で花火のように粉々に散ってしまった。

唖然とする瞬へとロビンは得意げな顔を浮かべながら今度は大量の石を幾つも作り出し空中へと放り投げる。

雨のように落下し始めた石群の下でロビンは両手に1つずつUZI(サブマシンガン)を作り出し、瞬へと銃を向けて引き金を引いた。

瞬は咄嗟に盾を出して防ごうとしたが、弾は瞬に当たる前に降り注ぐ石群へと強制的にその軌道を変える。

次々と弾丸は石を砕き、ロビンの両手のUZIが弾切れを示す撃鉄の澄んだ音を上げる頃には石は全てなくなっていた。


 「こんなとこだ。どうだ、少しは驚いたか」


 「え、・・・ええ。一体何なんですか、今のは?」


 「簡単だ、放った物を狙った物に必ず当てる魔法だ。銃や弓矢、手榴弾なんかと合わせて使えばいくらでも敵を倒せる、『旅人』ならばほぼ最強といえる魔法だ。何しろ、動かなくても大量に武器を作り出す事が出来るんだからな。ちなみに俺は『フェイルノート』と呼んでいる。円卓の騎士の1人が使用していた必ず当たる弓の名前で、別名『無駄無しの弓』なんても呼ばれてるが知ってるか?」


 「必ず当たる弓、ですか」


ふと瞬は思った。

ロビンと言う名前と弓とくれば、・・・まさか。


 「もしかしてなんですけど、ロビンさんってロビンフッドが好きなんですか?」


 「はぁ?」


 「いや、ロビンって言う名前と弓なんて聞いたら・・・」


そこまで聞いたロビンは最初は堪える様に笑っていたが、耐えるのが限界になると腹を抱えて笑いだした。

やたらと笑い続けるものなので、瞬は何かおかしい事を言ったのかと頬を赤く染めながら考える。

だが、どこにも笑われるような事など言ってはないはずだった。


 「はーっ、久々に笑わしてもらった。中々、面白い事を言う奴だ」


 「そんなに変な事言いましたか?」


 「まぁな、本人に向かって本人が好きなんですか、とは面白いだろ?」


 「ああ、なるほど。ロビンフッドにロビンフッドが好きって聞いても・・・って、えええ!?」


瞬は驚きのあまり、普段の礼儀正しい態度からは想像できない大声を上げる。

目の前にいる若い男が何百年も前の人物と言われてもまるで信じられずにいた。

確かに顔立ちはヨーロッパ系の白人だが、仮に彼の言う事が本当ならなぜここに存在していられるのだろうか。


 「一体何歳ですか!?」


 「俺?そういえば数えてないな。確か、生まれたのが1198年だから・・・、およそ800歳ぐらいだな」


ロビンは笑いながら答える。

その表情にはどこにも嘘をついているような様子はない。

いくらなんでもおかしいと疑い始めた瞬だったが、それを見越したようにロビンは付け加えた。


 「『旅人』ってのはな、人間の寿命なんてない不老不死なのさ」


 「ふ、不老不死ですか!?」


過去、権力者はこの不老不死を追い求め、無数の錬金術師が挑戦したが結局成し遂げる事は出来なかった。

また、今でも不老不死を願う人は少なくなく、最早、人類としての夢の1つとも言える。

そんなものを知らず知らずのうちに手にしていたとは瞬も腰を抜かす。


 「う、嘘?」

 

 「なんで俺が嘘を言わなきゃいけないんだ?言ったよな、俺達は地球に近い存在だと。簡単に言えば地球の寿命が俺達の寿命と言う訳だ。傷や怪我が急速に治っていくだろう?それはこの作用なのさ。ただ、厳密に言えば首を切り落とされたりすれば死ぬかもしれないから不死とは言えんかもしれん。さすがにそこまで実験しようとした奴は今までいないからな。逆に『W2』の連中はそれに賭けている訳だ」


 「じ、じゃぁ、貴方が800歳と言うのは・・・」


 「なんだ、疑ってたのか。本当に決まってるだろ」


ふんぞり返ってロビンは言う。

確かに今まで怪我や毒を食らった事のある瞬だが、徐々に怪我は治っていき、最後には完治していた。

さっきの狼人間達との戦いもそうだ。

銃弾を食らったはずなのにその怪我は戦いの合間に痛みすらなくなり、今となっては跡すら残っていない。

彼の言っている話はおそらく本当なのだろうと、瞬は思う。

と言う事は。


 「え~と、ひいひいひいひいひい・・・」


1つひいと言うたびに瞬は指を折って数えていく。

それを見たロビンはどことなく察したのか、顔を引きつらせていた。


 「・・・何を、しているんだ?」


 「え、いや、800歳なんてなると一体いくつひいが付くおじいちゃ」


 「てい!」


瞬の頭にロビンのチョップが叩きこまれ、舌を噛んでしまった瞬は痛さに悶絶する。


 「そういう事を考えるな!大体、俺のどこがおじいちゃんだ?『旅人』になったら歳の概念など捨てろ!いいな!?」


 「ふ、ふぁーい」


痛む舌で返事をしながら、瞬は別の事を考えていた。

となると、姫は一体何時の時代の人なのだろうか。

瞬はふと湧いた疑問をロビンにぶつけてみた。

すると彼は眉をひそめ、しばらく考える素振りを見せた後に答えた。


 「嬢ちゃんの事についてはそのうち分かるだろうから言わない。というか、俺の口から言うよりも自分で知るべきだ」


 「はぁ・・・、分かりました、貴方がそう言うなら聞きません」


ありがとうの代わりにロビンは手を振って返してみせる。


 「あとは・・・『W2』のアジア支部の場所だが、アノールって街に行ってみろ。前と変わって無けりゃさっきの狼野郎を作り出した施設がある、おそらくそこで場所は分かるだろう」


 「貴方は行かないんですか?『W2』は敵でしょう?」


 「俺は別の用事がある。残念だが、お前1人だな」


 「そんな・・・、ほかに仲間がいるのならチームで動くべきでは」


 「仮にだ、ここに他の『旅人』3人がいたとしよう。全員お前1人で行けとしか言わないさ。『旅人』は基本的には1人で行動する。助けは期待するな」


 「でも、みなさん『W2』と戦われてるんじゃ」


するとロビンはどことなくばつが悪そうに頭を掻きながら言う。


 「・・・残念だが、今まともに『W2』と戦っているのはお前だけだ」


 「え、そんな!?なぜですか!」

 

 「1人1人に理由はあるようだが、俺は他にやるべき事もあるし、世界を相手に戦争なんてやってる暇がない。それだけだ」


 「『W2』を倒すよりも重要な事、ということですか?」


 「まっ、そう思ってくれりゃいい。そんじゃ、とりあえずこれで話しは終わりだ。後は色々と自分で探してみろ、じゃあな!」


 「あ、ちょっと!」


まだまだ聞きたい事がある瞬だったが、ロビンはさっさとその場から飛び上がっていった。

追おうにもどうやったのか視界からは完全に消えてしまい、瞬は追跡する事が出来なくなる。

仕方ないと諦めて瞬はその場にだしたままの椅子を消しておくと、GPSと地図を作り出す。

ロビンの言っていたアノールという街を地図から探しだすと、一路アノールを目指した。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

出来れば文法や書き方、ストーリー展開で意見を頂けるとありがたいです。


今回は説明的な内容なので会話ばっかりになってしまいました。


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