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第12話:旅立ち(4)

 2010/05/02 修正版を更新(いくつか表現を修正、山に名称設定、隊長を副司令官に変更)

 追ってから逃れた瞬は日本支部のあるという『神降山かみおりやま』の麓へとたどり着いた所で足が止まる。

山を囲むように有刺鉄線が見える範囲全体に張り巡らされ、『私有地につき立ち入り禁止』の看板がいくつも立てられている。

人が入ってくるのを完全に拒んでいる『神降山』。

最も中に入ってきてほしくないのは山ではなく、『W2』の方なのだろうが。


 「ここらしいけど、入口は・・・見当たらないな。」


辺りを見回してみてもそれらしい人が出入りしているような跡が見当たらない。

とりあえず中に入ろうと有刺鉄線を飛び越えようとした瞬だったが、そこである事に気付いた。

本拠地であるはずなのだがどこにも人気が感じられず、辺り一帯が不気味なほどに静まりかえっている。

いや、人気どころではない。

虫や鳥の声一つ聞こえないのだ。

見た目は至って普通の山だが、足を踏み入れたくなくなるようなそんな雰囲気が漂っていた。

だが、だからと言って瞬は行かないわけにはいかない。

ホラー映画の呪われた館に自ら入っていくような主人公の心境で瞬は中へと跳び込んだ。

すると有刺鉄線を越えた所で何かの層を破ったようなどことなく空気が変わった感覚があり、瞬は不思議に思って体を見てみるが特に変化らしいものはまるで見受けられない。

ただ、肌に触れる空気がイメージで変わる『旅人』の服を着ているのと近い感覚があり、どことなく気持ちがいいようだ。

山の外と内とで空気が明らかに違うのだけは瞬にも分かっていたが、瞬に分かるのはそこまでだった。

彼がいる『神降山』に満ちている空気、それは魔力の元を通常の空気よりも多量に含んでいる空気である。

魔法を使える者は空気中にある魔力の元を体内に取り込み時間をかける事で魔法を使うための魔力を生成している。

その生成された魔力の許容量は一人一人違っているため、自分の魔法を1日1回ペースでしか使えない者もいれば、1日に100回ペースで使える者もいる。

ただ、魔法で使われる魔力にも差はあるため厳密にいえば魔力の許容量だけでは比べる事は出来ない。

ちなみに、瞬が何気なく使っている『リアルメモリー』や『イージスの盾』は1回使うだけでも魔法を使える者を10人集めて1秒持続できるかどうかといったレベルであるが、『旅人』になる事によりその魔力は生み出し元である地球からの魔力供給を受け続けているためほぼ無尽蔵となっている。

