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第14話:旅立ち(6)

 2010/05/02 修正版を更新(いくつか表現を修正)

 「総員攻撃!」


小田切の命令が響き渡るように飛ぶと、それを受け取った隊員達は即座に構えた銃の引き金を引く。

発射された何十発もの銃弾は当然のように瞬の盾によって弾き飛ばされる。

それを受けて瞬も麻酔銃を身をバリケードから晒していた隊員に向けると引き金を引いて麻酔針を飛ばす。

この基地に入ってからずっと繰り返されるような一方的な攻防だったが、隊員達は銃撃の合間にスモークグレネードを放り投げる。

すると大量の煙幕が瞬を取り囲み、視界が完全になくなると同時に銃撃が止むと戦闘が行われているとは思えないほどに不気味に静まり返る。

これから何かが来るであろうことを察知した瞬も、自然と身構えてその場を動かずに辺りを見回す。

突然、煙幕の一部が盛り上がったかと思うとその中から日本刀の刃が突き出し、瞬目がけて振り下ろされる。

振り下ろされた日本刀は見えない盾にぶつかる。

ナイフの時のように弾かれるかと思っていた瞬だが、何時まで経ってもその刃は弾かれずに盾に切り込んだまま残っていた。

次第に煙幕が晴れてくるとその日本刀の後ろから小田切が浮かびあがるように現れる。

気迫がそのまま表情に出ているかのような恐ろしい形相で日本刀に力を込めていた。


 「ぬううううぅぅ!」


その迫力に瞬は気圧されながら麻酔銃を小田切に向ける。

小田切はすかさず日本刀を手にその場から後ろに飛び、近くのバリケードに隠れる。


 「ふははは!この『天狼』でも切れぬか!さすがに世界最強を誇る『イージスの盾』だ!」


 「『天狼』?」


 「そうだ!魔法使いによって造られた日本刀の最高傑作の一振りであり、その刃に切られたあらゆる魔力を断ち切るとされている!」


幕末初期に日本刀の美しさに魅了された一人の魔法使いがいた。

彼は収集するだけでは飽き足らず、最後には自分で作り出すまでに至り、彼の最後に造り出したその一振りこそが『天狼』だった。

『天狼』は造り出した魔法使いの魔法なのか、それとも魔力による偶発的な能力かは分からないが魔力で造られた物はすぐに両断され、また空気中に浮遊する魔力へと分解されるはず、だった。

