五芒星
五芒星。カードゲームで見かけたことのある名前ですなぁ
一早く動いたのはフィオンだった。
首の巻いたマフラーを瞬時に剣に変え、何の迷いもなくシャクストに向け突っ込んでいった。
速い。俺との訓練では手を抜いていたのだろうか? いや違う、殺すことに迷いがなく一直線にシャクストに向かって行っているからだ。
当のシャクストはそんなものでは害されないとでも思っているのか、邪悪に見える余裕の笑みを崩さない。
それもそうだろう、シャクストの余裕は正しいものだ。
余りに高ぶりすぎた殺意のせいでフィオンは周りが見えていない。
止めるべきなのだが、俺では既にシャクストとの接敵には間に合わない。
ならば出来る人間に任せる他ない。
「アロマ!!」
「うん! 任せて!」
俺の言いたいことを察してくれたのかアロマが返事をする。弱気なことは言っててもやはり戦闘になればしっかりと切り替わる。流石だ。
アロマが足に力を込めたのと同時に姿が消える。次には金属がぶつかる音が聞こえた。
フィオンとシャクストの間に割り込むように現れたアロマは、脇の茂みから出てきた男の剣を受け止めた。
「おっと、お仲間は冷静なようだね。いやいや、それでも女の子がしっかり僕の剣を受け止めるとは大したものだねぇ」
「それはどうも。フィオン! 一旦下がって!」
「あ、ああ。すまない」
アロマが剣を弾くのと同時に魔法を放ち、相手が一歩下がったところでフィオンは地面を蹴ってしっかりと距離を取る。
アロマはそれを確認した後自身もモメントジャンプで離脱した。
シャクストの方は追撃もしてこず、依然としてこれといった動きを見せない。
「相変わらずだねアロマ君。いつ見てもお美しい」
「げ、ヤカサス王子・・・・・・」
アロマの剣を受け止めた堅牢な男に続き、ヤカサスも姿を現す。
「全く、そんな露骨に嫌な顔をしてやるな」
「落ち着いたかフィオン?」
「悪い助かった。自分でもここまで冷静さを失うとは」
「それはもういいさ。で、どうする?」
「やるしか、無いだろうな。逃がしてくれるとは思えないし、キャロルを放っておく訳にもいかん。幸いあちらはシャクスト、ヤカサス、マクワヤードの3人だけのようだしな」
「勝てるか?」
「聞くな。勝つしか道はない」
確かに愚問だったかもしれない。
勝てる勝てないではなく勝たなければ終わりなのだ。生死ではない、ミストライフとして。
「相手さんは悠長に待ってくれているようなので、手短に作戦を伝える。アロマ、イルミアはヤカサスを、ミシェとトアンはマクワヤードを頼む。2体1であれば勝てるはずだ」
「なら俺達がシャクストか?」
「ああそうだ。だがラクリィ、シャクストは化け物だ。私達が2人掛かりでも勝てるとは思えない。だからヤカサスとマクワヤードが片付くまではただひたすら足止めをするしかない」
時間稼ぎか、そう上手くいくだろうか? いや、俺の捉え方が悪い。本気で戦うことがイコール足止めに繋がるということだろう。
「話し合いは終わったか?」
「待たせたなシャクスト。ここで決着をつけようか」
「くっ、ははははははは!! ああ、やっぱりお前はいいなぁフィオン! では、改めて名乗ろうか」
「名乗る? さっき聞いたばかりだけど・・・・・・」
「もう忘れたのか?」
「はっは、そう言うなミストライフ。俺様達の思想に賛同する奴が増えてな、どうせだからお前達のように組織を名乗ることにしたんだよ」
「組織?」
「そうさ! 王達とある奴を頂点としたこの世界を握る組織。その名も五芒星だ!」
五芒星。恐らく各頂点の部分を王に見立てているのだろう。
しかし気になることもある。
「ある奴? お前達のような奴らが自身と同列に見る奴がいるというのか?」
「些か不本意ではあるがな。実力主義を謳うなれば認めなきゃならねぇ」
「答えてくれると期待はしてないが聞いておく。そいつは誰だ!」
「期待してねぇなら聞くなよ。だが、お前がこちらに来るなら教えてやる」
「ならいい。お前を完膚なきまでに叩き潰し、屈服させて聞くとしよう」
「いいねぇ・・・・・・やれると思うならやってみろ!! 行け!」
「「はっ!」」
気になることは増えたがこれ以上は悠長にはしていられない。
シャクストの命令によりヤカサスとマクワヤードがこちらに迫ってきていた。
「皆、頼むぞ!」
こちらもフィオンの声と共に動き出す。
ヤカサスよりも先行してきたマクワヤードをミシェとトアンが絶妙なタイミングで攻撃をずらしながらマクワヤードの足を止めた。
続くヤカサスに対しては一瞬で死角に移動できるアロマによって一先ず背後をとる。
上手くいけばこれだけで終わるのだが、王族同士アロマの癖を知っていたのか、予め背後に見えない壁を作っていたようだ。
だが、対する異能者は1人じゃない。
持ち前の素早い動きで接近したイルミアがヤカサスに触れればこれもまた終わる。その為ヤカサスはイルミアの対応をしなければならない。
結果俺とフィオンはリスク無く突破出来シャクストの元へと辿り着けた。
どうせならヤカサスを倒してしまえばとも思われるだろうが、そうなったらシャクストが動く。
そうなるくらいなら最初からシャクストだけと戦う方が何とかなる見込みがある。
「やはりお前が来たかフィオン!」
「シャクスト・・・・・・」
こうして近くで向かい立つと尋常ではない威圧感を感じる。
これがこの世界の頂点。遂に向かい合う時が来たのだ。
〇〇〇「遂に後書きに生を受けることが出来た!」
●●●「自己紹介は次回に!」