姫がいればこういった説明もできたであろうが、今の瞬はそういった知識は皆無に近い状態であった。

話を元に戻そう。

魔力の元の密度が高いということは、魔法を使う者にとって非常に快適な場所である、ということだ。

そこにいるだけで個人個人の魔力回復は早まり、より早く魔法を使う事が出来る。

魔法使いの組織としてはこれ以上ないほど拠点を構えるにはうってつけの場所だ。

そんなことなどつゆ知らず、瞬は空気を気にせずに素早く山を登っていく。

跳ぶように山頂にまで到達すると周りを見下ろしていると、ふと不自然に感じる場所を見つけ、すかさずその場所へと飛ぶ。

瞬が降り立った所は目の前に切り出した岩場が広がり、地面の土には車やバイクの通った跡に人が歩いた跡まで見られる。

その跡は片方は下へと降りていく下りの道へと続き、道はずっと下まで続いている。

もう片方の跡はというと、不思議な事に巨大な石壁に向かって一直線に向かった後で消えている。

まるでまだ道が続いているかのように。


 「・・・秘密基地?」


なんとなく察した瞬は昔見た特撮ヒーローものの悪役達がこういった場所にばかり基地を作っていたのを思い出す。

そう思うと敵は世界平和を謳う集団であり、ヒーローは自分という事になる。

そんな柄ではないな、と吹き出すように軽く笑うと手の中にRPG7(ロケットランチャー)を生成する。

映画で見たように腰を落としてスコープを覗きながら跡の消えていく石壁を捉えると引き金を引く。

白煙を噴きながら飛んでいったロケット弾は石壁に激突すると爆発し、周囲の石壁を吹き飛ばす。

爆発の黒煙が晴れていくとそこには金属製の巨大な扉が現れ、ロケット弾の直撃でも少し表面がへこんだ程度であった。


 「堅いなぁ・・・。それなら」


瞬は扉の前に立つと手では抱えきれないほどのC-4(プラスチック爆弾)を作り出す。

粘土のように変形させ、粘土細工を楽しむように鼻歌交じりでペタペタと扉の表面につける。

つけ終わったところで屋上で姫に説明されていたのを思い出しながら小型の起爆装置を作り出す。

そして、装置をC-4に適当に取り付けた所で後ろに跳ぶと耳をふさぎながら遠隔装置のスイッチを入れた。

途端に爆音の大音量が辺りに響き渡り、木に止まっていたカラス達は一斉にその場から逃げるように飛び上がる。

扉は爆発により中に3、4回転しながら吹き飛ばされ、離れた所からでは見えないほど基地の奥にまで飛んでいった。

てっきり、扉が壊れて人一人分の入口くらい出来る位だと思っていた瞬だったが、予想外の結果に冷や汗をかく。


 「・・・りょ、量を間違えたかな?は、はは・・・」


今度からは気をつけるし開いたからいいよね、と勝手に決め付けると盾を展開させながらまだ黒煙の上がる敵陣の入口へと立った。

中からはけたたましい程のサイレンが鳴り響き、何かの金属で作られた通路に反響しながら瞬の耳へも届く。

エマージェンシーだの『旅人』が基地に入っただのと機械音声によるアナウンスがずっと流れている。

瞬は中へ足を踏み入れると赤いランプが点灯し続ける長い通路を真っ直ぐに走り出す。

すると突然、盾によって弾き飛ばされる無数の何かが奥から聞こえる轟音と共に次々と瞬に襲いかかる。

驚いた瞬は走るのを止めてその場に立ち止まり、突然の攻撃に多少慌てながら薄暗い通路の先を凝視する。

通路の突き当たりにエレベーターらしきものがあり、その前に狙撃銃や重機関銃を構えた隊員達が陣取っていた。

それを見た瞬は銃弾が絶え間なく飛び交う中を走り出す。

手の中に麻酔銃を生成し、超人的な力を駆使してまるで狙撃銃で寝ながら狙っているかのように走りながらもピタリと照準を合わせる。

そして、ギリギリ届くであろう距離に達するとすかさず撃ち、麻酔針が重機関銃を撃っていた隊員へと突き刺さる。

刺さった隊員はすぐに眠りの世界へと誘われ、次の瞬間には体が崩れ落ちる。

その調子で瞬は次々と陣取っていた隊員達を夢の世界へと案内していく。

瞬がエレベーターにたどり着いた時には抵抗できる隊員は一人もおらず、全員が寝息を立てて寝ていた。


 「失礼しまーす」


そう簡単に起きる訳はないのだが瞬は起こさないようにソロソロと歩き、ちょうどこの階で止まっていたエレベーターに乗り込む。

エレベーターの中にはボタンが1つだけしかなく、瞬がそのボタンを押すと扉が閉まり下へと降り始める。

一定距離を降りるのに連動して扉の上のランプが緩やかに動くように点灯していく。

だが、途中で上から小さい爆発音がしたかと思うとエレベーターが揺れる。

そして慌てる瞬を余所に自由落下を始め、ランプの点灯する速さは徐々に増していく。