『イージスの盾』は切らられてもまだ存在しているばかりか、機能はまるで損なわれてはいない。

小田切は『天狼』では分解させる力が足りないのを知ると同時に、『イージスの盾』がとんでもない人知を超えた魔力を誇っている事を思い知らされる。


 「それならそれでこちらも防御を行うとしようか」


まだ立ち尽くしたままの瞬を小田切は見据えながらバリケードから飛び出す。

そして、ベルトに取り付けた小さい箱のような装置のスイッチを入れる。

途端に箱から青白い光が放たれ、その光は小田切の周りを取り囲むと瞬の盾と同じような球状に落ち着く。

球状の表面は青白く、時折、電流のような青い光がその上を流れる。

瞬が麻酔銃を撃ち込んでみると飛んでいった麻酔針が球体に触れる。

途端に触れた場所に表面を走っていた青い光が収束して麻酔針を包み込んだかと思うと、電撃のようなバチバチという音の後に焼け焦げた麻酔針が下へと落ちる。


 「・・・電撃のバリアということですか」


 「そういうことだ、これで貴様の攻撃は私には届かん!さぁ、いくらでも撃ってくるがいい!」


わざわざ手を広げてアピールする小田切。

瞬は挑発に答えるように麻酔銃を連射し、何本もの麻酔針が小田切へと向かって飛んでいったが全てが電撃によって焼け焦げた状態で床へと落ちる。

得意げな顔で小田切は瞬を見据えながら『天狼』を構えると即座に真剣な表情へと変わり、次第に空気が張り詰めていく。

だが、お互いに相手の攻撃を完全に防ぐ防御があるためにお互いが手を出し辛く、まるで将棋の千日手のようにお互いの動きが対峙したまま止まる。

時間にして約1分と経たないがずっと対峙し続けているかのように感じていた2人。

だが、瞬は何かを思いついたのか麻酔銃を消し、指先の動きや足の運びなどをずっと見ていた小田切に向かって軽く笑って見せる。

突然の笑みに面食らった小田切。

不思議に思った次の瞬間、10mはあったであろう距離が一瞬にしてなくなり、その瞬の笑みが目前にまで迫っていた。


 「ぬ、ぬおおぉぉ!?」


驚きながらも何十年と剣術に携わってきた体は、自然と瞬に向かって左肩から右下に抜ける袈裟切りを自分を守る電撃のバリアを切り裂きながら放つ。

意表をついた攻撃に即座に対応してみせたものの、瞬の勢いは止まらず『天狼』の刃を勢いで弾くばかりか電撃のバリアを無力化して小田切の体へとぶつかる。

まるで車にでもはねられたかのように空中へと舞い上がった小田切。

だがそれでもなお小田切は意識を保ち、痛みに耐えながら一回転して地面へと着地する。

一方、瞬は勢いが余りにもつきすぎたために小田切の目の前で停止するどころかそのまま何人かを巻き込み、壁へ激突すると壁にめり込んだ所でようやく止まり慌てて後ろを向く。

するとそこには何人かの隊員達が横たわり、いくつもの機械を壊しながら出来た一本の道が出来上がっていた。

その道の一番向こうには小田切が怒りの表情で瞬を睨みつけていた。

あまりの気迫に瞬は尻込みしながら、まるで近所の窓ガラスを割った子供が家主に対面した時ののようにおどおどしている。


 「ご、ごめんなさい。ちょっと力の加減が・・・」


 「やってくれるわ、さすがは『旅人』だ!この痛みは油断した私への戒めとしよう!もう出し惜しみはなしだ!」


小田切がまるで獣のような目で瞬をにらみながら手を上にあげる。

すると隊員達は腰につけていた鞘からサーベルを引き抜くと一斉に瞬へと襲いかかる。

隊員達の振り下ろしたサーベルは瞬の盾に止められるが、それらも全て『天狼』のように弾かれずにその場にまだ留まり続けようとする。


 「全部が魔力を切り裂く力を持っているということですか!」


 「その通りだ!ただし、『天狼』程の威力はないが足止めには十分だ!」


小田切はその場に腰を落とすと頭の中で呪文の詠唱を始める。

次第に小田切の周りに手の拳台の大きさをした赤い火の玉が何処からともなく浮かびあがっていく。

更に詠唱を続けていくとその火の玉はいくつにも増えていき、小田切の姿を覆い隠すまでに増えた所でようやくその増殖は止まる。

麻酔銃でようやく襲いかかってきた全員を眠らせた瞬もその大量の火の玉を目にすると、今までとは違うレベルの魔法による攻撃を想像するのは当たり前だった。

ただ、ふと瞬の頭の中にはRPGでよく使われる呪文がよぎり、好奇心からか確かめずにはいられなかった。


 「・・・もしかして『ファイヤーボール』ですか?」


 「違う、そんな安直な名前ではない!『炎龍』、それが私の魔法の名だ!」


苛立つように答えた小田切の説明を聞いた瞬はまたふと思うところがあるらしく、少し考えるように目を閉じている。


 「なんだ?私の魔法に怖気づいたか!」


 「・・・地元にそんな名前の中華料理屋が」


 「いけええええぇぇぇ!!!」


瞬の言葉を遮るようにいくつかの火の玉が瞬目がけて高速で打ち出される。

盾にぶつかると当たれば肉を抉るような小規模な爆発を上げながら黒い煙を上げる。

次々に瞬へと打ち出されていく火の玉は確実に盾に阻まれているが、上がった黒煙で瞬は視界がまたなくなってしまう。

瞬は左へと飛んで黒煙の中から出ると同時に麻酔銃の連射を行う。

だが、全てが火の玉に妨害されるか電撃によるバリアにより小田切には届かない。

逆に打ち出された火の玉は誘導されているかのように曲がり、逃げる瞬の後ろへと衝突し爆発する。


 「追尾してくるとは中々高性能な火の玉ですね!」


手を前に出しながら瞬は水の大量に入ったバケツを思い浮かべ、現れたバケツを後ろから追ってくる火の玉目がけて投げつける。

飛んでいったバケツは大量の水をばら撒きながら火の玉へぶつかった。

しかし、水は瞬く間に蒸発してしまい、浮いた火の玉にバケツがかぶさるとバケツに火がついて燃えてしまう。


 「ど、どんな火力してるんですか・・・」


 「くははは!そんな程度では『炎龍』は消す事なぞ出来ん!ここにあるだけ食らえば『イージスの盾』とて無事では済むまい!私の魔法をけなした事を後悔しながら消し炭になれ!」


