地下都市
暗い階段を慎重に降りていく。俺の探知は全くと言っていい程機能しておらず、先に何が待っているか分からないことから、一瞬の油断も出来ない。
階段自体はファーニーが通れるほど大きく、よくこんなものをバレないように隠したものだと、少し感心した。
「終わりが見えたぞ」
光が見え、階段の終わりがくる。その先に広がっていた光景は、想像を超えたものだった。
「これは・・・・・・」
人が住んでいたであろう形跡、しかもかなりの規模だ。王都程ではないが、この規模となると村では済まされない。
「何故こんな場所が・・・・・・」
あまりの衝撃にフィオンは絶句している。
「とりあえず行きましょうか」
ここで何が行われていたか、それはこの際どうでもいい。問題は霧魔花の在りかだ。
ボロボロの建物の間を進んでいく。崩れているところから中を覗いてみると、一杯的な生活に必要な物もあれば、どういう用途で使うのかよく分からない物もある。
霧魔花がありそうな雰囲気ではない。何処かに別の区画へ移動できる場所がありそうだ。
「ラクリィ、探知は?」
「無理だな・・・・・・霧自体は使えそうだが、何かに阻害されて周囲のことを把握するのは出来そうにない」
使えないものは仕方がない。自分自身の目と耳を使って警戒しよう。
それなりに広い街並みを歩いていると、何処かで何かが動く音がした。
「何かいるぞ」
フィオンも気が付いており、呟くとともにいつでも戦闘出来る態勢に全員が移行した。
耳をすましていると、何かが素早く走る音が聞こえる。移動の仕方から、俺達の周囲を走り回っているようだ。
「ガァァァァァァァ!!!」
雄叫びが聞こえた瞬間、建物の奥から大きな生物が跳躍して襲い掛かってきた。
大型の霧魔獣なのは間違いない。鋭い牙に鋭い爪、白銀の体毛に身を包んだそいつは、狼型という特徴を考えると、俺がミストライフに入りたての時、リレンザの話に出てきたフェンリルではないかと予想出来た。
迫るフェンリルに対し、攻撃しようと構えるとファーニーがフェンリルに突撃して吹き飛ばした。
「グァ!」
ここは任せて、そんな意思を込めた瞳でファーニーはこちらを見つめてくる。
「行くぞ皆!」
足を止めていてはファーニーの意志を無駄にする。俺は皆を急かし前に走り出した。
大型霧魔獣の中でも特出した力を持つファーニーならばきっと大丈夫だ。俺達の侵入が恐らく気が付かれている以上、時間を掛けたくはない。
建物の間を駆け抜け、先に進んでいく。こちらに霧魔花に繋がる道があるかは分からないが、一先ずここを抜けなければどうしようもない。
がむしゃらに進んだ結果、状況は好転する。
さらに地下深く潜る階段を見つけ、そこを降りることにした。
長い螺旋階段の先、どんな光景が広がっていると思っていると、そこには森があった。
「地下に森・・・・・・もう何でもありだな」
「ですがここが当たりだと思って良さそうですね。その証拠に、ほら」
森の先からシャクストとシャクラが歩いてくる。相変わらず生気は感じられない。
「やっと出番ですか。腕が鳴りますね」
「ん。さっさと倒す」
「フィオンとラクリィさんは先へ、きっといるはずです」
「分かった。頼んだぞ」
「走ってください、加速させますので」
キャロルがそういうので、思いっきり踏み込み走り出す。
すると何かに押されるように身体が飛び、一瞬でシャクストとシャクラの横を過ぎ去った。
「これは凄いな」
「キャロルの異能は汎用性も高いからな。様々な使い方が出来るんだ」
「敵じゃなくて本当に良かったよ」
「それには同意だな」
軽口を叩きつつも、一切の油断はしていない。硬くなりすぎても良くないので適度にリラックスだ。
加速の勢いを殺さず森を駆け抜けていくと、ようやく奴が姿を現した。
「やあ、よく来たね、と言っておこうか」
「ハクラ・・・・・・」
「良い心地だ、身体に力が漲る。これが全能感ってやつかな? 何でも出来る気がするよ。世界を統べることなど造作もないだろうね」
「はっ、何が全能感だ。何でも出来るようになる前に、お前は俺達に倒されるんだ」
威勢よく言葉を返してはいるが、前回対峙した時とは比べ物にならない程の圧をハクラからは感じる。神になると言っていたが、それに近い何かにはなっていそうな予感がする。
「色々と話をしたいところだけど、私にもやることが多くてね。これ以上の邪魔は出来ないように先に君たちを排除しちゃおうか」
五十本近くの霧の剣を生み出したハクラは、とても邪悪な笑顔で戦闘態勢に入った。
霧魔花までは今だ辿り着けていないが、最終決戦とも言える戦いが始まった。
VRくん「これで全部の戦闘が始まるな」
VRちゃん「次回からは戦闘描写ね」
VRくん「熱い展開の始まりだな」
VRちゃん「どの視点からスタートかしら? さて次回! 『仲間の為に』 お楽しみに~」