 「お、落ちてるぅ!?」


ランプ表示は行くべきはずの階層を通り過ぎ、最早表示すらされなくなった直後に下の地面へと激突する。

その直後、エレベーターが停止するはずだった階のドアが開かれ、顔を出した隊員達はシャフト内を覗き込む。

粉塵の舞うシャフト内部の下ではエレベーターがグシャグシャに潰れ、電気系統が壊れたのか火花も散っていたが中に乗っていた瞬の様子は外からでは分からない。

それだけ確認した隊員達は時限式のC4を放り込み、すぐさま顔を引っ込めてドアを閉める。

すぐさま足元が揺れ、巨大な爆音がドアの向こうから隊員達の耳にまで届く。

振動が治まり、ドアの隙間から黒煙が上がると隊員達はドアを開いてまた中を覗きこんだ。

爆発によってエレベーターは完全に破壊されているようだが、立ちこめる黒煙のせいで『旅人』がどうなったかを確認できない。

薄暗いシャフト内部をライトで照らしながら捜索していると一人の隊員がライトを下に落とす。

一体何をやっているのかと他の隊員が捜索しながらその隊員を目の端で見据える。

するとその隊員はどういう訳かその場に横たわり、呼びかけてみても反応が無い。

不思議に思って横たわる隊員を手で揺らしてみるとそれにつられて頭が動き、顔が見えた途端、その場にいた隊員達に緊張が走った。

倒れた隊員の頭には1本の針が刺さっていたのだ。


 「攻撃を受けた!まだ生きてるぞ!殺せ!」


顔をこわばらせながら隊員達は次々と銃を取り出し、少しでも動いた物があったなら即座に引き金を引く。

だが、まるで当たっているのか反応が無く、次第に黒煙が晴れていく。

途端に下から次々と針が飛び出し、針の刺さった隊員達は意識がまどろんでいくと銃から手を放してその場に横たわる。

それでも攻撃の手を緩めない隊員達だったが、黒煙の合間から何かが飛び出してドアへと入る。

それに突き飛ばされる隊員が尻もちをつきながらその何かへと視線を向けると、そこにいたのは爆発にも傷一つない『旅人』だった。


 「う、うおおおぉぉ!?」


驚きながらも訓練された動きで銃を構えた隊員達は瞬へとその銃口を向けて撃つが、弾はあらかじめそう飛ぶのが決まっていたかのように次々とあらぬ方向へと飛んでいく。

瞬は銃で撃たれている状況下ではあるが落ち着いて麻酔銃を撃つ。

次々と倒れていく隊員達。

最後に残った一人はその理不尽なまでの強さに青ざめた顔で銃を撃ち続けるがその抵抗空しく頭に針が刺さり、意識は遠のいていく。


 「ふぅ」


一息ついた瞬はまだ終わっていないと気を引き締めし直し、廊下の奥へと進む。

急に何も無いでかい空間へと出ると瞬を何人もの隊員が包囲し、その前に一人だけ剣を携えた雰囲気のある男が立っていた。

瞬が何も考えずに歩くと後ろの入口が閉じられ、同時に奥にあった扉まで閉まる。


 「待っていたぞ、『旅人』!」


 「はぁ、どうも」


気の抜けた返事に瞬を除く全員が軽くこけそうになる。


 「ぬぅ・・・、私はこの基地の司令官を任されている、し(パシュッ!)あぐっ!」


名乗ろうとしている途中で司令官の頭には麻酔針が刺さり、司令官は信じられないといった顔でその場に崩れ落ちる。


 「司令官!?しっかりしてください!」


 「き、貴様!名乗っている最中に撃つとは卑怯な!」


 「え!そ、そうなんですか!?まさか、特撮ヒーローのあの常識が通じるとは・・・」


瞬の言っている常識。

それは変身中は襲ってはいけない、名乗っている最中も襲ってはいけないという正にお約束、というよりは暗黙の了解のようなものである。

てっきり現実の戦闘にはそんな事などありはしないと思っていた瞬は司令官と知り、先手必勝とばかりに先に撃った。

・・・のだが隊員達から物凄いブーイングを受けて考えを改める。


 「ごめんなさい、それは知りませんでした」


 「誤って済むか!司令官は完璧に寝ちまってるじゃねぇか!くそ、作戦の段取りが・・・、もういい、めんどうだ。お前ら出てこい」


寝ている司令官を奥へと運ばせた少し上の立場らしい男が代わりに前へと立ち、手を振って合図を出す。

隊員達が間を開けるとその間から瞬の見知った顔が現れ、瞬は茫然とその場に立ち尽くす。


 「瞬・・・お前、なにやってるんだよ、『旅人』ってなんだよ!」


 「そうよ、瞬。お願いだからもう・・・もう止めて」


 「え・・・、賢悟?花梨も?なんでここに」


別れてから1日と立ってはいないが瞬にしてみれば、10年近く時がたってからの再開のような懐かしい感覚が頭の中にあふれ出る。

少し感動すらしている瞬だが、それとは対照的に賢悟は怒りの顔で、花梨は逆に泣きそうな顔で瞬を見ている。


