敗北
タイトルで察して……
シャクストの拳を受け止めるフィオンは悔しそうに告げる。
事実上の敗北宣言だ。
ここまでシャクストを追い詰めて撤退するのは苦渋の決断だろうが、調査班のメンバー全員全力戦闘出来る状態ではない。
「動けるか?」
「きついが、死ぬ気で動かすよ。それよりも逃げれるのか?」
「シャクストも身体自体はボロボロのはずだ。ある程度距離さえ稼げればどうにかなる」
確かにシャクストも本気で動いていられる余裕はもう殆どないだろう。
だがそのある程度が稼げるかはまた微妙なところだ。
「合図で後ろに全力で飛べ。アロマはモメントジャンプでトアン達と合流しろ」
「分かった、先に行くね」
アロマは指示通りトアン達の元へ向かって行った。
「それじゃあ行くぞ。三・・・・・・二・・・・・・一・・・・・・今だ!」
フィオンの合図と共に身体のバネを全力で使って真後ろの飛ぶ。
霧化して逃げることも出来なくもないが、ここまで怪我が大きいと、霧化中に集中力が切れてしまいかねない。
どういうわけか霧化していても元々肉体にあったダメージは消えないのだ。
同タイミングで飛んだフィオンと並び全力で走る。
だが万全とは言えない状態ではやはりそう簡単に逃がしてくれる相手ではなかった。
後ろにいたはずのシャクストだが、いつの間にか俺達の退路に回っており、先に逃げるアロマ達と分断するように地面を抉る。
「他の奴らはどうでもいいが、てめえら2人だけは逃がさねえぞ・・・・・・」
「まだそんな体力が・・・・・・」
先程よりはキレのない動きでシャクストは更に攻め立ててくる。
ボロボロの身体が悲鳴をあげるが、死ぬわけにはいかないので無理やり身体を動かし攻撃を避ける。
今は上手く避けれているが、何かこの状況を打破する手立てがなければ先に倒れてしまうのはこちらだろう。
そして、長くなかった限界が訪れる。
「フィオン!!」
戦闘の影響で悪くなった地面にフィオンが足を取られ転倒する。
普段ならこんなミスはしないのだが、極度の緊張感とボロボロの身体も相まって起こったミスだった。
手足のような動きをするマフラーがあるおかげで体勢を立て直すの事態は早いが、それよりも早くシャクストの拳がフィオンに届くだろう。
カバーは間に合わない。これが俺ではなくアロマであればどうにかなっただろうが、今更それを言ってもどうすることも出来ない。
「安心しろフィオン、殺しはしねえよ。この後てめえの相棒は死ぬがな!」
初撃は体勢を立て直すのではなく、ガードに切り替えなんとかやり過ごすことが出来た。
だが一瞬で回り込まれ別方向からの追撃。体勢が崩れ、視線が通常とはかなり異なる状況でフィオンはシャクストを見失った。
完全なる死角からの一撃。意識は完全に奪われる形になる。
「――――――させません!!!」
拳が当たる直前凛とした声が響き渡った。
それと同時にシャクストは地面に倒れる形となる。
「てめぇぇぇぇぇ!! キャロルーーー!!!」
美しい緑の長髪を靡かせ、シャクストに向け手を翳すキャロルがそこに立っていた。
「キャロル・・・・・・良かった、意識が戻ったんだな」
「フリとはいえ敵対してごめんなさい」
「気にするな。信じてたぞキャロル」
フィオンに顔を向け微笑みかけるキャロル。それを見て安心したのかフィオンも小さく笑った。
「ここは任せてあなた達は逃げて・・・・・・こうして近くにいれば抑えていられるけど、私の異能はあまり長い距離では使えないから」
「そ、それはダメだ! キャロル、お前も一緒に来い!」
「あまり我儘を言ってはダメよフィオン。ここで誰かが抑えないとどうしたって逃げることは出来ないわ」
「だからって!」
「大丈夫、また会えるから。必ずまた生きてあって、必ず会いに行く・・・・・・今まで私があなたに嘘をついたことがある?」
「・・・・・・約束だ」
「ええ」
「必ずまた私の前に来い! 約束を破ったら、分かってるな?」
「勿論よ。だから、フィオンも頑張って!」
「ああ」
瞳に涙を貯めながらフィオンは頷く。
「ラクリィさん、フィオンをお願いします。フィオンは強い子ですけど、同じくらい弱さも持ってますから」
「任された」
キャロルが俺に託した者はとてつもなく大きなものだと感じる。
しかし、ミストライフに入った時から俺はフィオンと共に歩むと決めている。
その道は支えられながら歩くものではなく、互いに支えながら歩いて行く道だ。
キャロルの想いを胸に俺達は立ち上がって走り出す。
俺達がすべきことはキャロルの心配ではない。キャロルを信じ、、いつか来る再会の時まで歩き続けることだ。
「待てぇ!!! 逃がさねえぞ!!!」
「行かせませんよ父上・・・・・・いえ、シャクスト」
地面に張り付けられたシャクストは無理やり身体を動かそうとするが、キャロルが更なる圧力を加えて完全に封じ込める。
「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
遠ざかるシャクストの雄たけびを聞きながら、俺とフィオンはこの敗北を噛み締めた。
VRくん「キャロル……」
VRちゃん「ここまで出てこなかったのは意識が戻っていなかったからだったのね」
VRくん「仲間になってくれてたら頼もしい仲間になってただろうな」
VRちゃん「でもまた会えるみたいなこと言ってたし、きっと大丈夫よ!」
VRくん「やっぱり信じるしかないのか……」
VRちゃん「そうしましょ。 さて次回! 『反省』 お楽しみに~」