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第17話:魔狼(2)

2010/05/04 修正版を更新(いくつか表現を修正)

 料理の腕に全く自信のない瞬はひたすらに人参やジャガイモの皮をむき続けていた。

老人はそれを手馴れた手つきで切り分けて料理していき、大した時間もかからずにすぐに料理は出来上がってしまった。

どちらかといえば瞬は料理よりも『旅人』の力の調節に苦戦しながらやる皮むきの方が時間がかかっていた。

その事情を知らない老人は呆れてため息をついていたが。

とりあえずテーブルには熟練の腕によって作られた野菜スープにサラダ、いくつかの小さなパン、地元で捕れたという鹿肉のソテーが並ぶ。

老人と瞬は椅子に腰かけるとお互いにパンを取る。

ちぎったパンを頬張りながら2人は料理に手を伸ばし、しばらくすると老人が話しかけてきたところで会話が始まった。

自己紹介から始まってこの村、『カラフ村』の事や瞬がいた日本の事などの色々な事を放した。

老人、ミハイルが昔は狩人だった時の話をする頃には2人の食事は終わってしまった。

今はミハイルが淹れた食後のコーヒーを飲みながら会話していた。

瞬もミハイルもコーヒーカップを片手に楽しい会話を続けていたが、不意に壁に掛けられた時計が10時を指し示すとミハイルの会話が止まる。

不思議に思った瞬を余所にミハイルの温和だった表情が厳しい顔つきへと変わる。


 「・・・こんな時間だ。そろそろ、終わりにしようか」


 「あ、はい。じゃ、お風呂の用意をさせてもらいますね」


 「ああ、風呂はこの奥じゃ。言わんでも大体やり方は分かるじゃろ」


少し雰囲気の変わったミハイルを気にしながら瞬は椅子を引いて立ち上がる。

すると、台所の奥へ向かおうとする所で突然ミハイルが振り向いた。


 「お前さん、何だってこんな時にこんな村へ来たんだ?」


 「こんな・・・時?」


 「いや、知らんのなら気にせんでええ。くれぐれも言っておくが何があっても外には出るな、いいな?」


 「?・・・はぁ、分かりました」


言ってる意味がよくは分からないが、とりあえず瞬はその場を後にすると年季の入った風呂場へと入っていく。

老人は戸締りをしようと表の扉の前に立った。

するとちょうど扉がノックされ、その後に扉が勢い良く開かれると肩が激しく上下するほど息の荒い村の若者が立っていた。

ミハイルは若者を中に入れて椅子に座らせる。

若者は休みながら息を整えていくと垂れた頭を上げた。


 「はぁ、はぁ・・・、や、奴が崖に立っているのをついさっき見た奴がいる、今夜もまた襲いに来るはずだ!」


 「そうか・・・、しかし昨日、足に銃弾をもらっているはずじゃろ?」


 「それが普通に歩いていたらしいんだ!こっちは昨日の戦いで奴に対抗できる男手が少ないうえに、イワン爺さんはまだ診療所で意識がない!それで・・・」


どことなく言い出しにくそうに若者の言葉が小さくなる。

ミハイルはここまで話を聞いて若者が何を言わんとしているのかを察し、軽く息をつくと男の言葉を補うように話す。


 「それでこの隠居した老いぼれに指揮をとれ、と言う事か?」


 「うっ・・・、そ、そうだ。イワン爺さんほど腕があって、経験があるのはアンタしかいない。頼む、これは男達全員からの願いだと思ってくれ!」


青年は祈るようにミハイルに懇願する。

その祈られた当の本人はどうしたものかと長く生えた髭をいじり出す。

風呂場にいるであろう瞬の方をチラッと見て若者に向き直ると、しょうがないと首を縦に振った。


 「分かった、男連中を集めて罠を張る、集会場に集合じゃ」


 「ありがてぇ!じゃ、俺は皆に声をかけてくる!」