 「・・・別にけなしたつもりはないんですけどね」


核爆発にも耐えると聞いていた盾が破られるとは思っていない瞬だったが、食らうたびに発生する黒煙と爆炎で視界がなくなるのをどうにかせねばと考えていた。

一定の距離を保ちながら司令室内部を飛び回り、逃げながら後ろ向きに作り出したP90(サブマシンガン)を両手で連射してみたが実体が無いのか弾は素通りする。

そして火の球は変わらずに瞬を追尾し続けて飛びまわる。

離れた場所から見ていた小田切はそんな状況を『旅人』が自分の魔法に追い詰められていると勘違いし、更に追い詰めるために周りに浮遊している火の玉を操作して集結させる。

集まった弾が溶け合う様に一つの巨大な球になると、何かの形を作っていくように念じる。

まるで粘土細工のように変化していく火の玉は次第にその名でもある龍の形へと変貌する。

まるで生きているかのように体を波打ちながら主人の前でその場を泳いでみせる。


 「よし、これで終わりだ『旅人』よ!消し炭になれ!」


炎の龍は電撃のバリアの周りを一周すると、その全身に電撃が絡むようにまとわりつき赤い体に青い線が何本も走る、

一周した勢いそのままに加速した炎の龍は、瞬に向かって火の球の比ではない速さで飛んでいく。

咄嗟に盾で受けようとした瞬だったが足元に何人かの隊員達が倒れているのに気付くと寸前で龍を回避し、その場からいったん離れて逃げる。


 「これが爆発したら貴方の部下も死にますよ!?」


 「ふん!お前が死なないならば、結局、我らは処罰される身だ。それが多少早まろうが問題あるまい。それに勝利には犠牲はつきものだ」


 「なんて勝手な!」


 「お前さえ死んでくれればそれで部下も報われる!さぁ、死ぬがいい!」


小田切の意思を受けて炎の龍は逃げ回る瞬の後を飛んで追いかけ、今すぐにでも瞬にぶつかろうとする。

瞬も爆発させられるだけの場所を探すが室内は所々に隊員がいるために断念し、一旦外へと出ようとする。

だが入口に上から強固な金属製のシャッターが現れて外への扉を閉じてしまい、寸前のところで瞬は方向転換をして龍から逃げる。


 「逃がすか!」


声の元を見れば小田切がシャッターを下ろすよう操作したらしく、手もとのコンソールに手を置きながら瞬をずっと見ている。

その状態で龍を操作しながらまだ倒れていない隊員達に指示を出し、ついに瞬は追い詰められる。

室内の角にまで瞬は追いやられ、前方には龍が陣取っており逃げ場は何処にもない。


 「これで終わりだな『旅人』!」


 「・・・一応、言っておきますが『イージスの盾』は貴方の攻撃なんて効かないですよ?ただ、その龍の爆発が貴方達を傷つけるだけでなく、殺してしまう。僕はそれが嫌なんです。だから、龍を引っ込めてください!」


 「お優しい事だな!だが、そんなたわ言など聞かん!行け、『炎龍』!」


瞬の忠告を無視した小田切は龍を隅に固まっている瞬目がけて行くよう、『天狼』を振り下ろして瞬を指し示すと龍はそれに従って瞬へと突進する。

高速で飛ぶ龍はその場から動かない瞬を完全に捉え、瞬に激突するのを周りにいた隊員達と小田切は確信していた。


 「これで終わりだ!」


龍が瞬の盾に触れようとした瞬間だった。

一瞬だけ炎の龍を両断するように何かが通り抜けたかと思うと室内にあるはずのない風が吹き抜ける。

次の瞬間、龍は頭からしっぽまでを綺麗に2つに割られ、その割れた口から淡い光が漏れるとそこから崩れるように消えていった。

全員が何が起こったのか分からなかったが、瞬の手に握られている見覚えのある日本刀を見ると小田切は何が起こったのかをいち早く察した。


 「貴様、まさか・・・!」


 「ええ、そのまさかです。『天狼』、作っちゃいました」


この世に一振りしかないはずの自分の愛刀がニコニコと笑う瞬の手にも握られる。

刀には『旅人』の力で強めに振るったためか、はたまた『炎龍』を切ったためか、刃に小さいヒビが入っていた。

更に瞬は『天狼』を何本も作り出すと茫然と立っている小田切から少し外すよう狙いをつけて力一杯投げつける。

それを事前に察知していた小田切は炎の球を作り出し、その全てを防御へと回す。

だが投げつけられた『天狼』はその全てをバターでも切るかのように軽々と切り飛ばし、小田切の周りに張られていた電撃のバリアをも貫くと壁へと突き刺さる。

その場から逃げようとした小田切だったが次から次へと壁へ『天狼』が突き刺さっていき、飛んでくる刀に次第に逃げ場をなくしナイフ投げの的にでもされているかのように追い詰められる。

