VSシャクスト2
続き!
どうにか一撃を上手く入れることができ、フィオンの拘束も解けたが、シャクストは楽し気にしているだけで焦ったような様子などは一切見せない。
それでも今このタイミングは有利なことには変わりないので、このままの勢いで攻め立てる。
腕に浅くない傷が出来たはずのシャクストだが、一度立て直すなどという行動は取らず、むしろ構えて戦う気満々だった。
正面から斬りこみお互いの攻撃が交差する瞬間に霧化。即座に背後か側面に回り実体化して攻撃を加える。
打ち合いを避け回避するようならばさらにタイミングをずらす。
腕に与えたような深い一撃は入れられていないが、シャクストの身体には着実に傷が出来ていた。
ここまで変幻自在に攻撃を繰り出されているのにも関わらずシャクストがある程度対応出来ているのは一重に剣と己の肉体全てを使うのでは、手数が圧倒的に違うからだ。
単純計算手足四つを高い技量で使えるのなら、剣速がどれだけ早くともそれこそ何倍も変わってくる。
剣と肉体の打ち合いであれば流石に宝剣クラスの切れ味を持つ俺の剣とは分が悪い。
しかしシャクストの強化された動体視力があれば、正確に剣の腹を捉えることが出来た。
「もっと! もっとだ!!」
俺は一撃も貰ってはいないが、状況は五分といっていい。
シャクストは傷が出来ると、動きが鈍るどころかさらに激しさと速度が上がっていく。
そして遂に俺の攻めにシャクストが追い付いてきた。
「強かったぜお前は!」
シャクストの正確な読みが俺の実体化を捉えた。
目の前に迫る拳。回避はどうあっても不可能であり、実体化からの霧化もここまで早くは使えない。
食らうことは免れないが、問題は一度食らった時よりも明らかにパワーが上がっていることだった。
歯を食いしばりなるべく正面から食らって意識だけは保てるように構える。
鈍い音が鳴り響き、シャクストの拳は確かに当たった。
しかし俺にではなく、俺の目の前に割り込んできたフィオンにだが。
「フィオン!?」
「すまない待たせたな。出し惜しみはもう無しだ! 全力で勝つぞ!」
正面からシャクストの拳を食らったように見えたフィオンだが、首に巻くマフラーが拳を受け止めるように先端がクロスされていた。
フィオンの両腕には白銀の美しい剣がそれぞれ握られておりマフラーから作っているのは間違いないのだろうが、マフラーの長さは全く変わっているようには見えない。
シャクストの鉄すら容易く砕きそうな拳を平気で受け止めてることといい、本当に不思議なマフラーだ。
「なんだよ、まだそんなもんを隠してやがったのか」
相変わらずシャクストは焦りや驚きを見せない。
「ああ、隠していたよ。長い間な・・・・・・」
その隠し場所がフィオンの元自室だったとは流石に思うまい。
「ここからが本番だ! 遊び感覚だと火傷では済まないぞ!」
フィオンは俺よりも先に突っ込んでいく。
基本的にフィオンとコンビを組む時は俺が前衛なのだが、どういうことなのだろう。
若干困惑しているとフィオンが一瞬視線を向けてくる。
その目には信頼と期待が込められており、フィオンの言わんとすることは何となく理解することが出来た。
俺はフィオンに遅れぬように前に出る。
両前衛、それが今からの方針だ。
ショートレンジで戦う時、仲間は邪魔になりえる場合が多く、相当な連携が要求される。
だが心配はそれほどしていない。フィオンなら必ず合わせてくれると信頼しているから。
先手はフィオン。
マフラーを手足のように使い人間離れしたアクロバティックな動きで接近し、両手の剣とマフラーの先端を剣のような形に変え嵐のような攻撃を繰り返す。
攻撃中も重力を無視しているような動きはさながら踊っているようだった。
反撃をするシャクストの攻撃は、そのほとんどが空を切る。
フィオンを捉えた一撃もフィオンはあり得ない動きをしながらも的確にマフラーで防いでいた。
俺が割り込んで攻撃しても、フィオンは邪魔になるどころか絶妙な位置取りと間入れない攻撃、俺に対する攻撃のガードなど本当に隙が無い。
シャクストから笑みが消える。それに伴って唯でさえあり得ない身体能力がさらに上昇する。
それでも焦らない。フィオンはアクロバティックな動きの中に魔法まで織り交ぜ始めて、更に攻撃が苛烈になる。
氷魔法がフィオンの蒼髪を映し出して色付き、さらに幻想的に見せた。
俺も連携に問題ないとみて霧化も織り交ぜ死角からの攻撃を増やす。
戦闘状況は自分でも驚くくらい圧倒していた。
フィオンのマフラーが剣が魔法が細かい傷を増やしていき、俺の死角からの一撃が無視できないダメージを与える。
身体中から血を流すシャクストが遂に膝をついた。
「らっくん!! フィオン!!」
最終鏡面とも言えるこのタイミングでアロマ達が合流した。
全員ちゃんと来ており、アロマとイルミアに関しては殆ど消耗が見られない。
俺達の元までやってくると、血を流しながら膝をつくシャクストを見て驚いていた。
「全員揃ったな? 最後の一踏ん張りだ! 勝って帰るぞ!」
俺達はフィオンの言葉を合図に一斉に剣を構えた。
VRくん「フィオンえっぐ……つんよ……このまま勝ちでしょ」
VRちゃん「だけどフィオンは後一踏ん張りって言ったわよ? まだシャクストは本気じゃないんじゃないかしら?」
VRくん「マジ? でもここまで圧倒してたし、調査班のメンバーも全員合流したからいけるっしょ!」
VRちゃん「楽観的過ぎじゃない? フィオンが最初からマフラーを使わなかったのも何か理由があったと考えるべきよ」
VRくん「そういえば……なんだか嫌な予感がしてきた」
VRちゃん「まあ次で分かるわよ。 さて次回! 『VSシャクスト3』 お楽しみに~」