VSシャクスト1
ついにシャクストとの本格戦闘がスタート!
戦いはあまり動きが無かった。
俺とフィオンが全力で攻めてもシャクストには傷一つ付けることが出来ていない。
逆もまた同じ。俺もフィオンも攻撃を食らわないということに関しては特出したものがあるので、どうにか一撃も食らうことなく戦えている。
違うとすればこちらは全力を出しているのに対して、シャクストには明らかな余裕が見えた。
身体能力を上げる、正確には倍化させていくことのできるアビリティレイズにより確かに速度もパワーも感覚すらも桁違いに高いと感じているが、勝てないと思う程ではない。まだまだ上がるものだと考えていいだろう。
何故本気を出さないのかは分からないが、こちらを殺す気がないのは伝わってくる。
恐らくはフィオンを仲間に引き入れるのを諦めていないからだろう。
「オラオラどうしたぁ! こんなもんかミストライフ?」
武器を持たないシャクストは自身の身体のみを使って攻撃してくる。
本気を出していないとはいえ、その打撃は凄まじい威力が秘められており一撃ならまだしも数発食らえば動けなくなってしまうかもしれない。
今もギリギリで躱した拳は風を切り、躱したはずの頬にヒリヒリとした痛みを感じる。
即座にカウンターに入るが、人だとは思えないあり得ない速度で回避される。
辺り一帯は戦闘の余波やフィオンの異能により足場が不安定になっているが、気にならないとばかりに追撃で飛ばしたフィオンのアイスブラストを軽快な足取りで躱した。
「どうするフィオン! このままだとジリ貧だぞ!」
ここまで俺は自身の霧化は行わず、フィオンも回収したマフラーを使わずに戦っていた。
あくまで皆が合流するまでは時間稼ぎに徹するということでなるべく手の内を晒さないようにしていたのだが、体力の消耗が著しい。
このままだと先に体力が尽きてしまう可能性もある。
「踏ん張れラクリィ! 勝つにはそれしかないんだ!」
俺の言いたいことを察したフィオンだが、厳しいと分かってはいても奥の手は隠しておきたいようだ。
フィオンが考えるように、ここまで差の開いた格上に勝つにはここぞという時に差し込める一手が必要になってくる。
その役目は恐らく俺になるだろう。
「おい! 集中してないとダメだろう?」
一瞬、本当に刹那の間だがシャクストから意識が逸れた隙に、シャクストは目の前まで迫っていた。
「くっ・・・・・・」
声に反応し恐るべき打撃の嵐に対処するため他全てへの意識を切る。
だが距離が近すぎた。剣を使う間合ではなく、完全に素手の方が強い間合に入られてしまっていたため回避が厳しい。
「がっ!?」
どうにかこうにか持ち前の反射神経で躱していたが、身体能力を上げられるシャクストにとって反射神経が高いというのはあまり意味がない。やがて回避先に寸分の違いもなく飛んできたシャクストの拳が俺の横っ面を捉える。
地面に一度バウンドし回転しながら吹っ飛ぶ。
「ラクリィ!!」
「・・・・・・大丈夫だ! 前を見てろ!」
一瞬意識が飛んだが、フィオンの叫び声ですぐに帰ってくる。
フィオンは仲間を大切にしすぎるあまり仲間が傷つくと戦闘から意識が逸れる傾向にある。
案の定フィオンはこちらのことを気にしていたので強めの口調で強引に意識を戻させる。
だが遅かったようだ。
「そうだぞフィオン! お前が向き合ってる相手を忘れんなよ!」
俺をぶん殴ったシャクストは地面に亀裂が出来る程の力で踏み込みフィオンに弾丸の如く突っ込んでいく。
フィオンは咄嗟に自身の前に土で出来た壁を作りガードしようとした。
この選択肢は悪手だったと言わざる負えないだろう。いつもの冷静なフィオンなら絶対にこんな失敗はしなかったはずだ。
「馬鹿が!!」
シャクストが壁を殴りつけると柔らかいものでも殴ったかのように簡単に砕け散った。
さらにフィオンは自身で作った壁のせいで視界が塞がれており、壁を突き破ってきたシャクストへ対しての反応が遅れた。
シャクストの蹴りがフィオンの腹部に食い込み、フィオンは声にならない声を上げてくの字に身体を折り曲げて転がった。
「勘違いすんなよ?」
シャクストは地面に転がるフィオンの腕を掴んで持ち上げ挑発するように笑う。
「お前を欲しいのは確かだが傷を付けることに躊躇いはねぇ。手加減してんじゃねえぞ? 本気で来いよ、ぬりぃことしてんな! 俺様は王だ!」
フィオンの状況は絶体絶命だった。
助けるにしてもただ突っ込むだけでは厳しい。仕方がない、使うしかないか。
俺は全身を霧化させ姿を消す。
使ったからには一撃でも入れておきたい。死角を狙うだけではダメだ。
背後に回り込み一度実体化する。だがそのまま攻撃はしない。
なるべく殺気を放ち一度地面を踏むと、ほぼ同タイミングでシャクストが振り向き殴りつける。
しかし俺は踏み込みで後ろに跳びギリギリ射程圏内から外れる。
シャクストが拳を振り切った瞬間に再度地面を蹴り、フィオンを掴んでる方の手を斬りつけた。
「そうだ・・・・・・その力だ!! いいぞ! 本気で来い! 俺様は逃げねぇぇぇ!!」
腕からそれなりの量の血が噴き出しているのにも関わらずシャクストは楽しそうに笑った。
「さあ! 第二ラウンドだ!」
シャクストはフィオンを投げ飛ばし高らかに言い放った。
VRくん「マクワヤードがトアンとミシェに言った「第二ラウンド、始めようか?」ってセリフはシャクストに影響されたからみたいだな」
VRちゃん「しっかしシャクストは強いわね。ラクリィとフィオンが一方的に押されているなんて……」
VRくん「だけどラクリィも本気を出したし、他の調査班メンバーも合流すればきっと勝てる!」
VRちゃん「そうね、期待しましょ! さて次回! 『VSシャクスト2』 お楽しみに~」