シャクストの異能
話し終えたフィオンは一息付き、身体の力を抜く。
霧に隠れ薄くしか見えない月を見上げるフィオンが、今何を考えているのかはラクリィのは分からない。
ミストライフが出来た経緯は元々聞いていたし、フィオンも何かしら関わっているんだろうとは感じていたラクリィだが、まさか本人が直接作るきっかけになったとは思っていなかった。
「色々知ってるなとは思ってたが、レホラに居た頃は研究者だったんだな」
「ミストライフの人数が増えるにつれてそっち方面のことは任せることにしたんだ。戦いのレベルが違い過ぎてそもそも調査班のメンバーは少ないからな。戦える私がいつまでも研究してる訳にもいかないさ」
数年前とはいえフィオンを圧倒したシャクストの実力は計り知れない。
「今シャクストと戦って勝てると思うか?」
「一対一ではまず無理だろうな。私とラクリィの二人掛かりでも運が良ければといったところか、全員で掛かれば恐らく勝てるだろうが」
「それ程か・・・・・・」
フィオンは弱点がほぼ無いと言っていい。万能な異能に高い水準の魔法に武器の扱い。更には予知にも近い戦術予測で戦闘の流れを完全に握って戦ってくる。
そして、俺もメリユースで兵士をやっていた時に比べてかなりのレベルアップをしている。
少なくとも今まで出会ってきた奴で負ける可能性があるのは、片手で数える程だと自負している。
そんな二人が揃っても勝てる見込みが少ない相手がいるとなると、自信を無くしてしまいそうになる。
「シャクストには直属の配下のような者がいる。勿論全てを知っていて尚付き従う奴らが。私が知っている情報はそこまで多くないが、人数の有利も恐らくは期待出来ないだろう」
フィオンの話に出てきた二人。マクワヤードとリオンと言ったか。
こうしてミストライフがあるのだから逃げることは出来たのだろうが、どれほどの実力なのだろうか。
「シャクスト以外の実力はどんな感じなんだ?」
「あー、そういえばそうだな。リトンに関しては心配しなくてもいい、追ってきた時に仕留めたからな。マクワヤードに関しては正直分からん。リトンと同程度ならばこのメンバーであれば後れを取ることはない」
聞いている限り、異能の類を持っているとは思わない。
リトンが既にフィオンによって倒されていることに驚いたが、そもそもフィオンに勝てるのがおかしいのであって、一人であれば返り討ちにされるのは不思議ではなかった。
逆に何故その程度の奴にフィオンを追わせたのか気になる。
シャクストがフィオンの実力を見誤っていたとは考えにくい。何か理由があったと考えるのが妥当だろう。
その辺は考えても今は答えが出ないので、仕方がないが。
「それにしてもシャクストはどんな異能を持ってるんだ?」
「あー、そういえばお前とアロマにはまだ話してなかったな。すっかり忘れていた」
「そんな大事なこと忘れないでくれ・・・・・・」
「すまんすまん。シャクストの異能は単純なものだ。身体強化、自身の肉体的能力を上げるものだ」
「なるほどな。確かに単純だが、強力だな」
特別なことは何もないが、身体能力の差は戦いに関してはかなり大きな有利となりえる。
攻撃を受けるにしても圧倒的な力の差に押され、素早い動きであり得ないタイミングから反撃される。
五感も強化させるのならば小細工も通じにくい。
フィオンが相手でも余裕を持てる理由が何となくわかった。
「何か有効な戦い方があったりするか?」
「結局は正面から戦うしかない以上、回避するかガードしつつ攻撃を当てるしかないな。生半可な攻撃ではダメだが、それなりのものであれば奴とて人間だ、倒すことも出来るだろう」
「でもガードはほぼ不可能なんじゃないか? 回避はある程度ならどうにかなるだろうが」
「ガードに関しては今回回収する私の武器があれば大丈夫だ。どんな怪物の攻撃だろうと砕けたりすることはない」
フィオンの異能であればガードはリスク無く行える。
しかし攻撃に耐えうる耐久力が無ければ意味のない話だ。
今回レホラへ行く目的の一つとして、フィオンの武器の回収というものがあるが、それであれば耐えられるという。
一体どんな素材で作られているのだろう。
耐久力は恐らく宝剣クラスはありそうだが、宝剣はフィオンでもその素材が分かっていない。
つまりはフィオンも知らない宝剣等の素材ではなく、既に分かっている物が使われているのだろうが。
いずれにせよ、万が一シャクストとの戦闘になるのだとしても、それを回収してからになることを祈ろう。
「さて、そろそろ交代の時間だ。次の二人を起こして私達も休むことにしようか」
まだまだ、先は長い。
考えておくことも多いが、休む時は休んだ方がいいだろう。
フィオンの作った家のような物の中で、ゆっくり眠ることにした。
次回レホラに到着します。