VSシャクスト3
皆が無事で一安心する。
だが気を抜くのはまだ早い、シャクストは膝をついてはいるが、その闘志は相変わらず漲っている。
「いやぁ、見事だミストライフ。糞息子はともかくマクワヤードまでやられるとは本気で思ってなかった」
糞息子とはヤカサスのことだろう。
アロマとイルミアに見たところ外傷はない。流石というべきか予想よりも正面からの戦いには弱かったのか。
シャクストはあまり期待していなかったようだ。
「こりゃ、俺様も気張らねえとあぶねえかもな。滾ってきやがる!」
そう言ったシャクストの存在感が急激に上昇した。
これまでは強敵と向かい合っている感覚だったが、今はそんなレベルではない。
全身が重たいような錯覚に襲われ、気を緩めればその場で跪いてしまいそうだ。
「今までは三倍まで身体能力を上げていた。気張れよ? ここからは五倍だ!」
シャクストの放った言葉に戦慄する。
それこそ今まで五倍くらいまで身体能力を上げたシャクストと戦っていたと思っていた。
驚くべきは基礎となっている身体能力だろう。素で軍でも強いと言われている者達を相手に出来るのではないだろうか。
「いくぞ・・・・・・」
シャクストが前傾姿勢で構えたと思った次の瞬間、消えた。
「くそっ」
フィオンの苦しい声が聞こえ、それと共に何かが爆発したような音がした。
目を向けるとアロマの前で大きくのけ反るフィオンの姿があった。
恐らくガードしたのだろうが、先程までは何事もなくガード出来ていたのに、今はその衝撃に耐えきれていない。
「よく止めたぁ!!!」
「アロマの異能は厄介だからな。初めに潰しておくだろうと思って予測交じりで早めに動いたんだよ」
「流石だフィオン!! 他の連中はどうした? 呆けてると死ぬぜ!」
初動の動きにフィオン以外ついてこれた者は誰もいなかった。
嫌な汗が出る。万が一フィオンが動けていなければ今の一瞬でアロマは死んでいたのだ。
明確な死の予感に身体が、意識が消えてしまったのではないかというくらいに集中力を帯びる。
他のメンバーも同じだ。少しの緩みも邪念も一切捨て、一本の剣のように真っ直ぐ戦闘という一点に全てを捧げる。
再び消えたようにシャクストの姿が消える。
俺の霧化のように本当に消えている訳ではない、早すぎて消えたように見えるだけだ。
微かに走る音が聞こえているのが証拠だろう。
まずはこの機動力を削がなければいけないが、正確な場所を捉えることが出来ない。
足音が聞こえた次の瞬間には、全く別の場所でまた足音が聞こえる。
状況を打開すべく初めに動いたのはミシェだった。
緩やかに風が流れ出す。この風が乱れた場所の先にシャクストがいる。
トアンがリズムを刻むようにステップを踏み、斬りこんだ。
完璧なタイミングで斬りこんだトアンの前でシャクストの速度が緩む。剣に突っ込む結果になる為速度で翻弄するのを辞めて肉弾戦に切り替えたのだ。
トアンの激しい剣を躱し、返しで拳を放つ。
紙一重でトアンが回避するとその拳は地面にぶつかり大きな亀裂が出来る。
「フラッシュ!」
地面を砕いたシャクストの眼下にアロマがモメントジャンプで瞬間移動し近距離で激しい閃光を放つと、上がった視力には流石に聞いたのか、のけ反り小さくうめき声をあげた。
大きな隙にアロマに合わせて走りだしていたイルミアが接近する。
聴覚を頼ってかイルミアの接近を察してシャクストは再度拳を振り下ろすが、軽やかに動くイルミアは何とか指先をシャクストの服に触れることに成功した。
イルミアのウェイトチェンジにより服が重くなったことで、シャクストは地面に倒れるまではいかなくとも、その場で動けなくなった。
「決めるぞラクリィ!」
「分かってる!」
俺とフィオンは同時に走り出し、止めを刺すべくシャクストの首筋に躊躇いなく剣を放つ。
完全な急所への攻撃だ、これだけ血を流しても倒れないシャクストでも確実に死ぬ。
「なめんな!!」
首に二本の剣が当たる瞬間シャクストは怒号をあげ、迫る剣を指で白刃取りをするように挟んで掴んだ。
こちらは全ての力を込めているというのにまるでビクともしなかった。
だがこれで終わりじゃない。フィオンにもう一本の剣とマフラーが。俺には剣を霧化させるという手段が残っていた。
すぐさま実行し、今度こそはと思ったがウェイトチェンジの影響で動けなくなっていたはずのシャクストが、何も感じさせない滑らかさで動き俺とフィオンの攻撃を全て掻い潜った。
「あげれる倍率が五倍が限界だと言った覚えはないぞ!」
「まさかまだ上昇するのか!? だが身体がもたないはずだ!」
「そうさその通りだ! 身体になんの影響も出さない限界が五倍。それを度外視すれば七倍まではいけるのさ!」
動けるようになったシャクストは即座に上着を脱ぎ棄て迫ってくる。
咄嗟に霧化で回避するが、標的をフィオンに切り替えたシャクストにより放たれた拳でガードを貫通してダメージを食らったフィオンが吹っ飛ばされるのが見えた。
さらに恐ろしい速度で俺以外のメンバーに追撃を掛け、それぞれ致命傷は避けたものの吹き飛び叩きつけられ動けなくなってしまった。
アロマのモメントジャンプすらシャクストの速度の前では無力と化していた。
「さーてラクリィ、お前だけになったな!」
視界が戻ったであろう目から血の涙を流し、口からも血を吐きながらもシャクストは邪悪に笑って、実体化した俺に視線を向けた。
絶望的な状況。まともに動けるのは俺だけだった。
VRくん「毎回強い強い言ってる気がするど俺は言う。シャクスト強すぎだろ!?」
VRちゃん「まだ3割くらいしかキャラ登場してないのにこれは少しやばいわね……」
VRくん「こんなレベルのがこれからもどんどん出てくるとか世紀末すぎんだろこの世界!」
VRちゃん「まあそれはとりあえずこの辺で置いておいて。ミストライフのメンバー皆やられちゃったけど大丈夫かしら?」
VRくん「大丈夫! きっと何とかなるって! それにラクリィはまだ立ってる!」
VRちゃん「そうね……主人公を信じましょ! さて次回! 『VSシャクスト4』 一応このタイトルの綴りは次で終わるみたい。 それではお楽しみに~」