レホラの異能者
戦闘描写は難しい(真顔)
ヤカサスの後ろから出てきた人物を見て、フィオンは声を上げた。
その口から出た人物は、事前に俺達の中でも名前が挙がり、そして今回の目的の人物でもあった。
今俺達が地面に貼り付けられ動けないのは、恐らく異能によるものだろう。
あの2人のどちらがこの能力を持っているのかは分からない。
事前の話だとキャロルは恐らく敵対しないだろうということだったが、この現状を見るにその予想は外れたようだ。
いくら力を入れても、押さえつけられているかのように身動き1つ取れない。
ヤカサスは元々敵対するだろうとのことだったが、キャロルまでそうなるとこの状況は非常にまずかった。
「どういうことだキャロル!!」
動けないながらも声を振り絞るフィオン。
それを見るキャロルの瞳には冷たいものがあった。
「どういうことだとは可笑しな話です。あなたはこの国でも最大の指名手配人なんですよ? この対応は当たり前ではないですか?」
「・・・・・・ぐっ!?」
キャロルの言葉と同時にフィオンにかかる圧力が増した気がする。
このことから恐らくこの能力を持っているのはキャロルなんだと予想することが出来た。
問題はヤカサスの異能だ。王族なので持っていることだけは確実だ。
しかしフィオンも見たことは無いらしく何も情報が無い。
押さえつけられているこの現状を脱出するだけならば霧化を使えば簡単だが、ヤカサスの異能が分からない以上迂闊に動くのはあまりにもリスクが高すぎる。
どうにかフィオンに目配せをして打開策を探る。
友達だと言っていたキャロルに裏切られた直後だが、流石というべきか、気持ちを切り替えて思考を巡らせている様子だった。
数秒の後、フィオンの瞳には力が宿る。
この状況を強行突破する方向にしたようだ。
フィオンは直ぐに行動に出る。
地面を盛り上げヤカサスとキャロルの視界を塞いだ。
しかし直ぐに目に見えない圧力によって崩される。
何の意味も無いように思えたこの行動だが、1瞬でも隙が出来たならば不意を打つことなど容易だった。
霧化により脱した俺はそのままキャロルの背後に回り込み気絶させるべく手刀を放つ。
殺してしまうのが安全択だが、フィオンが友人と呼んだ相手を殺してしまうことは心苦しかった。
背後に現れた俺にキャロルは気が付いていない。
俺の手刀は確実に入る――――――はずだった。
「甘いね」
ヤカサスが視線も向けずに呟いたと思うとキャロルに当たるはずだった手刀は見えない壁のようなものに阻まれて届かなかった。
「なっ!?」
「僕の異能を知らないんだろう? いくら警戒してようが見えないものをどうにかする術はあるまい」
完全に不意を突かれた形になったのは俺の方だった。
腹に強い衝撃。ヤカサスの回し蹴りが腹に直撃して、腹の中の空気が吐き出される。
地面に倒れるのと同時に先程と同様強い圧力によって押さえつけられる。
振り出しに戻ったが、ヤカサスの異能を軽くだが見ることが出来た。
考えられる可能性としては2つ。
1つは物を透明にする力。もう一つは見えない壁を生み出す力。
可能性が高いのは後者かだと予想する。
さてあまり思考に時間を割くわけにもいかない、次の手を考えなければ。
と、いった所でフィオンが動いた。
今まではかなりの思考を戦闘中に割いていたが、俺よりも知力で勝るフィオンとならある程度思考を放棄して戦闘に集中しても問題無いだろう。
フィオンは自身の真下の地面を斜め前にせり上げ圧力から脱する。
今まで縛られていたのは恐らくヤカサスの異能を観察する為だろう。
フィオンの方でもある程度予測が付いたから勝負に出ることにしたようだ。
ならばと、俺は再び霧化をし脱出する。
異能者と1対2では流石に分が悪いが、フィオンも戦闘に参加するとなれば話は変わってくる。
フィオンの正面からの攻めに対して俺は側面から攻める。
「キャロル! 私と一緒に来い!」
見えない壁に阻まれフィオンのマフラーから剣に変化させて放った1撃を止められつつもキャロルを説得しようとする。
「甘いですよフィオン。あなたが今取るべきだった行動は私の説得ではなく、どうにかして逃げることです」
「そうだぜフィオン。お前には情報が少なすぎるんだよ、それで僕たちに勝てるとでも思ったか?」
ヤカサスの言葉の後、フィオンは地面に貼り付けられる。
フィオンは脱出を試みるも何も起こらない。
流石にまずい状況になり、後のことは考えずにヤカサスへ突進する。
しかし勢いが一番付いた瞬間、見えない壁に阻まれた。
勢いよく壁にぶつかった為視界が揺れる。
その隙を見逃してくれるような相手ではなかった。
「いちいち脱出されんのは厄介だが、意識を奪えば関係ないよな」
よろけたところに強い衝撃を受け、意識が暗転する。
消えゆく視界の中、フィオンも同様に意識を奪われているのが見えた。
明確な敗北であり、調査班の中でも実力が抜けている2人が負けるという最悪の結末を迎えた。
早くも強さがインフレしそうで怖いですが、きっと読者も強キャラは好きだと信じたい……