フィオンの異能
突然鉄の棒が形を変えて襲ってきたのは、やはりフィオンの異能によるものだったようだ。
「お前も異能者だったのか・・・・・・、見るに物の形を変える類の力か?」
離れたところまで追撃してこないのを考えると、唐突に生み出しているのではなく形を変えているのだと予想できる。
流石にあの1瞬では鉄の棒全体を確認出来なかったので、この予想もあっているかはわからない。異能を使って刺を生成したときに鉄の棒が短くなったりするのを確認出来れば確証が持てそうだった。
念のため足は止めずに警戒する。あらかじめ警戒さえできていればある程度は避けれる自信があった。
あまり長く考えていても埒が明かないのでもう1度仕掛けることにする。
俺は魔法の類が一切使えないので搦め手はあまり得意ではない。なので基本的に真正面から相手を打ち破るしかないのだが、フィオンは隠す必要が無くなったとばかりに異能を最大限利用して捌いて来る。こちらもソードミストをフル活用しているのだが、刺の回避もさせられているので攻め切れていなかった。
まず鉄の棒をどうにかしたほうが良さそうだな。
今まで戦場で相手兵士を斬っていた時は、向かってきたところをソードミストにて鎧を無視した一撃を加えるだけだったので武器破壊など考えたこともなかったが、ここにきてそれをやる必要が出てきた。
そもそもラクリィの持つ剣は宝剣だ。鉄の棒がこの剣と打ち合えばあっさり斬られてしまってもおかしくはないのだが、そうならないということは、フィオンには恐ろしいほど高い技量があることを知らしめていた。
だが、武器の破壊に集中すればどうにかなるという自信があった。
狙いが悟られないようタイミングを見計らい――――――
ここだ! 異能剣術、霧返し!!
声には出さずに技を使用する。
霧返しは、1度ソードミストで対象をすり抜けてから剣を瞬時に実体化させ、返しで斬る技だ。
フィオンもこれは予想していなかったのか、反応することが出来ずに鉄の棒は真っ二つになった。
こうなれば先程と同様に攻撃を捌くことはできないと思いたかった。まだ半分になった鉄の棒で捌いて来る可能性もあったが。
いずれにしろ状況は変わった。俺は勢いのまま攻撃を仕掛ける。
フィオンに焦った様子は見られないが明らかに回避の選択率が高くなっていた。
刺を伸ばしてくる距離も短くなっている。手元に一瞬視線をやれば、刺が来たタイミングでやはり棒自体の長さが減少していた。
異能については大方予想通りだと思えた。
このままなら負けないと攻めていたら、フィオンがついに大きく態勢を崩した。
俺の剣がフィオンに迫り決着が着くと思ったのだが・・・・・・
「アイスブラスト!!」
剣を振り下ろす俺めがけて氷の塊が飛んでくる。
反射神経で無理やり回避したが、その隙にフィオンには距離をとられてしまう。
冷や汗をかきながらフィオンへと視線を戻す。今日はこんなのばかりだと思った。
「まだ魔法まで使っていなかったなんてな。流石にもう何も隠してないよな?」
「まさか。これ以上は本当にもう何もないさ。ただ、恐らくラクリィは1つ勘違いをしている」
「勘違い?」
「ああ。私の異能は物の形を変える力じゃないぞ?」
「え? いやだったらさっきのは?」
「刺状にしていたのは、まあ、この異能で出来ることの1つなのは間違いじゃない。まあ見てろ」
若干困惑しているこちらを他所に、フィオンは2つに斬れた鉄の棒を合わせだした。すると斬れていた鉄の棒が何事もなかったかのように元通りになっていた。
「私の異能はエレメントオペと呼ばれていてな、元素レベルでの分解と結合が出来る力だ」
「あー、なんか元素って言われてもピンとこないが、鉄の棒を元に戻したのは結合か。でもさっきの刺は?」
「あれは分解してから瞬時に結合して形を変えているんだ。あと半径1メートル以内くらいなら触れてなくても自由にいじれるからこんなことも出来るぞ」
突然フィオンの足元から沢山の花が生えてきた。勿論本物の花ではない。地面と同じ素材、簡単に言えば石で出来た花だ。
実際に魅せられてもうまく理解は出来ない。このあたりが異能が異能である理由だろうが。
「さて、全ての種明かしも終わったことだし、そろそろ再開するか」
「ここからは正真正銘本気なんだよな?」
「ああ、もう手加減はしない。ラクリィが強いのも分かったし、こっからは本気で行くぞ!」
フィオンは鉄の棒を見事な直剣の形に変える。
ここまで俺の剣の実力を見た後に剣を使ってくるのは嫌な予感しかしない。
いや、この場合は剣だと思わないほうがいいか。
再び剣を構える。フィオンの顔からは余裕そうな表情は消えて真剣な顔になっている。言っていた通り本気で来るようだ。
俺も本気だったかと聞かれれば、そうでもない。まだ余力はあった。だがフィオンが本気になった以上こちらもそうせざる負えないだろう。
ここまで来て、ようやく本気同士の戦いが始まった。