その様子にどうにもできない隊員達を余所に、瞬は室内を低く飛ぶようにして小田切の前まで移動する。

『天狼』を構えるとまだかろうじて稼働している電撃のバリアを切り裂き、小田切の腰についていた装置を上半身の力のみで貫く。

すると今まで小田切を覆っていたバリヤはバチバチと音を立てながら消えていき、瞬は『天狼』を消すと再び麻酔銃を作り出し、小田切の眉間につきつける。


 「終わりです」


超人的な身体能力、絶対無敵の『イージスの盾』を持ち、魔法の無効化を行う手段まで持ってしまった『旅人』に最早勝てる手段がない事を察した小田切。

茫然とした様子でその場に膝をつくと、それを見て終わった事を察した隊員達もその場に銃とサーベルを落としていく。

小田切にさっきまでの自信に充ち溢れた傲慢な姿はまるで見られず、今は茫然自失といった感じで焦点の合っていない目で床を見ながらつぶやき出す。


 「お、終わりだ・・・。終わり・・・」


 「・・・『W2』の本部はどこですか?」


 「!?・・・っ・・・っく、くはははは!貴様が本部に何の用だ!」


 「約束がありましてね。『W2』を壊滅させないといけないんです」


簡単にとんでもない事を言うのに対し、小田切は嘘のような発言に驚きのあまり言葉を失い、ただ信じられないといった様子で瞬を見ていた。


 「お、お前が『W2』を潰す?それは何の」


 「冗談じゃないですよ、本気です」


本気と言う割には軽く言うものだと小田切は嘘だと思っていた。

だが、瞬の目を見ると瞳の奥に強い意志を秘めているのが分かり、間違いなく本当の事を言っているのだと思い知らされる。


 「・・・貴様には無理だ。人も殺せないような甘い奴にはな」


 「人を殺さなくても組織を潰すやり方はあるはずです。なら、やってみないと分からないでしょう?」


 「そうか、それなら行ってみるがいい。ただ、私もその場所は知らない。知っているのはアジア中の『W2』を統括する男だ」


 「その人は何処に?」


 「ロシアのどこかにいる。私のようにそれなりの社会的地位についている男だ。そこから先は自分で探すんだな」


そう言うと小田切は腰につけていたホルスターからM92FSハンドガンを引き抜くと警戒して離れた瞬を余所に、自分のこめかみに銃を突き付ける。

訳が分からないといった様子で小田切を見ている瞬。

だが、小田切はそのうろたえる様子を見ると冷や汗をかきながらもニヤッと笑う。


 「これはお前のせいだ。これから先はお前の行動一つで必ず死が付きまとう。子供のように甘いお前が何処まで出来るか地獄から見ていよう!」


 「や、やめっ・・・!」


止めに入ろうとした瞬だったが、それよりも早く乾いた音が室内に響き渡る。

そして、小田切の体が衝撃でグラリと揺れたかと思うとそのまま床へと頭から血を吹き出して倒れる。

絶命した小田切の体はまるで動くことなく、事切れた瞳は何も映しはしない。

瞬は悪人だったとはいえ止められなかったのを悔みながら小田切の体の隣に立ち、見開いたままの目だった小田切の目を閉じる。


 「そんな・・・、なんで、なんで死ななければいけないんだ・・・」


呟きに答える者は誰もいなかった。

代りに大音量で鳴り響く警告音が基地内に流れる。

内容としては基地の自爆が30分後に行われると言う内容であり、それを聞いた隊員達は総司令の小田切の死を悲しみながらもその場を後にする。


 「姫、僕は約束を守るべきなんだろうか・・・」


瞬は自分のせいで死んだという小田切の死んでいったシーンが頭から離れない。

それと同時に姫との約束のシーンが頭の中で流れ続けて自分はどうしたらいいのかとその場に立ち続けていた。

相談ができる人も話を聞いてくれる人もおらず、ただただ己の中で疑問が繰り返され続け、簡単に答えは出そうにない。

自爆を告げる無機質な警告のカウントだけがずっと聞こえていた。

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