顔が晴れたように明るくなった若者は慌ただしく宿屋から飛び出ていった。

ドアも閉め忘れていなくなった若者に呆れながらミハイルはドアを閉めると、ちょうど風呂場から出てきた瞬に出くわす。


 「お風呂の準備出来ました」


 「そうか、お前は先に入っとれ。わしは用事が出来たから出かける」


 「こんな時間にですか?」


 「そうじゃ、急ぎの用でな。わしが出ていったら鍵をかけて部屋に閉じこもっておれ、いいな?何があっても絶対に出るな。2時間もすれば戻ってくる」


 「は、はぁ・・・」


瞬がよく分からないといった感じではあるがひとまず頷く。

ミハイルは壁に掛けてある狩人の時に使っていた愛用のハンティングライフルを取り足早に宿屋から出る。

夜の寒さに身を縮こませながら集合場所として指定した集会場を目指す。

一人取り残された瞬はとりあえず言われたとおりに鍵をかけて、自室へと戻る。

異臭のするベッドへと横になるとミハイルの事が引っ掛かっていた。

ミハイルの険しい表情と銃を持っていったのが、今から何かが起ころうとしているのではないかと不安に駆られる。

ただどういう用でどこに出かけたのかも瞬は知らない。

なにより余所者が首を突っ込むべきではないのかもしれないと愛用していた小型のミュージックプレイヤーを作り出すと、ヘッドフォンを頭にかぶると登録してある音楽をランダムで流す。

むき出しの裸電球がユラユラと動くさまをただ目に移すだけにとどめておきながら、瞬はただボンヤリと物思いにふけっていく。





 村中の家から猟銃を持った男達がライトで照らしだされて他よりはかなり明るい集会場へと集まる。

集会場のには罠に使うであろう集められたトラバサミやドラムに巻かれた有刺鉄線が置かれていた。

集会場の中央には小屋があり、その中には重い雰囲気の中、何人かの狩人や狩りの経験者がテーブルを囲むように座っていた。

ミハイルも当然その場に座っていた。

テーブルの上には村の地図が広げられ、周りにいる男達は一言もしゃべることがない。

地図をジッと睨むように見続け、頭の中ではずっと罠の配置を考えている。

普通の狼程度なら彼らも特に迷わず、大体の罠の配置は考えられる。

ただ、今回の相手は常識が通用しない相手だった。

なんせ村を襲うようになってからも罠は何度か配置したが、それが常識はずれの力や事前の察知により全て無駄になっていたのだ。

そのために誰ひとりとして自分の考えに自信が持てず、しばらく沈黙の時間が流れる。

これではいかんとその沈黙を破るようにミハイルは立ちあがった。

地図に指を置くとなぞりながら口を開く。


 「村の周囲は有刺鉄線で囲み残った出入口は2つ、奴が来るなら山側しかあるまい。そこに埋めたトラバサミと捕獲ネット、落とし穴を仕掛ける。後は罠の後ろで待ち構え、奴の速度が落ちた所を仕留める。これが現状できるとこじゃないか?」


 「・・・奴が山側から来なかったらどうする!?」

 

 「そもそも奴に罠は効くのか!?」

 

 「罠が効かなかったその後は!?」


周りの男達が苛立ちを吐き出すように一気にまくしたてて質問し続け、ミハイルは目を細めながら椅子に座って一息つく。

男達が困惑しているのを余所に、ミハイルは頬を掻きながら特に焦りもなく質問に答えた。


 「さぁてな」


 「・・・さぁてなって!俺達の命がかかってるんだぞ!分かってるのか、爺さん!」


 「分かっておるさ、お前達が自分の家族を守るために参加しておるのもな。だがな、奴が現れてから6日、奴について分かったのは驚異的なスピードや力を持ち、今まで通りのやり方じゃ通じんと言う事だけじゃ。警察や軍が来ようものならもっとましな作戦をやってくれるじゃろうが、この老いぼれにはこんな案しかでやせん。他に良い案があるなら聞くが、どうじゃ?」


