VSマクワヤード2
トアン&ミシェサイドの戦いはこの話で終わりです。
マクワヤードに斬られる寸前のトアンを見てミシェリアは血の気が引いた気がした。
ガードはどう頑張っても間に合わない。身を捻れる体勢でもないので避けるのもほぼ不可能だろう。
自身も動ける状態には無く、ミシェリアにはどうすることも出来ない。
時間がゆっくりと流れているような錯覚に陥りながら、トアンの身体に吸い込まれていく剣を眺めているしかなかった。
トアンを斜めに斬り裂く軌道の剣は何にも阻まれることなく3人が思い描いた線をなぞる。
「・・・・・・んぁ?」
しかし斬ったマクワヤードが抜けやような声を上げる。
それもそのはず、斬られたトアンからは本来出るはずの血は全く出ておらず、それどころか傷一つ付いていなかった。
「何か仕込んでるね?」
結果として打撃となり軽く吹き飛ばされたトアンの胸元を睨みながらマクワヤードが問いかける。
その視線の先、トアンの服が破れた胸元には何か薄い棒のようなものが見えていた。
「トアン! それ!」
ミシェリアが何かに気が付いたように声を上げた。
攻撃の衝撃で意識を失っていたトアンが意識を取り戻し、腹を抑えながら立ち上がった。
「ああ、そういえば持ってきてたんだったな」
トアンは呟くと服の中に仕込んであったそれを取り出した。
「それは・・・・・・剣かい?」
トアンの手に握られたのは剣にしては細すぎるのではないかという程の物だったが、確かに剣の形状をしていた。
細いというよりは薄いと言った方がどちらかといえば正確かもしれない。
どちらにせよ相手の剣を受ければ簡単に折れてしまいそうだった。
「ふぅ・・・・・・」
「トアン・・・・・・やれるの?」
「ああ、任せてくれ」
「そっか・・・・・・」
トアンの返事を聞いたミシェリアはもう安心しきったように下がった。
やれるのか問うたのは怪我のことなどを気にして聞いたわけではない。トアンが現在握る剣の性質上、その使用が果てしない程難しいからだ。
今回は持ってきていなかったが、ミシェリアも同様に特殊な武器を持っており、常日頃訓練はしているが未だに実戦で使えるというレベルではなかった。
そんな理由で心配だったのだが、今のトアンを見ると問題ないのではないかと無条件に思えた。
身体の力は抜けているが悪い意味ではなく、リラックスしつつ完全に研ぎ澄まされている。
本当に使いこなせるのならば自身が出るまでもないとミシェリアは下がったのだ。
その剣の名は『裂剣』
「ここからは俺1人が相手だ」
「ふむ、その自信は手に持つ剣が与えてるのかな?」
「・・・・・・」
「はぁー、そんなに集中しちゃって・・・・・・少なくともさっきよりも厄介そうだ」
集中しすぎてこれ以上の言葉を発さないトアンを見てマクワヤードは溜息を吐く。
しかし次の瞬間には修羅のような顔になり、作り直した土の大剣を構えて斬りこんだ。
トアンは動かない、剣はもうすぐ目の前に迫っている。回避はもう間に合わない。
「とった!!」
確信を込めてマクワヤードは叫ぶ。
それは間違いではない、トアンが裂剣を構える前であれば。
トアンに大剣が当たる数瞬前、土の大剣は真っ二つに崩れ落ちた。
マクワヤードの顔が驚きに染まる。トアンは剣で斬り払ったような格好になっていたので、斬ったのは間違いがない。
驚いたのは剣が触れた手ごたえが全く感じなかったこと。そして細い刀身である裂剣が土とはいえ鉄並みに硬くなっているマクワヤードの大剣と斬り合って折れていないこと。
驚きの余り一瞬動きが止まる。トアンはそれを見計らったかのように動き出した。
トアンは鋭い突きを放つ。
どういう原理かは分からなかったが、突きであれば斬られずに防げるとマクワヤードは判断して弾くために短剣を構える。
突きの軌道にドンピシャで弾ける位置にマクワヤードは短剣を持ってくる。
だが結果としてマクワヤードは先程食らったのと逆の肩に突きを食らう結果になった。
「なんだ! 剣の軌道が突然・・・・・・」
まるで剣が生きているかのように短剣を避けてきたとマクワヤードの目線には見えていた。
そのからくりは単純だ。裂剣の刀身は限りなく細い為力を寸もたがわずに使わなければ歪むのだ。逆に上手く使えば剣同士が当たる瞬間に刀身を曲げ衝突を防ぐこともできる。
先程大剣を斬ったのは歪まなければ切れ味が宝剣クラスにまで上がるこの武器の最大の利点があったためだ。
つまりは完璧に使いこなせば相手は防ぐことはほぼ不可能であり、避けるのにも相当な見切りが必要なのだ。
マクワヤードはそれを何となく理解し意識に置くが、トアンの元の剣の技量に合わさり全てを避けることは叶わない。
すぐに限界が来てマクワヤードの右腕に裂剣が襲い掛かる。
右腕が宙に舞い血しぶきが上がる。
それでもまだ止まらないのは流石といえたが、ここからは一方的だった。
出血も合わさり動きが鈍くなったマクワヤードトアンの動きについて行けず、次いで左腕も宙に舞った。
「終わりだ・・・・・・ありがとう、あんたのおかげで俺はまた一つ上にあがれた」
トアンは非情に言い捨てマクワヤードの身体を斬り裂いた。
「見事だミストライフ。時代を、作れることをあの世から期待しているよ」
腹が引き裂けながらも最後に放ったマクワヤードの言葉は優しさすら感じられるものだった。
トアンが剣を収め、レホラにおける一つの戦いがここに終結した。
VRくん「信じてたぞトアン!!」
VRちゃん「トアン強かったわねぇ。なんだかんだ1人で勝っちゃったよ……」
VRくん「ミシェも何か特別な武器を持ってるらしいし今後の活躍が楽しみだ!」
VRちゃん「さて次回から別サイドの戦いが始まるよ! 『王子と王女」 お楽しみに~」