 「お前、なんで殺人なんてしたんだよ!」


 「そ、そんな!僕は殺人なんてしていない!」


 「嘘よ!この人達から瞬が殺してる映像を見せてもらったんだから!」


 「そ、そんな馬鹿な。僕は殺していない!」


上部に取り付けられたモニターに瞬が次々に人を撃っていき、血の海になった中に立ったまま狂ったように笑う瞬の映像が流される。

勿論、瞬はそんな事をしてはいない。

だが、その映像を信じた親友たちの叱咤に目まいを覚え足がよろめき、その場に足をついて頭を押さえる。

呼吸も段々と荒くなっていくが、それでも親友たちの追及は終わらない。


 「警察からも指名手配されているし、早く自首しろ!」


 「そうよ、早く自首して!」


 「そんな・・・。僕は・・・、僕は・・・何も」


 「罪を償え!」


 「や・・・て・・・ない」


 「この人殺し!」


最早、何を言っても2人の親友に理解してもらえないと知った瞬は、まるで世界が逆転したかのようにその場に倒れる。

心の中で信じていた二人との思い出がまるでガラスのようにヒビが入り、今にも崩れ落ちようとしている。

あとひと押しで瞬の気持ちは完全に崩壊しようとしていた。


 「でもどうせ死刑なんだから、せめて俺達が殺してやるよ」


 「そうよね、私達が殺した方が償いになるわよね」


そう言いながら倒れた瞬に歩み寄りながら手にはM92FSハンドガンが握られ、二人してスライドを引いて弾丸を装填する。

盾も正常に機能していないのか銃が涙を流す瞬の頭へと簡単に突き付けられる。


 「痛いのは一瞬だからな。死ね、瞬!」


 「バイバイ、瞬」


今、正に引き金が引かれようとした瞬間、銃のスライドが突然現れた手によってガッチリと掴まれる。

2人は手を振りほどこうとするがまるで動かず、人間では持ちえない力によって銃は握りつぶされる。

舌打ちをしながら魔力の封じ込められたアーミーナイフを腰から抜いた2人は、抜いた勢いそのままに瞬に突きたてようと振り下ろす。

だが、今度は振り下ろす腕を掴まれると尋常ではない握力にナイフは2人の意思を無視して手から離れると地面に突き刺さる。


 「は、放せ・・・!」


 「は、放してよ・・・。い、痛いよ」


 「・・・違う」


横になっていた瞬は体を起こし、二人の腕を掴んだまま立ち上がる。

その顔からは涙は消え、いつものように優しそうでありながら意思の強そうな目に光が戻っていた。

ただ、今は少しだけ怒りが溜まっているらしく、どことなく引きつっているように見える。


 「違う!貴方達は賢悟でも花梨でもない!あいつらなら笑いながら僕を殺そうなんてするはずがない!貴方達は誰ですか?」


 「っち!撃て!」


隊員達が一斉に銃を構えると瞬は2人を突き飛ばし、即座に盾を展開させる。

間一髪で一斉射撃で放たれた弾丸は盾により全てが弾かれる。

瞬は両手に生成した麻酔銃を次々に撃ちこんでいき、隊員達はなすすべなく眠りへと落ちていく。

その場に残ったのは賢悟と花梨の偽物、それと司令官のそばに控えていた男だけが残った。


 「ここまでか。おい、変身は解いていいぞ。」


 「分かりました、副司令官。」

 

偽物は姿を変える魔法が使えるらしく命令にしたがって魔法を解く。

すると服はそのままだが2人には似つかない筋肉質な男と女へと変貌していく。


 「本当の2人はどうしたんですか?」


 「いるさ・・・、あそこにな!」


モニターが切り替わると部屋の中でウロウロと歩きまわる賢悟と、青ざめた顔で椅子に座ったままの花梨が映し出された。

途端に副司令官は得意げな顔をしながらスイッチのような物を取り出し、親指を手にかける。


 「賢悟!花梨!2人はどこですか!」


 「本当はここまでしたくはなかったが、お前がスンナリ殺されないのが悪いんだ。何を言いたいかはわかるよな。ん?」


両脇に控えていた変身を解いた隊員2人が寝ている隊員達の銃を拾い上げると瞬に向かって構え、ジリジリとにじり寄ってくる。


 「ほら、さっさと盾を解いて銃を捨てろ!2人の命がなくなってもいいのか!?」


 「・・・盾を解いて銃を捨てれば2人は解放するんですか?」


 「約束しようじゃないか」


副司令官は笑みを浮かべながら言うものの、その目は笑っておらず誰の目にも間違いなく嘘を言っているようにしか見えない。

魔法研究の実験材料にでも本気でされかねないと考える瞬。

だが、現状を打破するようなうまい手段も思いつかず、ここで諦めるしかないのかと麻酔銃を構えた腕を下におろすと2人の隊員はすぐに距離を詰める。


 (姫、貴方ならこんな時どうしていたんですか?)