 「・・・」


熱が冷めていくように男達は冷静さを取り戻していく。

それと同時に、他の案を考えてはみるものの男達の頭の中にはそんな案など浮かぶこともなかった。


 「これに命を賭けずとも、家で奴がいなくなるのを待った所で咎めん。それは個人の自由じゃ、好きにするがええ」


男達はミハイルの言葉にお互いに顔を見合わせる。

やがて戸惑った顔から決意した顔へと変わるとミハイルに向かって全員が頷いた。

その決意にミハイルは微笑むと同じように頷くと、それを合図に決まった罠の配置に合わせて男達は罠の材料を手に集会場から散っていく。

自分の家族を、そしてこの村を守りたい一心でひたすらに罠の設置作業を行っていく。

集会場の小屋に取り付けられた鐘がちょうど12時を鳴らす頃には作業は終わっていた。

入口の見張り台にだけ人を残し、残った男達は小屋の中で温かいコーヒーを片手にただその時を待つ。

そして、村の鐘が12回鳴り終わった時だった。


 「ウォォォオオーーーン!」


山から響く狼の遠吠えが村中に響き渡る。

家にこもった子供や母親はそれに涙を浮かびながら震え、男達は奴が来る事に恐怖して肩にかけた猟銃を震える手に持つ。

小屋からミハイル達は飛び出すと、周りにいた男達を率いて山側の入口に築いた罠の奥に控える。

同士討ちをしないよう道一杯に広がり、溢れた男達は家の屋根の上に登る。

ミハイルはその男達の中心から少し出ると小屋から持ってきた赤い袋を取り出し、罠と男達の間辺りにぶちまける。

袋の中からは何かの臓物や血が飛び散り、辺り一帯に独特の生臭い匂いが漂うと慣れない男達は途端に咳き込む。


 「こいつで奴もここに来るじゃろう、風向きはちと悪いが何とかなるじゃろう」


ミハイルはそういうと男達の列の中に戻り、自分の銃を持って奴が来るのを待ち構える。

すると村の入口に立てられた見張り台の上で見張っていた男が山の麓付近で雪煙りが起こっているのを捉えた。

まさかと男が思っていた次の瞬間にはその雪周りが一回り大きくなる。

実際は大きくなっているわけではなく近づいてきているだけだ。

だが、それが逆に分かっているからこそ男も自然と焦り出す。


 「や、奴は山を下りた!そのうちやってくるぞ!」


 「よし!お前さんはそこで見張っておれ、決して手出しするな!」


下で待ち構える男達は自然と銃の横についた取っ手のようなボルトを引く。

それをもう一度戻す事で弾を銃身に装填するボルトアクションを行い、来るであろう山側に銃を向けて待ち構える。

見張り台にいる男もジッと雪煙りが迫ってくるのを見張っている内に手元は自然と弾を装填していた。

次第に距離もなくなってくると雪煙りの中からこの村に恐怖をばら撒いた赤い目の狼が見え、奴の顔が一瞬だけ男の方を向く。


 「ヒッ!」


少しだけ離れた位置ではあるものの男は目が合ったと錯覚し、この時点で彼の思考はまともではなくなっていた。

恐怖に駆られてすぐに村に迫る奴目がけて猟銃を構えるとミハイルの忠告など完全に忘れて引き金を引く。

奴の移動位置を予測しての中々正確な射撃ではあったものの、飛び出した弾は奴の後方の雪の上に突き刺さる。

これに驚いたのは狼よりも下で待っていたミハイルだった。


 「馬鹿者!なぜ撃った!」


下から男に向かって激怒の声が飛んでくる。

しかし、上の男はまるで聞く耳持たずにボルトアクションで次弾を装填すると次々に撃ち続ける。

狼は攻撃されているのを認識して弾を回避するためなのか蛇行するように走り出し、男の撃つ弾丸は次々と雪の上に穴を穿つ。

当たらない事に恐怖しているうちに銃が澄んだ音で弾切れを知らせる。

男が震える手で弾を装填しているうちに狼は村の入口までたどり着いてしまった。

ミハイル達に緊張が走る。

自然とミハイルの手にも緊張から汗が出るが、そんな彼を余所に狼は入口で足を止めた。

罠に気付かれたのかと思ったミハイルだが狼は見張り台を見上げ、すかさずその巨体を見張り台へと体当たりさせた。

