ヨルムンガンド再戦に向けて
最近疲れが取れずに帰ってくると寝てしまう。
ヨルムンガンドは結局討伐されていなかったらしい。そもそもの問題として、討伐どころではなくなっていたが、どうやらそれに関しては既に落ち着いたようだ。
メリユースの軍は既に撤退しており、ある程度なら派手に戦っても大丈夫だという。
しかし、勝てるかどうかと聞かれても無理だろう。
前に戦った時は、実力のある4人で挑み負けている。今回は俺とフィオンだけだ、どう頑張っても勝てるとは思わない。
だが、リレンザがどう考えても無理なことを提案するとも思えない。フィオンも特に反対しているわけでもない。つまりは何か考え、もしくは俺が知らないだけで、簡単に倒す方法でもあるのだろう。
「ヨルムンガンドが倒されていないなら、俺としてもリベンジしたいが、どうやって俺とフィオンだけで勝つんだ?」
「ん? 普通に戦って核を破壊するだけだぞ」
俺の問いに対して、黙っていたフィオンが当然とばかりに答える。
「ヨルムンガンドは大型霧魔獣の中では弱いほうなんだ。まあ、詳細などが知られていないのは霧と同様に秘匿されているからなんだが・・・・・・」
「そうだったのか」
「フィオンの言っていることは本当だぞ。ヨルムンガンドは他の奴と違い魔法による攻撃をしてこない。その分、力は桁違いだがな。動き自体はそこまで早くないし、毒液だけ気を付ければ、額の核を破壊するのは難しくないだろうさ」
フィオンとリレンザが説明してくれるが、いまいちピンとこない。けど勝てるというのならば、それを信じて戦ってみようと思う。
忘れてはいけないが、そもそもの目的は俺の中にある力を確認することにある。
まずは、ヨルムンガンドと戦う前に出来ることはやっておこう。
「そういえば、フェンリルの身体に剣で突き刺さした傷が出来たと言っていたが、それは消えていた間に斬りつけたのか?」
「あー、いや違うと思うぞ。突き刺したにしては傷の幅が広かった。そいつの持っていた剣ではそうはならないはずだ」
ならばまだ俺の知らない能力があってもおかしくなさそうだ。正直検討はつかないが、とりあえずは自身を霧化させられるか試すのが先だ。
「そういえば勝手に決めちゃったが、フィオンはいいのか?」
「逆にラクリィ1人なら許可は出さなかったさ。恐らく面倒くさいことになるからな」
「どういうことだ?」
「まあ気にするな、何もない確率の方が高いと思うからな」
と、言いつつフィオンはその何かが起こると確信しているようにも見える。恐らくは俺に関係してくることだろうと思ったが、フィオンが深く説明しないのならばこれ以上は聞かないでおこう。
とりあえずは、ミストライフに入って最初にやることが決まったので少し安心する。
忙しすぎるのもどうかと思うが、流石に訓練や手伝い以外に何もしていなかったので、逆に落ち着かなかったものだ。
「とりあえず言いたかったことはこんなもんだよ」
「貴重な話が聞けて良かった。これからもよろしく頼むリレンザ」
「ああ、私の代わりにフィオンを支えてやってくれ」
「ラクリィ、お前は先に戻っていろ。私はまだ話すことがある」
フィオンもこう言っているので俺は部屋に戻ることにした。
――――――――――
「フィオン、あんたから見てラクリィはどうだい?」
リレンザはラクリィが出て行ったのを確認してから問いかけてきた。
「実力は申し分ないな。戦力が少ないミストライフにとってはかなりいい広いものをしたと思ってる」
「私が聞きたいのはそういうことじゃないよ」
そんなことは分かっていた。正直に答えるのが少し気恥しかったのだ。
「――――――思っていた通りの奴だよ。考えも志も私に近いものを感じる。ただ、少し危うい感じはするがな」
その理由は分かっていた。それはあの赤髪の少女のことだろうと。
実はメリユースの軍がヨルムンガンド討伐に乗り出す少し前に、ラクリィとアロマが緑流亭で食事をしていた時の会話を、潜入中のフィオンはたまたま聞いてしまったのだ。
戦争に対する2人の考えや目指すところに近いものを感じて、どうにか2人を仲間に出来ないものかと考えた。
だが、冷静に考えてアロマを引き入れることは少しためらわれた。理由は単純、彼女は王族であり、ミストライフに入った先で必ず自分の肉親と戦うことになる。
その最中でためらいや裏切りが必ずないとも言えなかった。
と、なるとラクリィに関しても厳しいものがあった。
見たところ、アロマという人物はかなりラクリィに依存している節があった。依存というより、寄りかかっているといった方が正しそうだ。
アロマの心は強そうには見えない。ラクリィという寄りかかる人物がいるからこそ、心を保てているように思えた。
そしてそれをラクリィ自身も無意識に感じているようだった。
そうなるとラクリィが、アロマから離れて1人でミストライフに来るとも思えない。
「ラクリィがもう1度アロマと会うことがあれば私が責任をもってどうにかするしかない。今回私が着いていく理由がそれだ」
「フィオンは今回偶然にも2人が鉢合わせると思っているんだな」
「勘だが、ほぼ確信している。アロマがそう簡単にラクリィを諦めるとも思わないしな。ま、もう返してやる気もないが」
「全く・・・・・・」
私が小さく笑うと、リレンザも呆れるように笑った。