掴む感覚
フィオンによる援護のお陰で、致命的な攻撃は食らわずに霧化の練習が出来ていた。ただ、細かい傷が徐々に増えてきているので、あまり長引くと危ないかもしれない。
ヨルムンガンドはかなり気が経っている様子だ。恐らくは、こちらがなかなか倒れないからだろう。
「ラクリィ次が来るぞ!」
フィオンは的確にヨルムンガンドの攻撃を読み指示をしてくれる。
それなりの距離を保って戦っているおかげか、毒液の攻撃しかしてこないので、かなり都合が良かった。
毒液を回避するときに霧化を意識する。まだ成功はしていないが、繰り返す度にその感覚を強く掴めてきている気がする。
この世界のどこにでも存在する霧の中を泳ぐように、地から足を放すような、跳ぶではなく飛ぶような、そんな感覚を強くイメージするようになっていた。
「どうだラクリィ、そろそろ時間も無くなりつつあるが」
「もうそんなに経つか・・・・・・。でもあと少しで掴めそうなんだ」
「ならそろそろ近接戦闘に切り替えるか。危なくはなるが、その分感覚的なものは掴みやすくなるかもしれない」
確かにフィオンの言うことは正しいと思う。戦場でも危ない状況程、体が感覚的に動いて何とかなったりする。
俺は頷いて返し、ヨルムンガンドに接近した。
こうなると、ヨルムンガンドも攻撃パターンを変えてくる。先程まで毒液がメインだったが、今はその大きな体を存分に使って攻撃を繰り出してくる。
考えずに感覚的に動く。回避がギリギリになるので、叩きつけ等で飛んでくる石の礫が頬や腕を掠め傷が増える。
あと少しとなって湧いてくる焦る気持ちを必死に押し殺して何度もトライする。
数度の攻撃を掻い潜ると、唐突にヨルムンガンドが大きく態勢を変えた。
何が来るかと身構えると、ヨルムンガンドが体を捻り胴体をそのまま横薙ぎに振ってきた。
ここまで近い距離で放たれた広範囲の横薙ぎは、どうあがいても避けようがない。ただ、俺にそれに対する焦りはなかった。
身を低く屈めると、それと同時に人が2人は入れる程の大きさのそれなりに深い穴が足元に出来上がっていた。
足を挫かぬよう着地すると、地面を抉りながら通過するヨルムンガンドの体が頭上を通りすぎた。
「ラクリィお前避ける気なかっただろ!」
「あの場所じゃどう頑張っても避けるのは無理だったさ。それに頼れる仲間を信じてたからな」
「ふ、ふん。褒めてもなんも出ないぞ」
俺の言葉にフィオンはそっぽを向いてしまうが、多少嬉しそうなのは分かった。
「とにかく戻すぞ。頑張ってこい」
穴が戻りきる前に穴から飛び出して走る。
「っ!? ラクリィ!」
フィオンの声が聞こえたが既に遅かった、というよりも自分で分かっていた。
あんなに大ぶりの攻撃をしたのにも関わらず、ヨルムンガンドは態勢を立て直していて大きな口を開けて待っていた。
回避は出来ない、フィオンからの援護も望めない。せめて飛び出さずに穴が戻ってからなら、フィオンも間に合っただろうが。
そんな反省をしても今更遅い。もう刹那の間に飲み込まれてしまう。
「ラクリィ!!」
フィオンの叫び声が聞こえたが、俺の頭は既に考えることを辞めていた。
――――――――――
目に映ったのは、まだ仲間になったばかりの、しかし信頼のできる仲間がヨルムンガンドに飲み込まれていく光景だった。
今しがた私に向かって面と向かって信じてると言ってくれた男だ。柄にもなく恥ずかしがってしまったと自分でも思っていた。
思わず叫んでしまう。だが、叫ぶだけでは何も変えられないことは、私自身が1番分かっていた。
また私は失うのか? こんな簡単に・・・・・・。
いつかの光景がフラッシュバックする。そんな私を無視するかのように時は進みラクリィはヨルムンガンドに飲み込まれてしまった。
「くっ、何をやってるんだ私は!」
無理やり自分を奮い立たせ、ヨルムンガンドを殺すことに意識を集中させる。今ならまだ間に合う可能性はあった。ラクリィの身体能力であれば上手くいけば、かみ砕かれずに生きているということもある。
幸い、ヨルムンガンドは殺すだけならそうてこずらない。時間との勝負だった。
「アイスブラスト!」
ラクリィとの模擬戦の時とは比べ物にならないほどのサイズのアイスブラストを放つ。決定打にはならないが、ヨルムンガンドは態勢を崩した。
「待ってろよラクリィ・・・・・・」
そのままヨルムンガンドに止めを刺すべく走ろうとした。だが1歩踏み出そうとしたところで、突然後ろから腕を掴まれた。
「っつ! 誰だ!?」
咄嗟に掴まれた手を振り払い、振り向いて剣を構える。
「待て待て! 俺だ、ラクリィだよ」
そこにはヨルムンガンドに飲み込まれたはずのラクリィが立っていた。
何か書こうと思ってたけど、忘れました(泣)