地震でも起こったかのように見張り台は大きく揺れる。

上にいた男は慌てて銃を捨てて木の柵に掴まったものの見張り台自体が村の方へと倒壊していく。

男はなす術なく空中へと放り出され、地面へと何かが壊れるな音を上げながら叩きつけられる。

見張り台の倒壊によって倒れた場所の雪が舞いあげられ、立ちこめた雪煙りによって待ち構えている男達の方からは狼がどうなったのか見えない。

しばらくすると雪煙りの中に黒い影が浮かび上がる。

男達は銃を持つ手に力が籠るが雪煙りから抜け出てきたのは見張り台にいた男だった。

男は至る所から血を流し、右足を骨折したらしく引きずるように左足で歩いて助けを求めるように左手を差し出している。

何人かの男が向かおうとした瞬間、雪煙りの中から飛び出した巨大な口が男の首へと食らいつく。

1本1本の歯が男の首に食い込んで大量の血をまき散らす。

男はあまりの痛みにあらん限りの力で狼の口を外そうとするがまるではずれない。

それどころか首を挟んだ状態で体を中へと持ち上げられる。

首を抑えられた男は声を上げることすらできず、ひたすらに助けを求めて男達に手を伸ばす。

だが、男の散らした血が周囲の雪煙りを赤く染め終わると同時にその手は下へと落ち、男の体からは力が抜けていく。

赤い雪煙りの中で赤く光る眼は奥にいる恐怖にひきつった男達を捉える。

狼は口にくわえた男の屍をその辺に放り投げると男達に向かって走る。

すると1、2歩進んだ所でカモフラージュして仕掛けられたトラバサミが狼の足へと食らいついた。

男達は罠にかかったのに希望を見出したように「よし」、「やった」などと口走る。

狼はそんな希望を粉砕するかのように足を振り払うとトラバサミはあっさりとはずれてしまった。

おまけに足にはかすり傷程度の傷しか付いていない。

唖然とする男達などそっちのけで狼はトラバサミが前を向き地面を凝視し出す。

すると、トラバサミが仕掛けてある場所を狼は的確に避けて軽々と跳びまわり先へと進む。

1つ目の罠を物ともしていない様子に周囲の男達に動揺が走る。


 「まだじゃ、まだ罠は残っておる!」


それを止める様にミハイルは男達を叱咤するように叫ぶ。

狼がトラバサミを抜けると同時にミハイルは足元に伸びた2本のワイヤーを思い切り引っ張った。

狼の眼前に両側から射出された捕獲ネットが広がると奴は足を動かすのを止めてブレーキをかける。

確実に捉えたとミハイルや男達も思った。

だが、奴はそこからバックステップを行って後ろに飛び退くと、捕獲ネットは空しく地面へと落ちる。

仕掛けられた罠に殺意が更に増していく狼は低く吠えると走りだし、最後の罠の落とし穴へと足を踏み入れた。

途端に落とし穴の中へと引きずり込まれるように狼の体は沈むが、狼は残りの足で無理やり跳んで落とし穴を回避すしてしまった。


 「信じられん、あれだけの狼なんぞ見たことない・・・」


全ての罠をかなり強引ではあるがあっさりと突破されてしまったのにミハイルは驚く。

長い狩人生活の中でもこれだけ賢く力のある動物など見た事が無かったからだ。

とんでもない性能の狼は仕掛けられた罠に怒りが有頂天へと達したのか、今までにないほどの速度と殺意を持って男達の方へと向かう。

残虐性とそれを実行できる力を持ち、狩りの罠がまるで通じない相手がすぐ目前にまで迫っている。

男達の恐怖を頂点へと達し、戦意喪失した男の何人かはその場から逃げだし陣形は穴だらけになってしまう。

ミハイルが気づいて慌てて止めようとしたものの、もう奴は目前にまで迫っていた。


 「くっ、全員撃て!」


号令に合わせて一斉に撃たれた銃弾の群れは狼へと向かっていく。

狼は銃声がすると同時に右に跳び、弾は狼の体を掠めるだけに終わる。

次弾の装填が済んだ者から次々に弾を撃ち続けるが、右へ左へと跳びまわるように向かってくる奴に何発か当てる事は出来ても決定打となる致命傷を与えることはできない。

そして、ついに男達の最も恐れ、狼からすれば待ち望んだ瞬間がやってきた。

