フィオンの過去4
訳が分からなかった。
火の消火のことなど頭から抜け落ちてただ立ち尽くすフィオンに、シャクストは邪悪な笑みを浮かべて言葉を続ける。
「お前のという奴を知った時何としても手に入れたくなったよ。子供だとは思えない程の頭脳もそうだが、1番の理由は異能だ。ただの異能者であれば味方になりそうならいいという程度だが――――――」
楽しそうにシャクストは語る。
「万物を操るその異能、正確には元素を操る力だったか? それは王とも対等になれる程の可能性を秘めている。だからこそ俺はフィオン、お前が欲しいのだ」
「そ、そんなことの為に私の親を殺したのか!?」
聞いているうちに段々とシャクストの言葉が耳に入ってくるようになり、フィオンは意味を理解して激昂する。
「教えてやろうフィオン。この世界を統べる俺達のことを」
相変わらずシャクストはフィオンの言葉に何ら耳を貸さない。
そして一方的に語りだしたその内容にフィオンは再び絶句することになる。
この世界における王という存在。戦争の裏側に隠された真実。更には霧のことまで。
今までの努力は無駄だったと言われるようなそんな内容。
そもそもあの花が隠されていた理由がこれなのだ。
「霧の原因であるあの花は霧魔花といってな。誰にもバレねえように隠してたはずなんだが、お前が見つけたんだろう? 全く、そのせいで無駄に殺すことになったじゃねえか」
「何故それで私の仲間達を殺すことになるんだ!!」
もう先程からそうだが、フィオンはシャクストに対する口調が荒いものになっていた。
どんな状況でも思考回路だけは冷静になるフィオンは、色々なものを正確に判断しシャクストが敬意を払うような相手ではないと結論を出す。
だが思考回路は冷静でも感情は別だ。
シャクストが、正確にはリトンだが、火を放った理由など分かり切っていた。
それでもなおフィオンは感情のままに叫んでしまう。
敬意は捨てたが、まだほんの少し残る迷いを断ち切るためにその答えをシャクストの口から欲したのかもしれない。
当のシャクストはとても呆れたような様子だ。
「んなこと言わなくてもわかんだろ。知ってしまった以上生かしてはおけねえってやつだよ。お前は別にいいが、この中にいる奴らは別だ。生かしておくメリットがない」
全て嘘であってほしかった・・・・・・。
完全に迷いの断ち切れたフィオンは壁に手を当てる。
「エレメントオペ・・・・・・クラフト!」
壁に使われている素材から剣を作成する。
素材が素材なので粗悪品だが、生身の人間と戦うのには十分だろう。
「おいおい! まさか俺と戦おうってか! もう少し育ったお前ならまだしも、今じゃ勝てる見込みなんてないぞ!」
小馬鹿にしたように言うシャクストなど気にせずにフィオンは剣を構える。
「殺す!!」
ただそれだけを考えてシャクストに斬りかかった。
フィオンは戦闘技能に関しても周りとは比べ物にならない程だった。
リレンザという良い師を持ち、それなりの肉体スペックと異能。そして状況を正確に判断出来る思考能力により、殆どの人間は相手にもならない程に。
それでも今回は相手が悪かったと言わざる負えないだろう。
シャクストは王である。この世界の王とは他の何よりも強いとされる存在であり、本来人が1人で立ち向かうような相手ではないのだ。
「遅ぇなぁ!」
何の構えも取らずに立っていたシャクストだったが、剣が当たる瞬間に恐ろしい速度で動きフィオンの腕を掴む。
両腕を掴まれた状態のフィオンはただシャクストを睨むことしか出来ない。
それとは対照的にシャクストは気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「どうしたフィオン? 今なら俺を殺せるぞ」
「何を言う、そんなことは不可能だろ。仮に床に異能を発動させてもお前なら回避するだろうからな」
シャクストの持つ異能をフィオンは知っていたために否定する。
そんなフィオンの言葉を聞いたシャクストは途端につまらなそうな表情になった。
「話にならねえな」
飽きたおもちゃを捨てるようにシャクストはフィオンを投げる。
かなりの勢いだったので、どうにか受け身をとっても身体に痛みが走った。
「くぅ・・・・・・」
「フィオン!!」
マクワヤードと戦っていたリレンザが見かねてフィオンの元まで駆け寄ってくる。
「・・・・・・これ以上は――――――フィオン、逃げるぞ」
リレンザはこのままでは殺されると判断して逃げることをフィオンに言った。
「何を言っている! ここで逃げたら皆が!」
「もう無理だ! どう頑張っても今はシャクストに勝てない! 同じ結果なら将来的に勝つことを考えろ! 賢いお前なら分かるはずだ!」
「そんな・・・・・・」
リレンザの言っていることは残酷なまでに正しかった。
助けたければシャクストを倒さなければいけない。しかし今のフィオンではどう足掻いても勝てない。ならば、今は生き延びて力を身に着けるしかない。
シャクストの物になる選択肢が無い以上、ここは退くしかなかった。
痛む身体を奮い立たせ全力で撤退する。
「追えリトン。殺すんじゃねえぞ」
「はっ! お任せください!」
リトンはシャクストの命令のままに追いかけていく。
その場に残るのは焦げた匂いと、シャクストとマクワヤードだけになった。
「よかったのですかい? リトンだけだと多分捕まりませんぜ」
「別にいいさ。逃げたとしても次に会うときはきっともう少し俺好みに仕上がってるはずだ」
シャクストが言いたいのは女としての魅力ではなく、強いか弱いかということだけだ。
まだ自信の異能の本当の恐ろしさに気が付いていない、あるいは目を逸らしているフィオンの成長に期待を込めてシャクストは去って行った。
終わりました! 少し怪しかったのでホッとしてます