ふとそう考えた時、姫が病室内を消えたように高速で移動して瞬がびっくりして腰をついたのを思い出す。

一瞬の隙さえあれば、あの高速移動を使って一気に形勢を逆転する事も可能だろう。


 (ぶっつけ本番だけど、やってみるしかない。)


覚悟を決めると近くにまで迫っていた隊員達が近づき、手で触れて盾がまだ展開しているのを確認すると副司令官は苛立ったように命令する。


 「さっさと盾を解け!親友を殺すぞ!」


 「あぁ、分かりました・・・よ!」


瞬は盾を解くと同時に麻酔銃を副司令官の上を飛び越すように投げる。

全員の視線が一瞬だけ後ろに落ちた麻酔銃へと移った、その瞬間、瞬はあらん限りの力で地面を蹴りつけるとまるでロケットのように飛び出す。

姫の存在を消すかのような静かな移動方法とは全く異なる別の移動ではある。

だが、近くにいた隊員達は突如発生した竜巻のような風圧に軽くふき飛ばされ、瞬はその勢いのままに副司令官の前まで飛ぶと足でブレーキをかける。

副司令官との距離を一瞬で0にした瞬に振り向いた副司令官が反射的にボタンを押しにかかる。

親指がボタンへと触れる寸前、瞬は万力のような力を持って副司令官の左手を握り、副司令官のボタンを押そうとする親指が強制的に止められる。


 「ぐぉ!?」


痛みに顔をゆがめる副司令官。

瞬はそのまま掴んだ腕を捻り上げ、痛みに耐えきれなくなった副司令官はスイッチを手から落とすと瞬は優しくそれを受け取ると握りつぶす。

2人が無事らしいのをモニターで確認すると瞬は力が抜けたように一息つく。

視線を下へと落とした瞬間、瞬は副司令官が殺気の籠った目で睨んでいるのに気づいた。


 「貴様、何時の間に!っく!いてて!お前らアレだ、アレをやれ!」


 「「はっ!」」


吹き飛ばされた状態から素早く態勢を立て直した2人は銃を投げ捨てるとその場に膝をつく。

いまだ瞬には出来ない細かな体内の魔力制御のため、2人とも目を閉じて自分の肉体に留まっている魔力を捉える。

その魔力の全てを望んだ姿に変身できる魔法、その実体として体中を薄く覆っているオーラ状の物へと呪文を詠唱しながら注ぎこむ。

途端に2人の体を覆うオーラが黒く堅い皮膚のような実体を持ち、体を一回り大きくすると腕を床につけて獣のように四つん這いになる。

オーラは徐々に巨大化していき、元の大きさから二回りほど体を大きくすると表面には皮膚と同じ黒いなめらかな毛を生やし、腕や足の部分が発達した筋肉のような物で固められ、顔の部分は耳が上に突き出し、更に口は顎ごと前へと突きだして口からはみ出るほど巨大な牙が2本生える。

全ての変身が完了するとそこにいたのは獣そのものであり、見た目はまるで黒豹のようだが絶滅したサーベルタイガーのような巨大な牙が口から飛び出し、更に牙は魔力をため込んでいるらしく薄く紫色に光っている。

しばらく変化を見ていた瞬だったが人間が獣に変わる様子に呆然とし、その隙に力の緩んだところから副司令官は腕を振り切る。

副司令官は走って逃げだし、それを追いかけようとした瞬の間に2人、いや2匹の獣が割って入る。


 「俺は詠唱に入る。お前らは時間を稼げ」


2匹の獣に副司令官は小声で話しかけると獣たちは分かったと頷き、瞬へと向き直ると敵意をあらわにする。


 「「グルルルルッ!グォォォッ!」」


2匹の獣はシンクロしながら瞬に威嚇するように咆哮を上げると、姿勢を低く保ち、いつでも飛びかかれる態勢になる。

その間に副司令官は魔法の呪文詠唱を始め、それを合図に2匹の獣が瞬へと襲いかかった。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

色々と好き勝手に書いた自己満足な小説ですが、何かご意見等ございましたら是非書きこんでいただけると助かります。

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