狼はまず目の前で対峙して慌てて逃げ出そうとする男を跳ね飛ばし、違う男に跳びかかると一撃で喉元を食い破り、また違う男に飛びかかると前足で胸を深くえぐる。

応戦し続ける勇敢な男もこの時点で残りは少なく、最早数えるほどしかいない。


 「ウォォオオオーーーーン!!」


勝利を確信したかのような大音量の遠吠えにたまらず残った男達も耳を手で塞ぎ、銃を下へと落としてその場に膝をついてしまう。

そうなればもう狼の独壇場だった。

狼は飛び跳ねる様に次々と男達をその牙と爪で攻撃していく。


 「ぐ、ぐぅぅ、ここまでか・・・」


下に残った動ける者はミハイルだけとなり、屋根の上にいる男達もまだすぐには動けない様子だ。

目の前にまで迫った狼にミハイルは死を覚悟しながらも、手を後ろに回すとせめて一太刀とばかりに腰に差していたナイフを抜く。

そんな事を知らない狼は巨大な前足をミハイルへと振り下ろす。

ミハイルも抜いたナイフでそれを迎撃に入る。


 「うおおぉぉ!」


殺人的な勢いを持つ鋭い爪が生えた前足と年老いた腕で振られたナイフでは結果がやるまでもなく見えている。

屋根の上で助けようとしていた男達も凄惨なミハイルの姿をイメージし、その激突の瞬間を見たくないと顔を伏せた。

ミハイルの全力で振ったナイフと狼の前足が交わる時だった。

その間に何かが現れたかと思うとミハイルのナイフと狼の前足は強力な力で抑えつけられ、まるで動きはしない。

何が起こったか分からず茫然としたミハイル。

狼が前足を外そうと暴れまわるのに我に返ると、自分のナイフの先を見る。

そこにいたのは涙を流しながら右手でナイフの刃を持ち、左手で狼の前足を止めている瞬だった。

瞬は狼が暴れまわるのをまるで気にしていないかのように左手一本で軽々と抑え込んでいた。

そのとても信じられない光景にミハイルは絶句してしまうが、頭の中から言葉を絞り出すように喋り出す。


 「・・・しゅ、瞬!?一体、どうして、・・・お前さんは?」


まるで質問になっていない途切れ途切れな言葉だった。

それでも瞬はミハイルの方へ向くとまだ泣いたまま頭だけを下げる。


 「ごめんなさい、僕がもっと早く気付いていれば・・・。そうすれば、死者も出ず・・・」


 「・・・お前さん」


 「話はとりあえずこの狼を黙らせてからにしましょうか、ね!」


瞬はナイフを掴んでいた左手を放すと狼の腹へと向けてそのまま手を突き出す。

腹の中にめり込むほどの力で勢いよく押された狼の体は仕掛けておいた落とし穴の上まで吹き飛び、そのまま落とし穴の中へと落ちる。

落とし穴の中で血を吐き出しながら狼は殺す対象を瞬へと変えると力強く穴から跳び出す。

だが、跳び上がった狼の前に罠の一つから射出されたネットが広げられる。

地面ならまだしも空中では回避のしようがない。

広げられたネットに狼はどうする事も出来ずに包まれる。

地面の上に落ちると、落ちながら暴れたためにネットが体中に絡みつき、まともに身動きが出来なくなっていた。

それでもまだ狼は逃げようともがき続ける。

瞬はその狼の体の上に添えるように手を置くと、狼はまるで巨大な岩石が乗っているかのような錯覚をするほどに重みを感じ、次第に身動きが取れなくなっていく。

次第に観念したのか狼は動く事を止めて小さく吠えると、瞬は手を放してその場に立ちあがる。


 「・・・信じられん」


いとも簡単にあれだけ暴れまわった狼を捕獲してしまった瞬に、ミハイルや男達は呆気に取られて手に持っていた銃をその場に落としていた。

涙を流しながら神々しささえ放つ青年に、ただ男達は黙るだけだった。

 親不知3本の痛みと風邪にやられました。

親不知は来年にならないと抜けないため、年内と来年の頭はこの痛みに耐える日々が続きそうで気は滅入る一方です。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。

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