フィオンの過去3
その日の夜は、祭りのようになっていた。
王城の中の使用を許可された一室で研究者達全員が集まり宴が行われていた。
普段落ち着いた雰囲気な研究者達だったが、世紀の大発展を前に実験や考察ではなく、その喜びに全力で浸ることに夢中になっていた。
霧の原因発見の1番の功労者と言っても過言ではないフィオンは、本来ならば誰よりも騒ぎ、喜んでいるはずなのだが、他の研究員達の勢いについていけずにいた。
元々フィオンはこういった雰囲気を進んで楽しむタイプではないのだ。
しかし喜んでいないわけではない。
むしろフィオンも一緒になって喜びを叫び、今この時を楽しみたいとは思っていた。
両親が死んでから、フィオンは研究にほとんどの時間を注ぎ込み、遊んだりといった行為を殆どしてこなかった。
嬉しいや楽しいと思ったことがこれまで無かったわけではない。
研究自体は楽しかったし、成果が出れば嬉しかった。
こういった方面の事柄に対する楽しみ方を知らないだけである。
「なあフィオン。あの花はどこで見つけて来たんだ?」
酒臭い大人達に囲まれて戸惑っているフィオンに研究員の1人が聞いて来る。
「あ、ああ。気分転換に外に出たら偶然発見したんだ」
唐突な質問にフィオンは適当に答えてしまった。
本当のことなど言える訳が無いので、咄嗟に浮かんが本当に適当な返事である。
「とんでもない偶然もあるもんだな。しかしそれを見逃さずにしっかり採取してくるフィオンは流石だな!」
「お前当然だろ! 我らの天才少女だぞ!」
「違いない! 我らが天才少女フィオンに乾杯!」
「は、はは・・・・・・」
どうにか誤魔化せたとホッとする。
酔っ払い達に持ち上げられすぎて乾いた笑いが出るが、内心はとても嬉しかった。
暖かい気持ちのままフィオンも楽しく談笑に混ざる。
ただ1人、フィオンの適当に放った言葉に疑問を持った者がいた。
――――――――――
深夜には騒いでいた研究者達も酒の影響で眠気が来たようで、その場に死んだように雑寝していた。
まだ酒の飲める年齢ではないフィオンは起きており、部屋の中の現状に呆れていた。
「全く飲み過ぎだ」
上層部への報告もとっくに済んでおり、やることもないので今日もう自室でゆっくりしようと部屋を出るとリレンザが立っていた。
酔った様子もなく、真剣な顔でフィオンを見つめていた。
「フィオン、あの花をどこで手に入れた?」
「なんだ藪から棒に。さっき説明したじゃないか」
冷や汗が出るが平静を装い返事をする。
「いつも冷静でミスも殆どしないお前だが場の雰囲気に当てられたか? さっきの説明にはおかしな点があった」
「おかしな点? ・・・・・・そうか、確かに痛恨のミスだな」
フィオンがした説明は外で偶然見つけただ。
リレンザの言う矛盾とは、何故外で見つけたならばその場で花が霧を発生させていると分からないのは、おかしいということだろう。
「きちんと説明してもらうぞ」
「その必要はないぞ」
フィオンが仕方がないと説明しようとすると、2人のものではない声が割って入ってきた。
暗い廊下の向こうから現れたのはレホラの現国王シャクストだった。その後ろには見たことのない人物が3人いる。
突然シャクストが現れたことにフィオンは驚愕する。
しかしフィオンと共にいたリレンザは別のことに驚いていた。
「んな!? 何故マクワヤードとリトンがいる! お前達は死んだはずだ!」
「細かいこと気にしてんじゃねえよババア。シャクスト様、始めます」
「おう。中の奴は残すんじゃねえぞ」
状況が理解出来ないフィオンを無視するようにシャクストとリトンと呼ばれた人物が何かを話していた。
そしてリトンが唐突に先程までフィオンもいた部屋に向け火の魔法を放った。
「なっ!? 何をしている!!」
「なあフィオン、お前は天才だよ。その歳で霧の発生原因にまでたどり着いた、それは誇っていい」
「シャクスト様! そんなことより中の者を助けなければ!」
「俺はお前が欲しい。俺の物となり共に世界を握るんだ!」
「何を言っているんですか! そんなことは後でゆっくりでも・・・・・・」
フィオンの言葉など気にもせずシャクストは一方的に訳の分からないことを言ってくる。
その間にも火の手は確実に広がっていた。
中にいる研究員達は酔った挙句に寝ている。放置しておけば結果は目に見えている。
不敬ではあるが、シャクストの言葉を無視して氷の範囲魔法コキュートスを発動させようとする。
だが、シャクストと共にいたマクワヤードという人物が剣を抜き斬りこんで来て邪魔をされる。
「フィオン!!」
立ち尽くしていたリレンザだが、フィオンに危機が迫り動いた。
洗礼された風間法ウィンドブラストがマクワヤードを軽く後退させる。
「ちっ。リレンザの婆さんよ、もう少し身体を労わったらどうなんだい?」
「あんたに心配されるほど鈍っちゃいないよ」
リレンザのお陰で魔法を放つ隙が出来た。
再びコキュートスを放とうとすると、シャクストがフィオンと部屋を遮るように立ちはだかった。
「退いてくださいシャクスト様!!」
「はぁ、少しは俺の話を聞けよ。流石に酷いんじゃないか?」
「そんな悠長な!」
「ならこういうのはどうだ? お前の両親が事故死するように仕向けたのは俺だ」
「――――――え?」
シャクストの放った言葉の余りの衝撃にフィオンの思考は真っ白になった。
終わりませんでした・・・・・・ごめんなさい。。。